漂流者の証言(4)
マサキが腕を組んで黙り込んでいる。ティナレルザも言葉もない状況だが、男が抱いているのとは違う危機感を覚えているから。エメルキアが深刻な表情をしているのは彼女と同じ混乱を予想しているからか。ロナタルテだけが何事かと呆けている。
「どうにも危なっかしいな。現状を理解してない可能性高くないか?」
ため息とともに吐きだす。
「おそらくは」
「研究どころじゃなかっただろ。メタルの災厄とやらの終焉後は復興で手いっぱいだったろうし、その後十年かそこらは備えで奔走してたって感じか」
「わたし、歴史書とかは見たことないけどゼアネルヒ様はそうおっしゃってました」
知らない名前が出てくる。
「偶発的な災難だったって考えてるフシがある」
「その可能性もなくはないのですけど」
「まあ、俺が主張しているのも最悪の想定パターンだってのもある」
マサキはこのパムール島で起こった事例から状況を積みあげて推測しただけだという。しかし、彼女にもその怖れは否定できない内容だ。
「が……、見過ごすのもなんだな。異世界人とはいえ寝覚めが悪い」
苦笑いしている。
「それに、ですね」
「なにかあるの?」
「マサキの想定パターンだと、人類崩壊後にこの島が襲撃されるかもしれないということです」
ここに至ってティナレルザも青くなる。
「火が大きくなってからじゃ俺一人じゃ鎮火できない。手数があるうちに押さえ込むのが一番なんだがな」
「それには大陸の装鎧戦士も動員しなければなりません」
「そういう意味なのね」
つまり、大陸の国々に警告を発し、再び結集してことに当たるのが順当だと考えている。その検討に入っていた段階だったのだそうだ。
(びっくりした。あの伝説の島にこんな心強い存在が集まっていたなんて)
物事を実に冷静に分析している。
「やっぱ、一回行ってみるしかないか」
マサキは悩ましげに首をかしげる。
「そのほうが早いと思います」
「俺もな、ルキが行きたがってないのは察してる。できれば見て見ぬふりがしたかった。でもな、これだけ状況証拠が揃ってくると見過ごせない」
「いいんですよ」
エメルキアは男に信頼しかない視線を送っている。彼女はもう選んでいるのだ。マサキの装鎧少女として全うすることを。
「嫌なことがあるのは本当です。わたしはあそこから島に逃げてきたんですから」
その笑みは儚げだ。
「でも、だからこそ、マサキには大陸の現状を知って判断していただきたいと思ってるのも本当なんです。矛盾してるんですけど」
「わかった。絶対にルキにもロナにも、ルーザにだって嫌な思いはさせない。誓ってもいい。いや、ルーザは別に大陸に戻らなくたっていいんだった」
「一緒のほうがいいと思います。マサキの傍が一番安全ですし」
同行を勧めている。
「私……」
「無理強いはしたくない。嫌なら嫌でいい。ただ、今の大陸のこと一番知ってるのがルーザなんだよ。ガイドしてくれると助かる。こんな言い方するの狡いとはわかってるんだが頼めないか?」
「マサキ?」
人間である彼がティナレルザに対して平身低頭で頼み事をしてくる。そんなあり得ないことが起きているのが信じられない思いである。
「わかり……ました」
まだ迷いはある。
「必ずマサキが守ってくださるはずです。わたしもいます」
「そう……よね」
「あなたならわかるでしょう?」
エメルキアが説得してくる。彼女の言葉は重い。なぜなら、彼女はおそらく大陸でさえ貴重な存在なのだから。
「じゃあ、準備してゼアネルヒ様んとこ相談しに行くか」
「お母さんとこ行こー!」
男はいろいろと荷物を備えはじめている。その間にティナレルザはエメルキアの耳元へと飛んでいった。
「エメルキア、あなたはいいの? その瞳は……」
「ルーザ、あなたならわかるでしょう? わたしが大陸でどんな扱いを受けていたか。そして、そのわたしがあのマサキと契りを結んでいるという意味も」
「当然わかる。もしかしたら、マサキは……。だとすると、彼の傍が一番安全なのも頷ける」
「ね?」
エメルキアの微笑みが妖艶な色を含んでいるのが少し怖かった。なにを考えているのかわからない。清純そうな顔の裏になにかひそんでいるかのようだった。
「出掛けるぞ、ルキ」
「はーい。行きましょう、ルーザ。ゼアネルヒ様のところへまいります」
「ええ」
外に置いてある例の機械のところへと行く。それは「バイク」という乗り物なのだそうだ。ロナタルテと一緒にマサキのシャツの胸元に潜り込む。背中から温かな男の体温とともに精気まで流れてきた。
(普段から漏れだしてしまうってどれほど? この人間は私をどこに連れていこうっていうの?)
もちろん、これから向かう先のことではない。まさに急転直下な人生の変わりようにおののく。
(こうなったら、ままよ)
バイクは森の中を走っていく。慣れてないから控えめにしてくれているというスピードは十分に速く感じる。すぐ傍を飛ぶように消えていく木々の幹の数々を目で追うのも難しいほど。
「到着だ」
男がバイクを停めると、ロナタルテが飛びだしていく。
「来たよー」
「こら、ちゃんとドアから入りなさい」
「面倒くさいもん」
ティナレルザはマサキの肩に乗って、その小さな家を訪った。
次回『旅立つとき(1)』 「虫の中でもかなり強い部類なんだけど」




