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少女装鎧ジノグラフ  作者: 八波草三郎
大陸へ

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ドニニー村(5)

「マサキに商談の技能があるとは思ってませんでした」

 エメルキアが感心している。


 正輝が預かった剣の束を息を切らしつつ宿に持ち帰って部屋に着いてからの話である。合計で数十kgに及ぶ重量物はさすがに堪えた。バイクで行かなかったのを後悔する。


「大人、特に男ってのは駆け引きが嫌いじゃない。売り手とへりくだっても駄目。権力者には自分を高く売りつけるくらいでちょうどいい」

「引く交渉術も使ってましたもの」

 少女は愉快そうに笑っている。


 彼に商談の経験はない。しかし、役者として数々のオーディションを戦ってきた。その中で、権限のある人間の癖を見抜いて興味を引く交渉に持ち込むのは処世術として身につけている。


「手札は少なくない。連中、流体金属(メタル)を見せてやったら目の色変わったろ? 大陸じゃ人間誰でもメタル操作はできるとしても、メタル加工となると細工職人の出番なんだと思った」

「口振りからそこまで見抜いたの? 呆れた」

「革袋一つ2000ディムだぜ? 今日だけで5000稼いだ。悪くないだろ」

 ティナレルザにも自慢する。


 流体金属(メタル)と聞いて顔つきの変わった村長を突付いたのだ。予め用意しておいた革袋を一つ見せびらかすと簡単に食いついてきた。


「おそらく、メタルスライムの発生地はそこら中にあるわけじゃないはず。辺境のほうに行くほど貴重品になってく」

 言動から推理していく。

「それでも、便利なメタルは生活から切り離せなくなっちまってる。やり方次第で現金より使い勝手が良さそうだと思ったぜ?」

「実際そうだと思います。メタルスライムの出現地点はつまびらかにされてないと聞いたことがありますし」

「普通に国家機密レベルよ。メタル狩人も国で管理されてるはず」

 ティナレルザも常識だと言う。

「弱っちいのにー?」

「ロナだって撃退することはできても倒すのは無理だったろ? それはルキくらいの魔法力がないといけない。それだけの技能があるのがメタル狩人なんじゃないか?」

「ええ、正解よ」


 エメルキアの家の立地は非常に好条件だったと改めて思う。そうでなければバイクを作るなど絶対に無理だったはずだ。異世界に来て恩恵があったわけではないが、少女との出会いと島に送られたのは思ってもない幸運だったと感じている。


「とりあえず、預かった剣を手直ししてやろう。自警団の男たちは焦ってるみたいだったからさ」

「では、お膝をお借りしても?」

「もちろんだ。好きなだけ持ってけ」


 エメルキアを膝に座らせて精気供給役になる正輝であった。


   ◇      ◇      ◇


 夕方には手直しした剣を納品する。村長はえらく驚いていたが請け負った仕事なのでギャランティに見合った仕事はする。宿のおかみさんにも先払いを入れておいたので扱いが良くなった。


「井戸水ってどんな感じ?」

「浄化したので川の水と変わりませんよ」


 パムール島では生活用水はすべて川の水で賄っていた。洗濯や洗い物、風呂などはそのまま使えたが、調理用と飲み水だけはエメルキアに浄化してもらっていたのだ。正輝が腹を壊さなくてすんでいるのも少女のお陰である。


「ミネラル多めとは聞いたことある」

「地中はヒルの天国ですし、もっと小さな小さな生き物も混じるので避けてあげないといけません」

「雑菌がいるんだな。慣れれば大丈夫なんだろうが」

「マサキが住んでいた環境はかなり清潔が保たれていたみたいです。すぐには身体が適応できないでしょう」


 そんな話題になったのも、目の前に井戸水を汲んできたタライがあるからだ。せっかく作ったバスタブだったが、さすがに島から持ちだせなかった。ここ数日は、ろくに身体も拭けていない。


「布が簡単に手に入ったのも大きいな。そのへんが島との違いか」

「ドニニー村にも織り機があるようです。布地をちょっと多めに仕入れておいていただけると、これからの旅路が充実すると思います」

「だな」


 そう言っているうちにタライの水をお湯に変えて気前よく脱いでしまうエメルキア。正輝は苦笑しつつ、手にした布で彼女の身体を拭っていく。新陳代謝をしないので垢は出ないが、旅の汚れはどうしても溜まっていた。


「やっぱ、気持ちいいもの?」

「はい、とっても。髪は埃を孕むと重くなってしまうんです。綺麗にするとずいぶんと楽になります」

「わかったわかった。じゃあ、腰掛けて」


 タライを背にする形でエメルキアの長い髪を洗っていく。確かに若干ではあるが湯が濁っていくのが見て取れた。


「マサキに洗ってもらうの、気持ちいいです」

「倫理観がガビガビに侵されていく感じなんだが、ルキが喜んでくれるなら我慢するよ」

「わたしは恥ずかしくないのでお気になさらず」

「俺が恥ずかしいの」


 髪の乾燥は自前でやってもらい、ロナタルテとティナレルザに掛かる。別の桶に作っておいたお湯で自分で洗えばいいのに、彼女たちは律儀に順番待ちをする。


(どうしてこうなった? 島の風呂の習慣をそのまま引きずってる)

 いたたまれなさを綺麗に忘れ去る日はなかなか来ないと思う。


 次は正輝が妖精種(エルフィン)たちに洗われる番だった。

次回『花のしもべ(1)』 「聞いたよ、なかなかに手強い男だったってね」

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