広い大地(5)
家族の乗っている車の動力は回し車のようなものだった。水車に似ているが、水掻き板ではなく何本もの繋ぎ棒で円盤同士を繋げている構造をしている。
「君は細工職人かなにかなのかい?」
父親はバイクを見て頭をかしげている。
「それがどんな職業なのか知らないが、そんなもんだと思ってくれ」
「ともあれ助かる。車が動いてくれないとどうなるか。ここらへんでも夜になれば物騒だし」
「そんなときには……、って商売っけ出しても仕方ないか」
メタルライトという話ではない。ともかく彼らは目的地に急ぎたいだけなのだ。
「あったよー」
ロナタルテが枝をぶら下げて飛んでくる。
「ちょうどいい乾燥具合だ。偉いぞ、ロナ。ルキ、こいつを圧縮してくれないか」
「はい。柔らかそうですものね」
「ちょっと強度足りなさそうだ」
動力を車輪に伝える歯車が欠けているのである。それも、木の円盤から棒状の歯が出ている単純なもの。とりあえず歯を補充してやればいい。
「雑な手直しだから、帰ったらちゃんと直してもらえな」
枝の皮を向いてナイフで表面を擦って太さを調整する。
「当面は走ってくれれば十分だ。積荷を早く村まで届けないとみんなが困る」
「重いのか?」
「そうでもない。街で調達してきた麦粉だから」
聞き捨てならないワードが耳に入ってくる。
「ってことは、あっちに行ったら街だった?」
「ああ、コドニーの街だが? こっちに行くと僕たちの住むドニニー村」
「俺、間違ったみたいだぜ?」
エメルキアが苦笑いしている。見事に反対側にやってきていた。
「妙な話に聞こえる。俺の勘違いじゃなきゃ、どっちかって言ったら麦は村のほうで育ててるんじゃないか?」
正輝は引っ掛かる。
「もちろんだ。普通は村で自給自足してる。ちょっと事情があって足りなくなって」
「そっか」
「君こそどうしたんだ、街道を行くには妙に不案内だが」
当然の指摘をされる。
「途中から街道に入っただけ。俺も事情があって、南のほうから来たのさ」
「そうだったのか。南にはろくに街道も繋がってない漁村が幾つもあるらしいからな」
「マサキでいい。妹と旅してる」
エメルキアをそう紹介する。これも予め決めていたもの。彼女が装鎧少女だと知られるのはいろいろと都合が悪いと説得された。家族の側からも自己紹介される。
「金属製にしたほうが修理は簡単なんだけどな」
枝の径を調整しながら言う。
「流体金属を使えるから。でも、重くなるし、動力伝達の途中に強度の違う部品が挟まると他が壊れやすくなる」
「さすが細工職人だな」
「いろいろ試してみて憶えただけさ」
バイク作りでは実験の日々だった。
「メタルも持ってるのかい?」
「見てのとおり、どっちかっていうとそっちが専門かな」
「豪勢だな」
どこでも流体金属は貴重品らしい。普段はメタルスライムを倒さねば手に入らないもの。それなりの値段で取引されていそうである。
「これで走ってくれるはずだぜ」
車体の下にもぐって折れた歯を交換していく。
「本当に助かった。君に出会えて運が良かったな」
「俺はまあまあか。ついでに村まで連れてってくれ。当面はどっか人のいるとこに向かうつもりだったんだ」
「構わんが、今はちょっとお勧めできない」
父親は眉を曇らせる。
「どうした?」
「僕が麦粉を積んで走らせているのと関係する。実は、村の近くに盗賊団が居着いてしまって、襲撃してきては食料を奪われて」
「物騒だな。食料だけか?」
「若い娘も何人か。どうなったことか」
夫婦は痛ましい面持ちになる。事態がエスカレートすれば、その若い妻も標的にされかねない。父親のほうは、街で領主に盗賊団の討伐もお願いしてきたところらしい。
「まずは食料。そうじゃないと村のみんなが飢える」
それで急ぎだったようだ。
「事情はわかった。ドニニー村だっけか? 俺も行こう」
「今度いつ襲撃があるかわからないが」
「このとおり、旅人さ。多少の心得もある。協力できるかもしれない」
修理を終えて顔を覗かせる。
「本当に助かる。狩人はまだ動けてるから肉くらいはご馳走できる」
「トカゲだったらもう勘弁な」
「いや、獣肉だ。どちらかというと罠師だから」
食環境にはちょっと期待できそうだ。エメルキアと見合わせてハイタッチ。妹とは腹違いで外見が違うという設定である。
ロナタルテやティナレルザと追いかけっこしていた子どもたちを父親が呼び寄せて車に乗せる。どうにか動きだしたのでバイクで並走した。
「どんなところから来たんだい? このへんでもあまり妖精種は見ないんだが」
子どもは妖精に夢中である。
「ド田舎さ。深い森の奥のほうなら案外エルフィンたちは自由にしてる。俺は噂に聞く国管理のエルフィンのほうを知らない」
「そうなのか。君の住むあたりはかなり文化が違いそうだし。そんな乗り物、初めて見た」
「バイクは俺のオリジナルだからな。ほんとにただの乗り物じゃん。車みたいに物を積めない。効率悪そうだろ?」
父親は答えにくそうにしている。
「しかも、俺は魔法が苦手ときてる。妹は血筋がよくて魔法を使えるけどさ」
「そうだったのか。いろんな事情はあるものだ」
「俺のいた場所は人間よりエルフィンのほうが多かったくらいだから」
(嘘は言ってない。島は特殊極まりない環境だったからな)
正輝は30km/h代でゆっくり走る車にのんびりついていった。
次回『ドニニー村(1)』 「要するに宿代がない」




