広い大地(3)
(異常に強い)
それがティナレルザの感想だった。
彼女にとて、彼らが進化種と呼んでいる変異型メタル系生物との戦闘は初めて見る。しかし、歴史を鑑みればそれほど弱い敵ではないはず。武装、戦闘技術ともに今と大差なかった人類が滅亡の二文字にまで直面したのだ。
(ルキのこともある。彼女はあれだもの)
要因の一つではあろう。
(それにしてもマサキの適性も高い。変わったフォームなのは別としても、あれだけ大きなメタルトカゲを無手でいとも簡単に倒すなんて)
かなり意味は異なるも、装鎧戦士同士の戦闘は見たことがある。互いに強固な外装を持つ戦士同士の戦いでは簡単に決着はつかない。武器なしでは到底無理な話だ。
(なのに、特殊攻撃もくり出す鎧トカゲ形態のメタルをものともせずに倒しちゃった。それをルキもロナも特に驚いたふうがないのも変)
当然のことのように受けとめている。しかも、マサキは戦闘中にエメルキアの助言も受けていたようだ。聞いたとおり、二人の自我境界が明確に分かれている証拠である。
ティナレルザの知っている他の装鎧少女は、融合後は装着者とのコミュニケーションはかなり曖昧になると言っている。自我境界は怪しくなり、適性がない装着者はわずか一度の融合で自我を侵されるケースも少なくないと聞いていた。
(ルキとマサキの場合は融合も解除も思いのまま。相性っていうの、あるのかもだけど異常な関係だわ)
ティナレルザは流体金属の回収を終えて普通に会話しながらバイクにまたがり直すエメルキアとマサキを驚きの目で見ていた。
◇ ◇ ◇
陸地側の洞窟入口は深い森の中。都合がいいと思った正輝は、下生えを使って入口をそれとなく偽装してその場を離れる。船なら大陸でも確保できるかもしれないが、せっかく作ったのでキープしておきたいと思っていた。
「んじゃ、出発するぞ」
「はーい」
エメルキアは定位置に座り、ロナタルテとティナレルザは彼のシャツの胸元に潜り込む。風で飛ばされなさそうなのを確認してクラッチを繋げた。
森を抜けた先は見渡すかぎりの平原である。ジノグラフに来て、これほど広い大地を見るのは初めてになる。パムール島は密林に占領されていたので、海原以外に開けた視界はなかった。
「ここってなんて国?」
一応、大陸に明るいはずのティナレルザに訊いてみる。
「大陸南端だからコタカッタ王国のはず。国家規模は中の下くらいかな。暖かいから産物の種類は多彩って感じ?」
「言葉はどこも同じって話だから、言語でどこにいるかの区別はつかないわけか」
「はい、現地の人に訊いてみるしかないと思います」
エメルキアもそればかりは判断つかないと言う。
「どう足掻いても不案内だな。街とかに行ったら地図なんか手に入る?」
「それは難しいかと。わたしが知っている当時より難易度は上がっているのでは」
「あー、重要戦略物資になるもんな」
想定される文明レベルで戦争をするとなると、地形や都市の配置、王のいる国の中心の場所などは戦略情報である。国家中枢か軍でもなければ、軽々に持たせられるものでもない。大多数の人々は地図などなくても生活に支障はない。
「そういうのわかるのね。マサキの世界もそんな感じ?」
ティナレルザは感心している様子。
「全然違う。俺の世界じゃもう地図なんて誰でも簡単に触れられるものなのさ」
「それって問題にならないの?」
「うーん、なんて説明したもんか」
文明レベルの違いといえばそれまで。
「俺んとこは君たちの言う魔法が使える者なんていない。すると、生活は不便になるだろ?」
「不便どころじゃなくない?」
「だから、このバイクみたいな便利な道具を発明して使う。そうしないと移動一つとっても大仕事だから」
実例を用いると納得しやすいようだ。興味深げに見あげているエメルキアも、小さな顔で眉根を寄せているティナレルザもようやく頷く。ロナタルテは呑気に居眠りしているが。
「こんな感じで速く走れる道具を使わないと話にならない。物を運ぶのも一苦労じゃん」
指さしてみせる。
「バイクは極端に速いですけどね」
「そっか。こっちは魔法で走らせる車がメインだっけ」
「はい、仕組みが似てるかどうかまではわたしにもわからないんですけど」
少女は技術面には疎いという。
「ともあれ、道具を発明するのが上手で尊ばれるような世界だと、いろんな物が作られる。兵器だってその一つ」
「それって危険じゃない?」
「ルーザの言うとおり。俺の世界だと、爆弾……、なんていうか人を一気に何十万人も何百万人も焼き尽くす魔法みたいなものまで存在する。そんなものを向けあってれば、主要都市の位置を隠すより撃ち落とす道具のほうが発達する。都市の位置なんてスパイ一人でどうにかなるもんじゃん?」
情報の重要性が変わってくる。時間を掛けて山河を抜けて兵士を送り込む戦争とはわけが違うのだ。地図の秘匿要因など雲散霧消する。
「すごい戦争してるのね。何百万人とか、国一つ消えちゃうレベルだわ」
「そのくらいなもんか。ま、どっちにしろ馬鹿げた状態さ。人間ってのは、なにを使っても戦いの道具にしてしまう。前に、装鎧戦士を戦争に使うってのもすぐに思いついたろ? これが原因。度し難い生き物だ」
「そう……ですね」
エメルキアの引っ掛かりのある返事を正輝は聞き逃していた。
次回『広い大地(4)』 「俺はトラックに轢かれてないし、神様にも会ってなければ、すごいスキルももらってないんだぜ」




