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少女装鎧ジノグラフ  作者: 八波草三郎
鴻ノ木正輝

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妖精種(3)

 ひととおりの話が終わったと告げられるとマサキは挨拶をして出ていく。エメルキアも一緒に下がろうとしたがゼアネルヒに呼び止められた。


「エメルキア」

 厳粛な声音で告げてくる。

「はい」

「あれはこの世界の常識を知らぬ男だ。この意味がわかるね?」

「とてもとっても貴重な方だと思います」

 紛うことなき本音である。

「大事にしな。あんたが思うほどに、あれはあんたを大切にするだろう。きっと、これからの生活の要になる」

「だと思います。正直、この身体を維持するのも大変になってきてたので」

「あんたは優しすぎる。パムール島の自然は思ってるよりあんたを愛してる」


 存在を維持するのにぎりぎりの精気だけを分けてもらっていた。それさえも申し訳なく思っていたが、この森はエメルキアを生かしたがっているという。


「変わる予感がする。楽しみだねぇ」

「そうなのでしょうか。わたしはただゆくっりと暮らしていければよかったのです」

「わしのように朽ちていくんじゃないよ。あんたはまだ若いんだ」


 エメルキアは深々と頭を下げてゼアネルヒの家を辞した。


   ◇      ◇      ◇


 聞かせたくない話もあろうかと外で待っていた正輝。しばらくすると少女も家を出てきた。


(ルキは俺を騙すようなことはしない。そもそも、あの繋がりは俺もそうだが彼女の心も丸裸に近い状態にする。あんな悔いばかりの感情に閉じ込めておくなんてできるもんか)


 エメルキアの中にはほとんど自己否定に近い感情が眠っていた。なぜ自分が生き永らえているのか問い掛けるほどの。まずは、彼女が生きていていいんだと思わせたかった。


「帰ろうか」

 誘うと、とても嬉しそうに頷く。

「君の家だけどさ」

「だから、帰るって言ってくれたのが嬉しいんです」

「そっか」


 飛びまわっていたロナタルテが戻ってくる。二人の周りをくるくると回ると、彼の頭にしゅたっと着地した。そこでくつろぎはじめる。


「ところで」

 疑問は多々ある。

妖精種(エルフィン)って定まった形を持たないって話だったけどさ、今のこれ、仮初の姿なわけ?」

「いえ、形態を変えられるだけで構成するものの量は変わらないんですよ。どんな形態にするか自分で選んでるだけです。本来の形があるわけじゃありません」

「一応、質量保存の法則は歪んでないか」

 魔法というのはそのあたりが曖昧すぎて受け入れにくい。

「質量保存?」

「なんつーか、物には決まりの量があって、その全体量は簡単に増えたり減ったりしないって考え方」

「難しいことをおっしゃるんですね。おおむね、その考え方で合ってます」


 エメルキアが手を繋いでくる。その感触が擬似的なものではなく確たるものだと教えたいがためのようだ。包み込むように握り返すと朗らかに笑う。


「でもなー、ここの生き物って簡単に飛んでくれるからさ、意識的に減らしたりできるのかって不安になってね」

 頭の上のロナタルテの体重も感じている。

「幼体からこの繁殖形態に変わるときはすごく量が変わりますね。さっきも話しましたけど、なにかを生みだすときは大量の精気が必要になります。精気ってその質量に関係してそうです」

「おー、なんとなくわかる。俺たち生物はなにかを食べてエネルギーにしてるじゃん?」

「そうですね。わたしたちはそれがとても下手ですけど」

 上手下手の問題でもなさそうだが。

「ルキたちはきっと、エネルギーを食べ物だった質量に変換……、この場合は還元か? それができるんだよ。逆にすごくね?」

「自分のことなのにピンときませんけど、そうなのかもしてません」

「きっとな、意識せずにできるくらい当たり前のことなんだと思う」


 なんとなく理屈が判明してきた。どうやら、この世界も正輝が想像もつかないような突飛な理論で成り立っているのではなさそうだ。


(だったら色々と工夫できそうだな。なにせ、俺にはここにない知識がある)

 いわゆる知識チートも不可能ではないと思う。


 森の中を話しながら歩いていると木立の間を光が舞いはじめる。視界の隅をかすめた光が気になって目を凝らすと、それはロナタルテと同じ小妖精(リトルエルフィン)だった。


「気がつかなかったけど、こんなにいっぱいいたんだな」

 彼は目で追う。

「いえ、集まってきているようです」

「だめー! マサキはロナのなのー!」

「ロナの友達か?」

 ぶんぶんと手を振って追い払おうとしている。

「友達? ううん、家族?」

「疑問符かよ」

「ここの小妖精たちはほとんどゼアネルヒ様の子孫です。あの方は大地の精気を汲みあげる技を心得てらして、数多くの幼体を生みだしておられるんです」


 人間や動物を利用しない繁殖方法があるという。最初は違和感を感じたが、よく考えると当たり前のことだった。


「だよな。そうじゃないと妖精種(エルフィン)って、他の生き物が発達する前、繁殖できずに絶滅してるはずだもんな」

 まったく違う進化系の存在としか思えない。

「あの方ほど長生きしておられないと難しい技ですけど」

「他の動物の力を借りるほうが遥かに効率がいいってやつね。わかるわかる。生き物の生存戦略はどこ世界にもある」

「そうなんですね」


 彼は「集まってこい」と手招きした。ウインドブレーカーを脱いで肌をさらす。接触できるところを増やしてやると一斉にたかってきた。


「ロナのー!」

「ちゃんとロナの分もあるから安心しろって」

「マサキは気前よすぎー!」


 なぜか叱られる正輝であった。

次回『パムール島の暮らし(1)』 「俺、下手なんだ」

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