ライダーとは(2)
息を吸い、そして吐く。吐息がどんなふうに出ていっているのかはわからない。わかるのは、その息が信じられないほど熱いことだけ。怒りで熱せられた身体の中から熱気となって放たれている。
「悔い改めろなんて生易しいことは言わない」
相手を人間だと思えるくらいの理性は残っている。
「一人残らずぶっ飛ばす。あんたらみたいな輩は絶対にのさばらせない」
「うるせ、てめぇ!」
「おるぁ!」
殴り掛かってきた拳に、手首を返して外に逃がす。その動きをバックスイングにすると、正拳を胸の真ん中へと放り込んだ。金属の衝撃音がすると火花が散り、盗賊の装鎧戦士は吹っ飛んでいく。
「その程度か」
盗賊を何人も巻き込んで倒れている。
「ぐ、このやろう」
「ち、側だけは丈夫だな。やっぱ、とことんぶちのめすしかないか」
「ぬかせぇー!」
下敷きになった盗賊の中には血を吐いて昏倒している者もいる。しかし、さすがに装鎧戦士だけはダメージを感じさせない。
(マサキ、外装強度では大きな差は出ません。自分が丈夫なのと同じだけ相手も丈夫だと思ってください)
「そうか。そういう仕組みとか考えたことなかった。そもそも装鎧戦士同士で戦うことになるとは思ってないって」
エメルキアが指摘してくる。
「てめぇ、なに独りごと言ってんだ!」
「なーに、ちょっとした相談さ。どうやってあんたからそれを剥ぎ取ってやるかをな!」
「やってみやがれ!」
どう見ても装鎧戦士のパワーに頼っているだけで武道の心得の片鱗も感じさせない。所詮は荒くれ者で、威嚇と暴力のみでこの世を渡ってきた輩でしかない。そんなのでも適性があれば変身できるのかと思うとがっかりする。
「結局はそういう理屈になってるだけなのか。変身するのに、人を選ぶわけじゃないのか」
それは正輝の願望でしかないようだ。
(はい、契りは人間とわたしたちの関係性でしかなく、選ばれているのではありません)
「ちょっと悲しくなってくる。いや、力と理念は別物だよな。ヒーローだけが力を持っているんじゃない」
(使うもの次第。わたしたちはそういう存在なのです)
少女は大事なことを言ったのだが、このときの正輝は深く考えることをしなかった。ただ、落胆に支配されてしまっている。
(そうだよな。最近のライダーも正義の心をベルトが選んでいるわけじゃなかった。自らの欲求に正直な者でもベルトを手にすれば変身できるんだもんな)
だから、ライダー戦国時代なんてものが成立する。ストーリー的にも販促的にもそれが適しているとわかっても、やはり変身ヒーローが正義であってほしいというのは少年の頃からの願いとして彼の中に厳然と存在する。
「ったく、ぶち壊してくれる」
いわれなき文句だとしても飲み込めない。
「黙ってろ! 今からオレがお前をぶち壊してやんよ!」
「うるさいぜ。あんたには幻滅なんだよ」
「喰らいやがれ!」
大振りな回し蹴りを左腕で受け、右手で足首を取る。軸足を払って倒すと、胸へと拳を叩き込んだ。地面とのサンドイッチで衝撃を逃がせない状態なのに、相手は苦鳴をあげるだけで意識を失いそうにもない。
(どうしたんです、マサキ?)
少女が心配そうな意識を飛ばしてくる。
「どうって?」
(本気で力を込めてないではないですか。それではどうあってもダメージは通りません)
「だって、外側は君と同じ装鎧少女だと思うとつい」
痛めつけたくないと腕が緩む。
(装鎧状態のわたしたちは感覚を持ちません。当然、痛みも感じてません。能力を移譲すると同時に、すべては装着者に肩代わりしてもらってます)
「そうだったか」
(ええ、遠慮はいりません。一人を相手に手間取っているのは危険です)
頭目もいる。最初はもう一人に任せる様子だったが、まったく歯が立たない有様を見て、隙を窺う空気を醸しだしていた。
同時に盗賊たちも剣を抜いている。相手が一人なうえ、味方にも装鎧戦士がいると嵩に着ると、隙間を狙って斬り掛かってきそうである。
「じゃあ、本気でいかせてもらう」
肺に空気を取りいれる。
「調子に乗りやがってぇ!」
「しゃーないじゃん。乗るくらいにあんたが弱いんじゃ」
「っだらぁ!」
必死になって両の拳でパンチをくり出してくる。バフ効果でかなり速くなってはいるが、その分彼の動体視力なども強化されていて全部が見える。指を折り曲げた手刀で捌いていき、間合いを詰めたところで顔面にジャブを入れる。それだけで頭が跳ねた。
「ぐっほぉ!」
「もろすぎる」
離れたのを見て、生身の盗賊が仕掛けてきた。突いてくる剣を手刀で払っただけで途中から折れ飛んでいく。手首のスナップだけで頬を張ると数mも飛んでいってしまった。
次々と襲い掛かってきた盗賊にキックを見舞う。人体と思えないような角度で折れ曲がってしまい緊張するが、うめいているということは死んでない。いくら盗賊が敵だとて殺すまでしなくていい。
「これ、案外加減が難しいぞ」
(それくらいにはパワーアップしているのです。でなければ、メタル進化種に対抗なんてできませんから)
道理も道理である。
「だとしてもさ、装鎧戦士や人間を相手にするには向いてない」
(でも、相手がどうあれ、マサキが戦いを避けるつもりがなくては)
「おっしゃるとおりで」
少し余裕ができて落ち着いてきた正輝であった。
次回『ライダーとは(3)』 「親密度が違うんだよ」




