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少女装鎧ジノグラフ  作者: 八波草三郎
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広い大地(4)

「だもんで、あんまり派手な戦争ってのはもう百年近く起きてない。兵器を限定した競り合い程度になる」

 悲しいかな、正輝の世界でも兵器が錆びつくような時代は迎えていない。

「そんなすごい兵器があるなら相手を滅ぼすのも簡単なのに?」

「簡単だからこそ使えなくなる。それが抑止力ってやつ。本気になったら互いに滅ぼしあうしかない。だから、加減するし戦争そのものが起きにくい。俺はこの世界でも装鎧戦士(エルフィンアーマー)はそういう存在たり得るはずだと思ってる」

「装鎧戦士を抑止力にですか?」

 エメルキアは神妙な面持ちになる。

「飛び抜けた力じゃん。こんなの生身の人間じゃ勝負にならない。それこそ、抱えてる人数がそのまま国家軍事力になるような存在だ」

「実際には戦争をしてるわ」

「そこなんだよな。もっととんでもなけりゃ使えないのに、中途半端に制御がきいてしまう。戦死者が増えるばかりだろ?」


 使いやすい、対抗し得る、は兵器として優秀な要素。本当なら装鎧戦士(エルフィンアーマー)での激突に限られても変じゃない。そうなってないのは、まだ数で押せばなんとかなると思っているからだろう。


「もう少し時代が進めば戦争も練れてくる。人間は装鎧少女(エルフィン)をこいねがうしかなくなると思うんだけどさ」

 抑止力としての完成度が上がる時代になると予想する。

「そうはならないわ」

「どうしてだ、ルーザ?」

「人間ってもっと強か。そして、残酷よ」

 彼はその言葉がなにを意味してるのか理解できない。

「それって」

「自分の目で確かめて。ジノグラフはもっと歪んでる」

「いったい、なにが……」


 追求したくともできない。エメルキアも時おり見せてきた陰りを湛えているし、ティナレルザはこれ以上口にしたくないという風情だ。彼女たちを傷つけたくはない。しばらくは黙って草原を駆け抜けていくだけになる。


「あれは?」

 一筋の白い線が見える。

「街道ですね」

「やっと文明っぽいものに出会ったか」

「どっちにたどっても人の住むどこかには着くはずよ。村か街かはマサキの運次第」

 任されてしまう。

「はて、右か左か」

「そんなに変わらないと思います。ただのルーザの意地悪です。こんな国の端のほうでは小さな集落が点在してるだけでしょう」

「そうなのかよ。言われりゃそうか」


 栄えた都市が沿岸部にあるのなら、パムール島は隠れ場所に向いてない。ゼアネルヒにそんなことがわからないとも思えない。


「騙したな、ルーザ?」

「頼りすぎるからよ。私だって隅々まで知ってるわけないじゃない」

 重苦しい空気に耐えきれなかったのだと思う。

「まったくだ。俺が抜けてただけだな」

「変なとこ、頭がまわらないんだから」

「考えが及ばないくらいにジノグラフじゃ世間知らずなのさ」

 街道を前に停車する。

「ここは一つ、落ち着くために休憩」

「そういたしましょう」

「んー、オヤツぅー?」


 ロナタルテが目を覚ましたので頃合いだろう。寝具の毛布を敷物にして並んで座りお茶にする。燻製魚を軽く炙ってそれぞれのサイズで齧った。


「ここで待ってたら、メタル進化種に追われてるお姫様の車が通り掛かって助けたらお城にご案内なんてことにならない? 手っ取り早くて話が早いんだが」

 軽口を叩く。

「お姫様ぁー?」

「ただの願望じゃない」

「願ってもいいじゃん。だいたいさー、俺はトラックに轢かれてないし、神様にも会ってなければ、すごいスキルももらってないんだぜ」

 エメルキアがいなければ役立たずである。

「なにそれ?」

「とらっく?」

「お約束」


 丸裸で異世界に放り込まれたのはなんの因果か。不平不満がなくもなかったが、それほど行いが悪かったとも思えない。


「しゃーない、自分から走りだすか」

 立ちあがって少女と二人で毛布を畳む。

「ゆっくりでいいんです」

「だな」

「のんびりまいりましょう」


 期待を放りだした時点で向こうから転がり込んでくるのも人生というものである。なんとなく右に走って一時間としないうちに行く先に点が見えた。


「なんだろな」

「車ですね」

 木製馬車のキャビンだけみたいな物が見えてきた。

「壊れたみたいです」

「お姫様ぁー?」

「残念ながら、そんな雰囲気じゃない」


 飾りっけ一つない車体を取り巻いているのは家族だろう。夫婦と子どもらしき姿がある。父親が車の下側を覗き込んでいた。


「どうした?」

 彼がバイクを乗りつけると父親が慌てて出てきた。

「何者だ!」

「そんな殺気立つなよ。ただの通りすがりだって」

「そ、そうか」

 少女と小妖精(リトルエルフィン)の姿を認めて口調を改める。

「壊れたのか? 見てやろうか」

「わかるのか?」

「わかるかわからないかは見てみないとわからない。なんたって、車を初めて見る田舎者なんでね」


 苦しい言い訳だが、そう名乗ることにしている。バイクに乗っている時点で辻褄なんてどこかに吹き飛んでしまっていて追及されると困る。


「突然スピードが出なくなったんだが」

「そっか。んじゃ、ちょっくら失礼」

 下を覗き込む。

「歯車欠けてんな。なんか、引っ掛かった?」

「街道に落ちてた大きい石を蹴ってからだ。急いでたから気がつかなくって」

「それだな。一個欠けると噛み合わせがおかしくなってぼろぼろ欠ける。部品も古そうだ」

 全てが木製部品である。

「せめて応急処置でもできれば」

「これくらいならなんとかなるだろ。ロナ、そのへんで木拾ってきてくれ」

「あーい」


 正輝は子どもたちが「妖精だー」と騒ぐのを耳にしていた。

次回『広い大地(5)』 「俺、間違ったみたいだぜ?」

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