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少女装鎧ジノグラフ  作者: 八波草三郎
パムール島の異変

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孤島マリンレジャー(2)

 正輝たちは翌日も浜まで下りて釣りに出る。干物なら少々あっても構わないということで量産体制を二人が勧めてきたからだ。


「ほんと、島の魚はスレてないからゲーム性は皆無だし」

 仕掛けを落とせば掛かるという寸法。

「釣れる深さが読めたら際限なし」

「餌が切れるまでですね」

「他にやめる要因ないからな」


 昨日はスコールにやられたものの、実際はそんなに必死にならなくとも彼らの船は沈まない。舷側の周囲に浮き輪をがっちり固定してあるからである。昨日の騒ぎもポーズのようなものだった。レジャーとして楽しんでしまっている。


「で、それ?」

 エメルキアが新兵器を持ち込んでいた。

「はい、楽しみです」

「燻製器だよな。そういう知識あったんだ」

「料理としてはあります。わたしも知識でしか知りませんが、船の残りの材料を使って作ってみました」


 造船が済んで後片付けのときにがさごそしてると思ったら、密かに燻製器を作っていたらしい。今日はそれを積み込んで、意気込んでの出航だった。


「枝拾いしてたからそうかなとは思ったんだが」

 正輝が餌集めしているあいだに少女と小妖精(リトルエルフィン)は枝を集めていた。

「さ、準備万端です」

「お、おう」

「燻製美味しいかなー」


 鼻息の荒いエメルキアに押されて釣りを始める。あいかわらずいいテンポで釣果があるので、少女は張り切って開きにしていた。今日の撒き餌は内臓のみとなる。


「んー、いい香りー」

「いい香りー」

 ロナタルテが真似して鼻をくんくんと鳴らした。


 すぐに独特の香りが漂いはじめる。ただし、干物のように簡単にはできない。エメルキアは燻製器の中身をいっぱいにすると、並行して干物作りに励んでいる。


「まだー?」

 小妖精は待ちきれない。

「最低でもお昼まで掛かります。我慢して」

「それまで干物齧ってるー」

「俺にも」


 干物をしがみながら釣りつづけること数時間、そろそろ量的にも十分であろうし餌も尽きた。魚をおろすほうに協力する。


ジノグラフ(こっち)に来てから料理も慣れてきたな。スローライフは人間を強くする)

 そんな感慨を抱く。


 干物でバッグをいっぱいにした頃、燻製はどうにかそれっぽい形に仕上がる。本格的には夕方まで入れておいたほうがいいらしい。そのほうが保存が効くという。


「炙ってみます」


 もう、それだけでいい香りのする魚の燻製。顔に近づけてくんくんしてるとやめられない気分になる。ロナタルテと二人してずっと嗅いでいた。


「食べるのはこっちのほうがいいですよ」

「おう」


 エメルキアが炙ってくれた燻製は脂が滴ってじゅくじゅくと言っている。それだけで目が離せなくなってしまいかぶりつく。口の中は旨味と脂と香りでいっぱいになった。唾液がとまらない。


「さいこー!」

「おー、最高だぜ!」

「ほんと、美味しいです」


 味見のつもりが、つい二枚目三枚目と手を付けてしまう。ずっとそれだけ食べていても飽きないような気分にさえなってきた。一枚で一食分にはなるサイズの魚だったのに、彼だけで二枚はお腹に入れてしまう。


「ふー、満腹」

 船べりに寄り掛かって空を見あげる。

「今日はスコール来ないよな」

「わかりませんけど、今のところ大丈夫そうです」

「ちょっと昼寝しよう」

 なにも考えたくない状態だった。

「お行儀悪いけど仕方ないですね。わたしも少し眠りたい気分です」

「おいで。しばらく波に揺られよう。雨が降ってきたらわかるさ」

「だらけきってしまいましたね」


 船底に足を投げだして横になる。燻製器から漂いのぼる煙だけが視界いっぱいの空にたゆたっていた。眺めていると本当に睡魔にやられてしまう。三人で寄り添って眠った。


(さて、どうしたもんかな)

 感じからして一時間くらいは経っているだろうか。

(とりあえず保留にしてるけど、メタル系の進化のことは忘れたくても忘れられんな。大陸の人類にも事情を話して警告だけでもしておくべきなんかな?)


 島ではまだトカゲが一匹しか確認できていないが、大陸ならコバルト埋蔵量は比較にならないだろう。量の確保が難しくなければ進化の速度も変わるかもしれない。だからといって、わざわざ島の存在を匂わせてまで忠言に出向くほどの義理はない。


(人生で今が一番呑気で幸せかもしれない)


 なんとなく身体をずらして頭を船べりに掛けた。そのまま反って、波立つ海面を眺める。そうしていると、また眠気がやってくるような感じがした。


「なん……!」


 一瞬なにかが見えた気がする。咄嗟に目が冴えた。身を起こして凝視していると、波間にちらりと赤い色が垣間見える。


「だって?」


 単なる漂流物である可能性が高い、それなのに、気になって仕方がない。確認せずにはいられなかった。


「悪い、ルキ。ちょっと起きて」

「なんです?」

「なにか漂流してる。気になるんだ」


 少女も起きてくれる。錨を引きあげて、ロナタルテを抱えて船尾に移ると船外機を動かす。赤が見えた方向に船をゆっくり進めた。気の所為ではなかったらしく、はっきりと漂流しているものが見える。それは小さな人の形をしていた。


「リトルエルフィン?」

「大変です」


 正輝はすかさず救いあげた。

次回『漂流者の証言(1)』 (もし、あの伝説が本当なら……)

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