漂流者の証言(3)
マサキは本当に健啖家であった。朝からもりもりと食事をしている。三人前の精気を供給しているのだから当たり前な気もするが、少し話が違う感じもする。ティナレルザも彼が特別なのだと思うことにした。
「やっぱ燻製は最高だな。野草を炒めたのも美味しい。強いていえば、豆がもっといっぱい採れたらな」
男は満足だという。
「乾燥させたら保存が効くんですよね? 今まで好んで食べてこなかったので育ててなかったのが残念です」
「まあ、いいさ。野趣溢れる感じで」
「マサキはお酒は召しあがられないんです?」
エメルキアが訊いている。
「飲めなくはないんだがあんまりな。なにしろ、酒は筋肉に悪い」
「そうなのですか?」
「おう、あっちの世界じゃ俺、そういうの大事な仕事してたから」
お互い知らないことがまだまだある会話だ。マサキが二ヶ月前に来たというのは疑いようもない。
「戦士ですか?」
筋肉が大事だとなると肉体労働になる。
「ちょっと違うかな。戦うところを見せる仕事。説明するの難しいな。そもそも、こっちの世界にそういう職業はない気がする」
「ゆっくり教えてください」
「教えろー」
ロナタルテがモミアゲを引っ張っている。
「地味に痛いからやめろ。そのうちな」
「いろいろ知っているから、作るお仕事をなさってたのかと思ってました」
「違う違う。俺は完成形を知ってただけさ」
逆算していただけだと謙遜する。それだけでも大変な知恵者だと思った。昨日乗せてもらった機械など、どうやって動いているのか想像さえできない。
「じゃあ、いいかな?」
食事が済んでくつろいでから訊いてくる。
「私が生まれたのはログリカント王国。エルフィン候補として扱われてたの」
「わりと内陸の国ですのね」
「エルフィン候補? 君たちは元々エルフィンじゃん」
初歩的な質問が返ってきた。
「ここで言うエルフィンは装鎧少女のことです。繁殖形態に成長して、誰かと契りを結んで装鎧戦士となることを期待された小妖精の一人がルーザという意味になります」
「そういうことか。なるほど」
「ルキはマサキと契りを結んでいるのね」
話の脈絡からそう理解する。装鎧少女を知らないのに装鎧戦士を知っているのは不自然。つまり、エメルキアがマサキと経路を開いていないと辻褄が合わない。
「こっちばっか聞きだそうとするのは悪いな。まずは、島の話をしておこう。実はちょっと前、俺がメタルトカゲに襲われた。助けだすのにルキが俺と契りを交わしてくれたんだ」
やむない事情があったという。
「そんなことが」
「で、大陸でも同じようなことが起きてるんじゃないかって気になってさ。ちょうどルーザが大陸から来たってんで、あっちはどうなってんのか聞きたい」
「そうだったの。んーとね、たぶん似たような状態だと思う」
明言できなかった。
「というのも、私は街の中でしか暮らしたことなくて、外の噂でメタルが変異してるって聞いただけなの」
「嫌でも耳に入ってくるか。だって、そうなると君たち装鎧少女の手助けが必要になるもんな」
「ええ、そう」
現実は違う。しかし、エメルキアの手前、生々しい話をするのははばかられた。
「でも、そんな騒ぎになってないってことは大陸の人間は高をくくってるな」
マサキが顎に手をやりつつ言う。
「いざとなったら前みたいに退けられる。今度は人類にも最初から切り札があるってな。エルフィンにとったらいい迷惑でも」
「基本的にはそんな感じ」
「で、危機感を持ってない連中はまだ領土争いに明け暮れてる、と。装鎧戦士を兵器みたいに考えて。欲を突っ張らかせた人間のやりそうなことだ」
ジノグラフのざっくりとした歴史はマサキも把握しているという。当然だ。そうでなければ装鎧戦士という存在の理由が成りたたない。
「だとすればヤバいな。この流れはまた自然のしっぺ返しを喰らうパターンじゃん」
男はため息をついている。
「しっぺ返し?」
「俺たちが予想するにメタル系進化種、君が変異したメタルって言ったやつな、そいつらは種族保存の危機感が一因となって生まれてきてるって考えてる」
「危機感? 昔、狩り尽くされたから?」
それしか思いつかない。
「ちょっと違う。どうせ、再興した人類は調子に乗って増えつづけてるだろ?」
「うん、メタルの災厄発生当時より増えてるって話よ」
「んで、増えた分、流体金属を生活に活用してるだろ?」
人間は便利な道具を捨てられないという。その結果として、メタルの消費は災厄以前より増えているはずだと。
「メタル系生物は自分のボディを自分で作りだせない」
「そうなの?」
驚くような事実を教えられる。
「これは流体化したコバルトっていう金属なんだ。このコバルトの埋蔵量は地域によるが限りがあると思う。つまり、狩られて持って帰られるとどんどん少なくなってしまう。連中には困る事態で、おそらく精気を吸うと同時に人間の持ってる流体金属も奪いに来る」
「だとすれば……」
「人間より強く、つまり装鎧戦士より強くならなければそれは適わない。メタル進化種は災厄当時よりさらに進化する可能性が高い」
頭がくらくらするような結論を突きつけられた。
「そうしたら、人間は……?」
「対抗するしかない。装鎧戦士の強さに限りがあるなら数を揃えようとするな」
「そんな」
悲劇は拡大してしまうとルーザは悲嘆した。
次回『漂流者の証言(4)』 「異世界人とはいえ寝覚めが悪い」




