第24話
翌日、アードラー公爵が二人を呼んだ。
執務室に通され、向かいに座った。
公爵は書類を見ていたが、二人が腰を落ち着けると顔を上げた。
「ルッツから聞いた。婚約の意向だな」
「はい」
「ローゼンハイム嬢、異存はないか」
「ございません」
公爵が少し考えてから言った。
「率直に聞く。お前は、この家に何を求めて来た?」
リリスは答えた。
「求めてきたわけではありません。ルッツ様が申し出てくださいました」
「ではなぜ承諾した」
「三年間、ルッツ様と話す中で、信頼できる人だと判断したからです。加えて、この家で働くことが、私の能力を活かせる場だと感じています」
「愛情ではないのか」
「……それが何かを、私はまだよく知りません。ただ、信頼と敬意と、一緒にいたいという気持ちはあります」
公爵が、少し眼の色を変えた。
「正直な答えだ」
「嘘は苦手です」
「ルッツに似ているな」
ルッツが少し咳払いをすると公爵が続けた。
「ローゼンハイム家の現状について、お前は今後どう考えているか」
「父の回復を願っています。家については、財政の立て直しが必要です。ただし私が直接関わる立場にはもうないので、後見人か、王家の指導に委ねるべきだと思います」
「マリアとエミリオの件は」
「王家がご判断されることです。私の見解を述べる立場にありません」
「答えが整理されているな」
「考えてきましたので」
公爵が、短く笑った。
「気に入った。婚約については認める。ただし、正式な発表は半年後にする。それまでにこの家で何ができるか、実績を見せろ」
「承知しました」
「ルッツ」
「はい」
「この女を、守れるか」
「はい」
一言だけ。迷いがなかった。
公爵が頷いた。それで、話は終わった。
廊下に出ると、ルッツが先に言った。
「半年か」
「十分な期間です。何をすべきかは、わかっています」
「俺は、騎士団の入団がある」
「存じています。留守の間も、できることをします」
「……一人でやるな」
「わかっています。でも一人でできることと、助けが必要なことの区別は、ちゃんとします」
「その区別を、俺に言え。自分で決めるな」
「……ルッツ様」
「なんだ」
「それは、言いにくいことも言えということですか」
「そうだ」
リリスは少し間を置いた。
「では一つ言います。昨日の申し込みは、もう少し事前の準備があった方が……」
「次はそうする」
「え、次?」
「婚約発表の日に、改めて申し込む。今度は準備する」
リリスが、また黙った後に言った。
「……覚えておきます」
「そうしろ」
ルッツが先に歩き始めた。
リリスは廊下の石床を一度見てから、後を追った。
胸の中が、静かに温かかった。




