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少女装鎧ジノグラフ  作者: 八波草三郎
大陸へ

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広い大地(1)

 家は大陸とは反対側に位置していたので、パムール島の西側沿岸をぐるりと巡る。どうやら、ティナレルザが流されてきた海流に逆らう形だったらしく少々手間取る。しかし、小型で平底の船はあまり流されることなく目的の方向へと舳先を向けられた。


「接岸できる砂浜があるといいんだけどな」

 正輝は近づきつつある陸地に思う。

「少なからずあったと思うので大丈夫だとは」

「私は夜だったからわからない」

「泳げるとこあるー?」


 めいめいに好きにしゃべる。だんだんと自由度が増してきたように感じてしまう。


(女の子ばっかだしな。そもそも妖精種(エルフィン)に性差はないようだけど)


 今のところ集まってくるのは妖精種ばかり。容姿が整っているがゆえに、囲まれると華やかな感じもするが、いたたまれなさも多少はある。


(人間に出会うとどんな反応すればいいのか忘れちゃってるかもな)

 そのときまでに気持ちを作っておかなければならない。


「おー、砂浜ある。幸先いい……って、あれ、まさか?」

 想定外のものが見えてきた。

「洞窟ですね。入ってみます?」

「面白そー」

「えー、不気味じゃない?」

 意見も様々。

「入ってみるか。どのくらいの期間になるか見当もつかないが、船を雨ざらしもなんだ。盗まれるのも嫌だし、隠せるなら隠したいとこ」

「とりあえず、人の手が入っているかどうか確認してみましょう」

「それなら」


 海面から口を開けている洞窟へと進路を向ける。満潮時は水没しそうな雰囲気だが、今は十分に入れる広さがあった。


「暗いわ」

「任せろ。こんな時こそメタルライト」


 奥に入るほど案外広かった。いい感じに岸に着ける。エメルキアを持ちあげて岸に立たせると、彼も気をつけながら上陸して様子を窺う。


「います」

 少女が警告する。

「あれか? もしかして、メタル系の?」

「はい、そこら中に」

「いきなり、そう来たか」


 ロナタルテやティナレルザも壁面に目を走らせている。よく見ると、銀色のアメーバが這いまわっていた。


「進化種もいる可能性があるな。注意して進もう。どれくらい奥まで行けるのかもわからない」

「ですね」


 錨を打って船を固定する。妖精種(エルフィン)三人掛かりでバイクを軽くしてもらい、正輝は陸地へと上げた。

 エメルキアを定位置に乗せて彼もまたがる。二人を指で呼び寄せてシャツに隠れさせた。メタルライトは消してヘッドライトを点灯させる。強烈な光が洞窟内を照らすと現況がわかる。


「島の洞窟と同じね。ということは?」

 ティナレルザも慣れてきた。

「コバルト鉱脈。ここはおそらく隆起した結果だろう」

「わかりやすく発生場所です」

「たぶん、大陸にもこういう場所が無数にある。それとは別に、山肌の一角に鉱脈が露出した場所とか」


 島のそれと違って波に削られたタイプの洞窟だ。結構な量のコバルトは流出しているかもしれない。海水に溶けたものはまた海底に堆積し、別の鉱物と混じって鉱脈を形成したりする。


「どうやらメタル系は陸地でないと吸収できないみたいだ」

 海中ではボディの維持ができないのだろう。

「どうやって発生したのかは永遠の謎になる。岩石中に生命の基になる組成がないとおかしい。それを調べる機器もないし」

「人類に試練を与えるべく神の作りたもうた天敵だそうよ。知恵を働かせて苦難を乗り越えたときこそジノグラフに羽ばたく生命の頂点たり得るって」

「デレキセント教の教えですね」

 ティナレルザの説明をエメルキアが補足する。

「宗教か」

「しゅーきょーってー?」

「ロナは知らないか。なんつーかな、人間がいろんなことに都合よく辻褄合わせのためにつく嘘を並べたてたものだ」

「それは皮肉が過ぎます、マサキ」


 少女はころころと笑うが、緑髪の小妖精(リトルエルフィン)は泣き笑いのような面持ちになる。思うところがあるか。


「そんなものなんに使うのー?」

「人心を集めるのに、さ。いつの世も目立ちたがり屋はいる」

「マサキってそんな冷笑的なところがあるのね」


 バイクのオフロード仕様に作ったタイヤが岩肌を噛む。苔むして滑りそうなのに、ゆっくりとであるが車体は上下に揺れながら奥へと進んでいた。


「運も不運も神次第って考え方が嫌いなだけ。それでも、悲しいかな運不運は嫌ってほどつきまとってくる。そういうときの言い訳にするには最適なんだろうけどさ」

「きっと、嘆きから再起をするのに必要なんだと思います」

「人間って外身は安定してるのに中身は不安定」

「ルーザのほうがよほどシニカルじゃん」


 軽口を叩きあっているうちに行く先に光が見えてきた。やはり洞窟は陸地側にも口を開けている。


「予想どおりだ」

「出口があると思ってました?」

「おう。じゃないと、行き場を失ったメタルスライムが中に溜まってるはず」

「そう言われればそうです」


 壁面にはアメーバタイプが無数にいるのに、集合体には一匹も遭遇しなかった。スライムには行き場所があるとしか思えない。


「いるか?」

 出口の先は深い森である。

「近くにはいません」

「出払ってるの?」

「いや、よろしくない。警戒しろ。もう、スライムじゃなくなってる(・・・・・・)可能性が高い」

「う、来ました」


 下生えが不気味に蠢く。彼らを感知したからか、それはかなりのスピードで走ってきた。銀色の頭が茂みを割ると大きな口を広げてくる。


「いらっしゃったぞ」

「みたいです」

「ロナとルーザは離れてろ」


 正輝はバイクを停車させてサイドスタンドを立てた。

次回『広い大地(2)』 「よし、変身完了。こいつ、律儀に待ってくれてたな」

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