広い大地(2)
「ビルドイン!」
正輝は変身ワードを唱える。
エメルキアがこちら向きに浮きあがると腕を横に広げて指を絡めてくる。特にそんな必要があるわけではないのに、少女は変身のときに密着したがるのだ。一体感が必要だと言うが、願望のようなものだと思っている。
まずは服が光の粒子となってほどけて周囲を舞う。続いてエメルキア自身も光の粒へと変わった。それらが金属光沢を伴ったかと思うと、彼の身体にまといつきプロテクタに変換されながら融合していく。
「よし、変身完了。こいつ、律儀に待ってくれてたな」
(驚いているのかもしれません)
少女の意識だけが伝わってくる。
尻尾まで合わせると2m近くはあろうかというメタルトカゲが「シャー!」と威嚇してくる。呼吸しているのでもないのに真似だけは上手らしい。
「それがマサキの装鎧戦士フォーム? なんか変わってない?」
ティナレルザが横に張りだした木の枝から言ってくる。
「ロナ、他の知らないもん」
「まあ、人によっていろいろだけど、もっと鎧っぽいパターンが多いものなのよ」
「要するに、鎧である必要なんてないって意味さ」
答えながら駆け寄ってきたメタルトカゲの頭を蹴飛ばす。粉砕できるかと思いきや、派手に「ガキン!」と音がなって火花が飛んだ。
「硬っ!」
痛いわけではないが感触が凄まじい。
(鎧トカゲですね)
「いらんとこまで真似しやがって」
(模倣が進んでいるということです)
ローキックを連発して頭を攻撃するも効いている気配はない。普通の生物と違って、どうせそこに脳みそは詰まってないのだ。そうしているうちに歪な背中の表面から出っ張りが発射される。
「げ!」
(打撃系みたいですね)
エメルキアが冷静に分析する。
一発目は躱し、二発目は手首で弾く。こすれた部分が火花を発した。すぐに引き戻されている。メタル鎧トカゲはぶるりと身を震わせると一斉に発射してきた。
「冗談だろ!」
(正当な捕食行動っぽいですよ?)
「相手してられるか!」
慌てて飛び退いた。流れ弾が当たってバイクを壊されるのは遠慮したい。とんでもない量の礫が飛来して、そこら中の木の幹を削っていく。結構な深さまで食い込むほどの威力があった。
「大丈夫ぅー?」
「頑張れ、マサキー!」
小妖精たちに応援されている。
「任せとけ。来るなよ。二人の小さい身体じゃ一発で粉砕される」
「呼ばれても行かない」
「無理むりー」
弾いたり躱したりしながら移動する。気づけばかなりのスピードが出ていた。変身の身体能力バフは予想以上で、バイク以上の加速と同等のスピードだった。
「このやろう、調子に乗りやがって」
(マサキがとっても美味しそうに見えてるんだと思います)
「いただかれる気はないっての」
方向転換すると、真正面からメタル鎧に突進する。礫が狙ってくるが、両腕でクロスガードして弾きながら接近した。間近にくるとメタルトカゲは口を開けて鋭い牙を閃かせてくる。
「そいつを待ってた!」
両手で上顎と下顎を掴む。そのままぐるりと回転してトカゲを裏返した。背中から地面に叩きつける。
「こういうのは腹から攻めるって相場は決まってんだ!」
拳を握ると、視界に映る磁力の源へと打ち込む。やはり、腹の面は律儀に柔らかいままだ。拳はやすやすとめり込みコアを打ち砕く。メタル鎧トカゲは痙攣したかと思うと、どろりと溶け崩れた。
「ふう、往生したか」
(作戦勝ちですね)
「ああ、上手くいった。さて、回収回収」
貴重な流体金属である。一滴残らず回収しなくてはならない。ボディが大きいだけに結構な量の補充ができる。
「二人も手伝ってくれ」
「あーい」
器を満たしていくと用意していた革袋に詰めて栓をしていく。旅立ちの準備になにこれとなく消費していたので、この臨時収入はありがたい。変身を解除して手分けして掬い集めていった。
「ところでさー」
大方集めたところでエメルキアに疑問を投げ掛ける。
「変身のときに、先に服だけ消すのどうにかなんない?」
「おかしいです?」
「いや、目のやり場に困る」
融合直前の少女は裸身で彼の目の前に浮かんでいる格好になった。どうせ本体も一度光の粒子に変換されるのなら同時にしてほしいと思っている。
「認識の問題です」
「認識?」
少女は大真面目に返してくる。
「服を自分の一部と思っているか否かです。わたしは違うと感じているので、先に分解して利用できる形に変換しています」
「そのあとに自分を変換してるからって言いたいんだよな? そこをどうにか一緒のもんだって思うことできない?」
「では聞きますが、マサキは服と身体を同じものだって思い込むことできます?」
鋭い指摘をされる。
「う、できない」
「わたしも同じです。提案は却下です」
「それだけ自由度高い身体してるのに、なんで変なところだけ融通きかないんだよ!」
頭を抱えて非難する。しかし、エメルキアはそれがどうしたと言わんばかりに微笑んで見返してきた。彼に対しての羞恥心をどこかに置き忘れてきた少女に抗弁できない。今回は完璧な負けである。
(いつか考えを改めさせてやるんだからな)
正輝は異論を準備すべく頭をフル回転させた。
次回『広い大地(3)』 「街とかに行ったら地図なんか手に入る?」




