ドニニー村(4)
村長の家を訪った正輝たちが通されたのは、どうにか客間といえる体裁を整えただけの部屋だった。それでドニニー村の懐事情が知れる。
(お世辞にも豊かとはいえない村を食い物にしてどうする気なんだ、盗賊団)
肩を持つわけではないが気が知れない。
(それとも、盗賊同士が縄張り争いしなきゃならんほどいるってのか? だとすりゃ、コタカッタ王国とやらの治安機構がお粗末って話だよな)
ない話でもないと思う。もし、王を中心とした政治に携わる人間たちが戦争に夢中で国内治安に無頓着だとすれば乱れもしよう。しかし、そんな王権は長続きしないようにも感じる。領主たちは堪ったものではないからだ。
「君がドワッツの一家を助けてくれたのか、旅の客人」
椅子に掛けている壮年男性が村長なのだろう。
「私が村長のアイタハだ。商いをしているとトラコに聞いたのだが」
「トラコ?」
「俺のことだ」
ひと際大きな体躯を持つ自警団の団長が自分を指す。昼前に話し掛けてきたのもトラコだった。
「そりゃ失礼。俺は正輝。このとおり旅してる。いろいろやるが、あんたたちから見ると細工職人ってのが近いかもな」
そう名乗るのが早そうだ。
「らしいな。行商をしているのなら話は聞く。狩人の家のデパダがいい買い物をしたと自慢しているそうだ」
「行商ってのはちょっと違うかもな。なにしろ田舎者で、世間の勝手を知らない。売れるものといや、これまで工夫して細工をしたものだけ。それくらいでしか生計が立てられないって思ってくれていい」
「機械ものの細工職人ってわけか」
職種としてはそうなるらしい。
「で、商品にしてるメタルライトとやらを見せてくれ」
「これだ」
「ほう。どうやって使うものだ?」
まずは持ち手から精気を流して点灯させてみせる。ランタンキャップを付けていたので室内を明るく照らした。次にキャップを外してレンズで焦点を絞ったスタイルにする。丸い光が生みだされていた。
「こうすれば星明かりしかない夜中でも遠くまで見渡せる。ご覧のとおり、火も使ってない。大雨の中だろうが、暴風が吹き荒れていようが、お構いなく照らせるって寸法さ」
自警団長のトラコにした説明をくり返す。
「確かに便利だ」
「ただし、手持ちでないと照らせない。点けている間は精気を消費する。要するに携帯ライトでしかなく家の照明にはならない。どうだ?」
「つまり、夜中に動きまわらねばならん人間の役にしか立たんと言いたいのだな?」
村長だけあって頭はまわる。必要なものかどうか計算していると思われる。
「用途次第で使えるのは事実だな。幾らで売る?」
「1500ディム。一切、まけない」
日本なら一万五千円ほどの価格。安くはないが、利便性とずっと燃料無しで使えることを考えれば高価でもない価格設定にした。宿代が一晩100ディムだと思えば高級品といえなくもない。
(原価を聞けば尻込みするかもしれないが、それっぽくは仕上げてある。悪くない取引だと思うぜ?)
様子を窺う。
「自警団長さんがそのメンバーで夜回りするなら二個あれば十分だ。いざってときに倍以上動員したとしてもランタンモードにすれば周囲くらいは照らせる」
売り込みを掛ける。
「ううむ、3000か」
「きついか? それなら別に構わない。街に持っていけば売れるだろうからさ。素材だって貴重なものだし、在庫を大量に抱えてるでもない」
「いや、待て。どんな仕組みで光るもんなのか教えろ」
安くはない買い物に村長は悩んでいる。
「企業秘密だ。言っとくが、一個買って分解したところで、仕組みはわかっても再現はできないからな。こいつには特殊な細工が必須だ」
「予防してくるか。自信があるようだな」
「折れないか。じゃあ、風防付きのランタンくらいなら作ってやれないこともない。油と火は使うが、風には強いし相応に頑丈にはしてやる。それなら200ディムでいい」
手持ちランプと違って汎用性のあるランタンを提案する。それなら手持ちの素材で細工ができる。
「在庫がないから待ってもらわないといけない。それに、風防は薄ガラスだから少々壊れやすい。役には立つ」
譲歩してみせる。
「どうでしょう、村長? メタルライトとやらを一つ、ランタンを幾つか作らせては?」
「それで大丈夫か?」
「夜回りには。次に夜襲があったとしても威嚇くらいにはなります」
トラコとしては便利な道具は喉から手が出るほど欲しいらしい。
「どうするか。いずれ武器も整備せねばならん。村ではどうにもならんから、街に出すことになる。諸々入り用だ」
「武器って剣か?」
「無論だ」
予想したとおりである。やはり刃物というのは使い勝手のいい形に収斂進化するものなのだと感じた。
「しゃーないから、メタルライトを二個お買い上げなら、サービスで剣の修理も請け負ってやろう」
付加価値を提案する。
「俺のこのナイフみたいに流体金属加工品になる。魔法を継続使用しなくても結構な斬れ味に仕上がるぜ?」
「本当か?」
「妹はそういう加工が得意なんだ。俺が教えるだけで悪くないものができる」
自信ありげに笑ってみせた。
「……わかった。二個買う。剣は何本まで仕立て直してくれる?」
「ありったけ出していい。百本も二百本もあるわけじゃないだろ?」
「商談成立だ」
「まいどあり」
正輝は握手を交わした。
次回『ドニニー村(5)』 「口振りからそこまで見抜いたの? 呆れた」




