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第15話



 卒業パーティは学園の大広間で行われた。



 天井から吊り下げられた魔石の照明が、柔らかく広間を照らしている。


円卓が十数卓並び、それぞれに花が飾られていた。


卒業生と在校生、それに招待された貴族の親族が集まって、総勢三百人近い人間が広間に満ちていた。



 リリスは定位置を決めていた。



 広間の端、柱の傍。


目立たず、しかしすべてが見渡せる場所。


飲み物を持って立っていれば、誰かと話しているようにも見えるし、一人でいるようにも見える。



 エミリオは来賓席に座っていた。


マリアが隣の席にいた。


二人の間に流れる空気は、もう誰が見てもわかる状態だった。



 父も来ていた。カトレアを伴って。



 リリスは父の顔を一度だけ見た。


三年ぶりに近い距離で見る父は、変わっていた。


肉が落ちて頬が凹み、眼の焦点が定まらない。カトレアの傍にいる時だけ、その目が少し穏やかになる。



(深刻だな)



 カトレアの魅了スキルは、三年の間にずっと働き続けていたということだ。


これほど長期にわたって影響を受け続けると、精神的な依存と身体的な消耗が重なる。



 リリスは視線を切った。



 パーティが始まって一時間が過ぎた頃、エミリオが立ち上がった。



 それだけで広間の空気が変わった。


王族が立てば注目が集まる。


エミリオはその注目を知っている。利用している。



「皆さん、少しお時間をいただきたい」



 声が通った。第五王子として鍛えた声だった。



「本日、重要な発表がある。婚約の件についてだ」



 リリスはグラスを持ったまま、動かなかった。



「ローゼンハイム伯爵令嬢リリス・フォン・ローゼンハイムとの婚約を、本日をもって解消する」



 広間がざわめいた。



「理由は、彼女が公爵家の当主を補佐するに値する令嬢ではないと判断したためだ。我が婚約によってローゼンハイム家は公爵へ昇爵する予定であったが、冷淡で感情を持たぬ女性にそれを与えることはできない」



 静かになった。



「代わりに、マリア・フォン・ローゼンハイム嬢との婚約を発表する。彼女こそ、公爵家の義を担うに値する」



 マリアが頬を赤らめて俯いた。カトレアが満足そうに微笑んだ。



 広間の視線が、リリスへ向いた。



 三百人近い視線が、一斉に。



 リリスは動かなかった。



 グラスを持ったまま、エミリオを見た。



 三秒の沈黙があった。



「承知しました」



 それだけ言った。



 広間がさらにざわめいた。


懇願もせず、泣きもせず、ただ「承知しました」と言った女に、誰もが戸惑った。



「……それだけか?」



 エミリオが言った。どこか、期待を外された声色だった。



「それだけです」


「お前には悔しさというものがないのか」


「殿下にとって望ましい選択をなさったのであれば、私が悔しがる理由はありません」



 エミリオの顔が、かすかに揺れた。



 その時、広間の扉が開いた。



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