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少女装鎧ジノグラフ  作者: 八波草三郎
パムール島の異変

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漂流者の証言(1)

 彼女を欲する者は少なくなかった。将来を見越して我が手にと望む声ばかりが聞こえてくる。しかし、誰も彼女の意思など耳を貸さない。


 個人の権力と能力が交錯し、エスカレートしていくさまは滑稽でさえある。誰がどう彼女を使う(・・)のかはわからない。ただ、自分の未来を自分で決められない彼女だけが取り残されていた。


 降ってくるのは恐怖感だけである。意のままにされるであろう生活。それよりも悲惨な扱い。誰も彼女が心を持つ存在などと認めてくれない。利用価値だけに固執する。


 甘んじれば彼女の心は引き裂かれてしまう。怖ろしくて怖ろしくてどうにもならない。夢中でどうにか逃げだした。しかし、彼女も一人で生きていく術を知らない。誰も教えてくれなかった。与えられるものを受け取ることしか。


(もし、あの伝説が本当なら……)


 そんな希望を胸にして南を目指した。しかし、途中で力尽きてしまう。迫る暗い海面が最後の記憶になった。


(海面……?)


 意識があるのが不思議だった。それだけではない。身体はなにかに包まれていて温かい。さらには、尽きたはずの精気さえ蘇っていた。彼女の中では生まれ得ないはずの精気が。


 薄っすらと目を開けると顔が見える。大きな人間の顔だ。黒髪に黒い瞳が覗き込んでいる。そこで彼女は絶望した。連れ戻されてしまったのだ。あの地獄のような人間たちの中へ。


(…………!)


 手が伸びてくる。また、あの奪い奪われの生活に逆戻り。怯えで身体が固まってしまった。


「待ってください、マサキ」

 伸びてきた指は彼女の顔から優しく髪を払い除けただけ。

「今はちょっと……」

「触らないほうがいいか。弱ってるもんな」

「それもありますが」


 別の声が聞こえる。そちらを見て少し気が紛れた。それは人間の少女でなく、彼女と同じ種の繁殖形態である。その個体が彼女を覗き込んできた。


「安心してください。もう大丈夫です」

 気遣わしげにそっと触れてくる。

「力尽きていたようですけど問題ないですか? 精気は分けていただいたはずですけど?」

「これ……は?」

「海であなたを拾いました。今、船で戻っているところです」


 温かいはずだ。彼女の身体は布で包まれている。体力を失わないよう包まれて抱きかかえられていた。ただし、それをしているのが人間であるのに落胆する。


(私、失敗したのね)


 状況は変わらない。彼女を手に入れた相手が決まったというところだろうか。これからなにをされるかなど想像に難くない。


「本当に心配ありませんよ?」

 無表情になってしまったのは致し方ない。

「この方はあなたが思っているような人間ではありません。そう言ってもすぐには納得できないかもしれませんが」

「ん? この子は俺がなにかすると思ってるのか? こんな状態なのに看病以外なにをするっていう?」

「だって、マサキは彼女がどんな環境にいたかご存知じゃないでしょう?」

 呆気にとられている。

「言われりゃそうだ。刺激しないほうがいいか。なあ、ルキに渡したほうがいいか?」

「…………」

「答えられるものではありません。まずは家まで連れ帰りましょう」


 乗っていたらしい船が砂浜にたどり着く。彼女はルキと呼ばれた繁殖個体に抱きかかえられていた。人間の男は荷物を降ろすと、金属の塊に積み替えている。


「少し風に当たりますけど我慢してください」

 頷くくらいしかできない。


 なにかの機械らしきものは「ファーン!」と音を立てる。動きはじめると結構なスピードで河原を遡っていった。途中から少々揺れたが気にならない。その頃、彼女と同じ小妖精(リトルエルフィン)が隣りにいたからだ。黙って不思議そうに見つめてきていた。


 行き着いた先には質素な木造家屋がある。森の中にぽつんと建っている小さな家。その中に運び入れられると少し温かくて安心した。

 籠の中に糸の木の綿を敷き詰められたものにそっと寝かされる。より体温が戻ってきた感じがした。気がつけば服も乾いている。


「わたしはエメルキア。見てのとおり同族です」

「ロナはロナタルテ」

 自己紹介された。

「この方はマサキ。あなたも知らない世界からやってきた方です。だから、あなたの常識(・・)から外れた人間だと思って構いません」

「……?」

「俺は鴻ノ木(こうのぎ)正輝。今聞いたとおり、異世界からやってきたから島のことしか知らない。君は大陸からやってきたのか?」

「異世界?」


 まったく事情が掴めない。自分はどこに流れ着いてしまったのか。もしかしたら、なんとか目的地にたどり着いたのかもしれない。しかし、伝説どおりならそこには人間はいないはずだった。


「ここは伝説の島?」

 ロナタルテが白湯の入ったコップを渡してくれる。

「でんせつぅー?」

「そんな話になっているのでしょうか? わからないこともないですね」

「ゼアネルヒ様がここに禁域結界を張ってるんだから人間は知らないはずなんだろ? 妖精種(エルフィン)の間だけで噂になってるとかか」

 質問とは噛み合わない議論になっている。

「だとすれば正解ですね。きっと、あなたが想像してた場所だと思います」

「パムール島だよー?」

「そうだな。いろいろ面倒だから、とりあえず君の名前を教えてもらってもいいかな?」


 人間の男が優しく問い掛けてきてくれたのに彼女は驚いた。

次回『漂流者の証言(2)』 「腹いっぱいにしていい」

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