花のしもべ(1)
布地を手に入れようと宿のおかみさんに尋ねたら、織り機を持っているのはドワッツの一家だという。彼らが村の中で最も休日を取りやすいのでコドニーの街までの用事があるときは頼まれるらしい。
「言われりゃそのとおりだった。農村で何日か掛けて外出できるとしたら、限られた職人の家に決まってる」
「家族のことと村のことしか話しませんでしたもの」
詮索されたくない分、詮索もしなかった。結果が死角となって表れる。気心が知れているだけに買い物もしやすいのは利点。
「いるといいけど」
教えられた家にたどり着いた。すると、ノックする前に家族して扉から出てくる。絶妙なタイミングに呆けてしまった。
「やあ、マサキじゃないか。エメルキアちゃんも。おはよう」
向こうが先に声を掛けてくる。
「ああ、おはよう。用があったんだけど出掛けるとこか」
「今日は糸の木に収穫に向かうとこでね。そうそう、直してもらった車は、村の職人に見せても修理は必要ないって言われたよ。君は腕が確かだったんだな」
「噂は聞いたと思うけど、今のところ俺はここじゃ細工職人って扱いだな」
小さな村だ。噂はあっという間にすべての家に広まると思っていい。自警団や村長とのあれやこれやは皆の知るところとなっているはず。
「聞いたよ、なかなかに手強い男だったってね」
ドワッツは朗らかに笑っている。
「糸の木から綿の実の収穫か。邪魔するのも悪いから俺たちもついてく。話は道すがらでもいい」
「そうかい? じゃあ、一緒しよう」
「こっちの道か? だったら先に行っててくれ。すぐに追いつく」
宿にバイクを取りに戻ることにする。スピードが比較にならないからほとんどロスがない。
「やっぱ珍しがられるな」
「バイクみたいな乗り物ありませんもの」
エンジン代わりのプロペラが風切り音を放つと周囲の人々が注目する。クラッチを繋いで加速すると、そのスピードに目を丸くしていた。
「マサキが来た」
子どもたち、姉と弟が目ざとく見つけてくる。
「よお、今日はよろしくな」
「うん!」
「ロナとルーザと遊ぶんだ」
ロナタルテはぶんぶんと手を振っているがティナレルザは渋々の体である。
「で、話ってのはなんなんだい?」
「なにもかにも簡単な話さ。ドワッツの家が布地職人なら分けてほしいだけだ」
「そうだったか。そういえば話してなかったな」
正輝も正輝ならドワッツも相当である。あのときはそれくらい切羽詰まっていたのだと思う。
「でも、布地なら家にしか置いてない」
父親は申し訳なさそうだ。
「それくらい俺だってわかってる。糸の木の実は俺もいろいろと使うんだ。収穫に行くなら確保しておこうと思ってさ」
「なるほど。このあたりの群生地は知らないだろうからね」
「収穫は手伝うから、帰ってから布地を見せてほしい」
ドワッツは「お安い御用だ」と返す。
「どのくらい必要だい? 綿の実はもうそろそろ収穫期が終わるからね。残りは少なくなってる」
「当座はそんなに必要ない。あるとしたら、このシートの中身がヘタってきたら補充するくらいか。主に困ってるのは布地のほう」
「それならいい。手伝ってくれるなら布は勉強させてもらう。君には世話になってるからね」
住んでいた場所でも糸の木の群生地を確保していて利用していたことや、織り機がなかったから布作りには苦労していたことなど話す。子どもたちは飛びまわるロナタルテたちに夢中だった。
「糸は撹拌機で整えてから引っ張りださなきゃならなくて……」
「そんなことをしてたのか。一遍煮て種を抜かないといけないが糸は……」
なにくれとなく話しているうちに群生地に到着した。車でも一時間かそこらの場所である。ドワッツの先祖が、畑を抜けてすぐのあたりに種を撒いて作りだしたものなのだそうだ。
「こりゃ、立派な糸の木の森だな」
見渡せばほとんどが糸の木という有様。
「村の住人すべての衣類を賄うとなるとね、このくらいの規模になる」
「もっともだ。しかし、管理も大変だろう」
「そうだね。あまり上に伸びないよう幹を落として枝をはらったりはしないといけないかな」
高い木に登って収穫というのは大変な作業となる。
「そりゃそうだ。如何に身体を軽くできても空高く飛ぶのは危ないもんな」
「僕も魔法は得意なほうじゃなくてね。途中で力尽きるとマズいから木は低ければ低いほどいい」
「お互い苦労するな」
共感できる部分はある。村のような環境では念動力の得意不得意が地位に直結したりはしないようだが、都市部では多少の格差構造があっても致し方ない気がする。
「まあ、今日はのんびり見守っててくれ。最高の働き手がいるからさ」
「それはなんなんだい?」
不思議な顔をされた。
「ロナ、いつもどおり頼む。ルーザは見習ってやってみてくれる?」
「あーい。ルーザ、行こー」
「え、どうするの?」
ティナレルザの手を引いて舞いあがっていったロナタルテは木の上のほうの綿の実を片っ端から摘んで落としていく。すぐに合点したもう一人も別の木の梢で作業を始めた。家族は下で待ってて落ちてきた綿を拾うだけである。
「すごいすごい!」
「いっぱいだ」
なかなか手の届かない場所も綺麗に摘み取っていくので、見る間に籠が満杯になっていく。ドワッツも奥さんも驚いて見守っていた。
「こんなこともできるんだ。小妖精って気ままに飛んでるだけかと思った」
「そんなことない。二人は俺の大事な家族なんだ」
正輝はドワッツが眉をひそめて見つめてきたのを見逃していた。
次回『花のしもべ(2)』 「飛んでるな。やっぱりなのか」




