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少女装鎧ジノグラフ  作者: 八波草三郎
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ドニニー村(2)

 翌日、起きだした正輝たちはドニニー村の中を散策する。教えてもらった狩人の家が当面の目的であるが、当の狩人は昼頃にならないと帰宅しないらしい。ゆえに、当てどなく見学してまわっている。


「このくらいの規模が普通?」


 村に建っている民家は三十軒ほど。三分の二が農家であり、村の周囲の広大な農地を管理しているという。


「マサキの知っている村とは違いますか?」

 エメルキアが返答に困っている。

「ごめん。俺の暮らしてたあたりには農地なんてなかった。全部が人の生活しているだけの住スペースか、農業とは違う職種に就いてる人の働いてる場所だった。だから、農家がどんなふうに成立してるか知識としてしか知らない」

「そうでしたか。比較して平均的な農村の形だと思います。わたしも見聞きしただけなので明言はできないですが」

「私も同じ感じ」

 ティナレルザも深くは知らないという。

「ほとんどは農民ってわけだ。その中に、生活にまつわる職人や農作物以外をどうにかする人が寄り集まって暮らしてる、と」

「はい、狩人さんとか、ドワッツさんの言ってた細工職人さんとかがそうなのでしょう」

「トカゲの玉子集めとか、飛びヒル取りとかはちょっと年嵩の子どもたちの仕事よね」


 マサキの常識にない単語が並べられる。思わず固まって、左肩にいる小妖精(リトルエルフィン)を胡乱な目で見る。


「なんだって?」

 ちょっと頬が引きつった。

「だって、必要じゃない。森に行って玉子とかヒルとか集めるの」

「玉子はわかる。それが鳥のじゃなくったって目を瞑ろう」

「とり?」

 キョトンとされる。

「悪かった。ここには鳥もいなかった。だよなー、トカゲが飛ぶんだから鳥になる必要ないもんなー」

「なんのことだかわからないけど、マサキだって玉子くらい食べるでしょ?」

「島じゃとんと食べなかったな。森を探れば当然あったわけだ」


 食卓にのぼることはなかった。トカゲが幅を利かせていたのはその所為もあるかもしれない。


「年嵩の子どもが代々トカゲの産卵場所を受け継いでいくの。全部を捕らないで、数を保つ方法とかね」

 当たり前に説明された。

「まあ、いいや。玉子を産ませるためにトカゲを大量に飼ってる畜産家とかいないだけマシ。でも、ヒルは?」

「食べるに決まってるわ」

「……ごめん、もうトカゲに文句言わないからヒルだけは勘弁して。背骨のある動物だったらなんでも食べるから」


 確保しやすいタンパク源なのは理解できる。しかし、正輝にとって昆虫食くらい敬遠したいものであった。


「あいつら、食物連鎖の最底辺にいるんだから、俺一人が食わなくったって増えすぎたりしないはずだから」

 必死で拒否する。

「変なマサキ。島では食べさせなかったの?」

「泣きそうな顔なさるので一回も。わたしも食べられる程度の知識しかありませんでしたし」

「濃い味付けにして、野菜と炒めたりしたら結構美味しいのに?」

 背筋を寒気が走る。

「隣で食っても我慢するから、絶対に食わそうとするな」

「残念ね。水分が出て小さくなっちゃうから気にならないわ」

「目立つまいが断固拒否する!」


 美味しい美味しくないの問題ではない。生理的に受けいれがたい習慣だった。今後はどんなトカゲでもありがたくいただくと心に誓う。


「ジノグラフでの生活にも障害はあるな」

 大概は我慢できると思っていたのに誤算だった。

「別に困らなければ食べる必要ないんですよ」

「おう、困らないように努力する」

「マサキ、面白ーい。ヒルなら全部吸っても大丈夫だってお母さん言ってたー」

 ゼアネルヒはヒルだけ解禁していたらしい。

「そっちもか」

「今はマサキだけで十分だからやめとくー」

「別に止めない。俺も触るのは抵抗ないしな」


 当面はヒルも吸血種には出会っていない。そもそも、形が似ているだけで地球のヒルと同種ともかぎらない。どっちにしろミミズとかと近い仲間なはずである。


「しかし現状、子どもだけで森に行かせるのも不安だろうに」

 盗賊団に襲われるかもしれない。

「それでも、小さな村が生きるには皆が一致協力しないと無理なのでは?」

「わからんでもない。取り除いてやりたいもんだが安易に手出しするのもなんだな」

「過度に関わるのは避けたいと思っているのでしょう? でも、気にはなると。正体を知られたくないとも」

 少女は彼の心情を正確に把握してくれている。

「あまり積極的ではないのね?」

「偵察くらいの思いで出てきてる。目立つのはちょっと避けたほうがいいだろう」

「そのほうが正解かも。マサキはあまりジノグラフを知らないほうがいい気もするわ」


 ティナレルザもエメルキアに遠慮している感触がある。彼女たちが危惧しているのがなにかはまだ正確にはわからない。しかし、人間と妖精種(エルフィン)の関係性にあるのは確実なようだ。そうでなければゼアネルヒは島をあんな環境にはしなかっただろう。


「昼前か。まだ時間あるな。どうしたもんだか」

 目的もなくブラつくのにも飽きてきた。

「村の外とかも見てみるか」

「一面の麦畑です。なにも考えずに眺めているのは悪くないかもしれません」

「そうすっか。どうせ、急ぐ旅でもなし」


 ドニニー村の外に足を踏みだした正輝たちは思いがけない一団と出会うことになるのだった。

次回『ドニニー村(3)』 「俺、なんかそれっぽい態度だった?」

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