旅立つとき(3)
「となると加工品か。大陸になさそうなもん。出番だ、ルーザ」
「私も人間の暮らしはそんなに明るくないの」
「さっき、装鎧戦士は管理されるって言いましたでしょう? なので、国家管理で生まれて将来装鎧少女になる可能性の高いルーザみたいな小妖精もあまり自由にはさせてもらえないのです」
正輝の疑問をエメルキアが補足してくれる。
確かにティナレルザの言うことはほとんどが聞いた話という前提だった。それには事情があったらしい。
「だったか。そりゃ悪い」
素直に謝るとティナレルザはまた変な顔をする。
「そんなに気を悪くするなよ。ほんと、常識知らずなんだからさ」
「嫌なんじゃないの。慣れないだけ」
「気をつけるからさー」
機嫌を損ねているというより呆れられている気がする。人間は小妖精にぺこぺこと謝ったりしないものなんだろうか。
「大陸にない、珍しいもの。なんだ?」
頭をひねる。
「話を聞くにバイクはないんだろうけど、あれはそうそう簡単にできるもんじゃない。船もだ。たぶん、大陸の魔法が使える人間なら一人で乗れるんだとしてもな」
「一台作るだけでも何日も掛かってしまいますもの。素材も莫大に必要ですし」
「そういえば鉄……、に限らずか。金属器類って大陸で流通してる? ほとんど流体金属活用?」
素材の入手方法も考えなくてはならない。
「そんなことはないと思います。少なくとも、わたしが知ってる範囲でなら武器なんかも鉄器でした」
「今も変わらないわ」
「ロナの食器はメタルでいいけどー」
生活に密着した部分での流体金属の活用は島とさほど変わらないという。ただし、一部ではやはり金属器や部品は用いられているようだ。
「金を出せば金属素材は手に入るとしても、やっぱ元手がいる」
ふりだしに戻る。
「普段使ってるもの。お? 普段使ってないけどこれなんかどう?」
「なにこれ?」
「メタルライト。照らす道具」
洞窟で使うのに作ったもの。
「そんなものあるの?」
「光るぞ。こうだ」
「へぇ」
点灯させて見せると感心している。大陸には無さそうなものだ。手頃な道具として売り物にしやすい。
「ただしこれ、人間じゃないと使えないけどな。精気がエネルギー源だからルキが使うとそんなに長時間は無理だ。すぐ、へばる」
妖精種向きの道具ではない。
「これなら売れるわ。見たことない。普通にランプを使ってるもの。どうやって作るの?」
「構造は単純。一個作るか」
「はい、こちらを」
まずは流体金属で球を作る。ガラスの豆球にメタルを流し込んで封入し、導線を引っ張りだす。導線は持ち手に接続。
次に直径5cmほどの円筒形の本体を作って豆球をセット。あとは、ガラスでレンズを作って取り付ければ出来上がりである。
「この持ち手に精気を流すと豆球が光る」
放たれた光がレンズで集められて丸い光を作る。
「こうすると暗くても遠くまで見通せるし、このキャップを先端に嵌めるとランタンにもなる。ランプと違ってずっと持ってないと駄目だけどな」
「考えたんですけど、導線を指輪か腕輪に繋げれば置いても使えませんか?」
「名案だ。グレードアップできる」
エメルキアの改良案を採用する。
「ここはなに? いつもこんなことしてるの?」
「いつもなにか作ってるー。面白いよー?」
「とことん変わってるのね」
ティナレルザには呆れられるが、正輝は旅費調達の目算ができて満足だった。
◇ ◇ ◇
売り物のメタルライト製作だ、当面の食料調達だといろいろ動きまわってるうちに数日が経過した。ティナレルザはマサキたちが当たり前に没頭するのに驚かされる。
(これほどゆったりとした場所なのに、こんなに勤勉に物事を考えるなんて。性分なのかしら)
不思議で仕方ない。
島は豊かで日々まったりしてても暮らせるはずなのだ。それなのに考えるのをやめないのは真面目だからに他ならない。
(それと、便利であったほうがいいと頑張る、お互いを思いやる気持ちかな)
やっと慣れてきた。マサキは妖精種に接するのも当たり前に他の人間に接するようにする。彼女たちの個を当然のように認めて尊重している。そこに愛情さえ感じる。
「ちゃんと洗え」
バスタブでぱしゃぱしゃと遊ぶロナタルテを捕まえて洗ってやっている。
「ほんとにもう。お前ってやつは」
「楽しいもん」
「せっかく可愛いんだから綺麗にしてろって」
身体を流してやるとくすぐったそうにしている。
(ルキを情を交わす相手としても見てないのね。何日も一緒して、そんな気配微塵もなかった)
敬意を払い、慈しむ相手としてしか見ていない。
「ルーザも来い。洗ってやるから」
「も、もう、仕方ないんだから」
潔く肌をさらす二人に触発されたようだ。彼女のためと言って用意してくれた服を脱いでお湯に浸かる。そっと撫でるように洗われると心地よくて力が抜けた。
「肩で食事でもしてな。ルキの番だ」
「お願いします」
両足のあいだに座っていた少女の長い髪を指でくしけずる。
「あちこちしたので埃が付いてしまいました」
「そうだな。明日には大陸に渡る。潮風浴びるにしても、今夜は身ぎれいにして寝ような」
「はい、英気を養いましょう」
マサキがベッドで横になればエメルキアが寄り添う。ロナタルテは彼の胸で大の字になる。彼女も枕元で顔にくっついて眠るのが日課になる。
(なんだか、大陸に戻るのが憂鬱じゃなくなっちゃった)
ティナレルザは幸せを貪っていた。
次はエピソード『大陸へ』『広い大地(1)』 「えー、不気味じゃない?」




