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少女装鎧ジノグラフ  作者: 八波草三郎
鴻ノ木正輝

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妖精種(2)

「待った待った。今、生殖って言った?」

 正輝は慌ててストップを掛ける。

「はい、この姿は生殖個体だと……」

「いや、それはマズいだろ。どう見たってそういう対象にならない子どもだぜ? そっち方面なら、どっちかっていうともっと成長した姿のほうがよくない?」

「事情があるんです」

 エメルキアはなんてことないように説明を続ける。

「わたしも生まれる遥か昔のことらしいんですけど、人間を対象とした生殖形態として妙齢の姿を取っていたこともあるらしいんですが」

「順当じゃね?」

「『吸精の妖魔』として怖れられ弾圧を受けたそうなんです。なので、危険性を覚えさせないこのくらいの年頃の形態を取るようになったと」

「両極端じゃね?」


 理屈としては理解できた。確かに幼い少女の姿の相手を警戒する者はいまい。普通は、その気になれば跳ね除けられると考える。


「仕方なく、そういうふうに進化したと」

 そう解釈した。

「正確にはこちらを選んだのです。わたしたち妖精種は定まった形を持ちません。環境によって形態を変化させます。例えば、他の動物から精気を分けてもらうなら、その動物の雌形態を取ります。そうしないと生殖行為ができないので」

「躊躇いもなく言わないで」

「なにか変です?」


 どうも、エメルキアは羞恥心とか貞操観念とかに欠けていると感じる。生活様式というか、あからさまにいえば生態の違いから来るようだ。


「とりあえず置いとこう。すると、生殖行為のために人間の少女の姿をしてると?」

 つい口元を隠しながら言う。

「一時期からそうです。人間が一番精気を持つようになったので人の生態に合わせるようになりました」

「人間が一番精気を? 他の生き物と変わらない気もするけど」

「おそらく栄養状態が影響していると思います。いつからか、人間は農耕をし牧畜をし、コンスタントに栄養を得るようになりました。他の動物に比べて確実に効率は上がって繁栄を始めましたので」


 どうやらエメルキアたち妖精種は人間の文明の発達に合わせて形態を変化させてきたようだ。先ほどの、別の動物との生殖行為の話は本当に遥か昔のものらしい。


「ここまではわかった」

 前置きする。

「じゃあ、なんで、その……、人間と生殖行為が必要なんだ?」

「繁殖のためです。小妖精を生みだすには短期間に大量の精気が不可欠で、それを得るのは性行為が最適だからです」

「人間の男と?」

 少女は「はい」と答える。

「君たち妖精種とは別に人間がいるってのは喜ばしいことなんだが、ここの人、倫理観ヤバくね?」

「そうです?」

「いやいや、平気でルキみたいな子どもとそういう行為ができるとかおかしいって」

「よくわかりません」


 のちに正輝が思いだすのは、この常識の食い違いが世界の違いを如実に表している。このときの彼には知る由もないのだが。


「まあ、いいや。そういうもんなんだと思おう。どうも、この世界は俺の常識と掛け離れてるところがいっぱいある」

 生態系含め、あまりに違いすぎる。

「あんまり驚かなかったってことは、ここの人間って俺と同じ姿をしてるんだよな?」

「変わりません。だから、最初は島の外から入ってきたのかと思いました」

「ある意味島の外から来たんだけどな」

 エメルキアは「そうですね」と笑った。

「ここは人が入れなくしてあるんだよ。だから、エメルキアは驚いたのさ」

「そうなのか。それはゼアネルヒ様がやってるってこと?」

「ああ、わしがここを隠した。そうしないと人間の狩り場になっちまうからね」


(狩り場? まさか、ここの人間は積極的に妖精種を捕まえてきてそういう対象にしてるんじゃないだろうな?)

 この悪い予想は当たらずとも遠からずだった。


「そういうことなので、わたしも正輝の精気を黙って吸ってました。ごめんなさい」

 少女は消沈している。

「ああ、寝る前のあれか。ロナもルキも俺の顔に触るの好きだよなって思ってた」

「眠ってる間もちょっとずつ」

「それで一緒のベッドで寝たがったのか。了解了解、ルキにとっては食事だったんだな。なんか安心した」

 自然な行為なので安堵する。

「物を食べるのは補充でしかないんです。ちょっとだけで良くって」

「主に俺の精気が栄養源ってわけだ。全然問題ない。まったくもってなんともないからさ。好きなだけ吸ってくれ」

「気前のいいことだねぇ。わしにも分けてくれるかい?」


 ゼアネルヒまで言ってきたので近づくと手を握ってくる。彼女曰く、吸精には肌の接触が必要らしい。


(まさか、脱ぎ着しやすそうな格好してるのって性行為のためじゃないよな?)


 ゼアネルヒもエメルキアと同じ装束である。マントが朱色なだけで構造は変わらない。腰紐を外せば全開になりそうで危うい。


「本当に大丈夫ですか? 生殖形態は大きいだけ必要な精気も多くなります。人間が食事で精気を大量に生みだせるとしても足りなくなったりしないかと心配で」

 必要としながら案じるのは少女の優しさゆえだろう。

「うーん、たぶんルキが食べる分には心配ない。ただ、繁殖したいと思っても協力するのは考えさせてくれない? そっちはまだ寛容になれそうにない」

「はい。今のところは考えてないです。でも、マサキが優しすぎると思っちゃうかもです」

「勘弁してくれ。優しくするなって言われてる気がする」


 とてもそんな気にはなれそうにない正輝であった。

次回『妖精種(3)』 「わたしはただゆくっりと暮らしていければよかったのです」

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