孤島マリンレジャー(1)
変身して船を波打ち際まで運んだ正輝。早々に解除してエメルキアを持ちあげて乗せる。腰の深さくらいまで押しだして自身も船内に乗り込んだ。
「さて、どんなもんか」
動力としての構造的にはバイクで実績がある。掛け声くらいのつもりで船内に傾けていた船外機のスクリューを海中へと下ろした。
少女が隣に腰掛けてプロペラを回しはじめると風が送りだされてボートサイズの船がゆっくりと前進する。彼がゆっくりとクラッチを繋げたらはっきりと加速を見せた。
「こんな簡単に走るものなんですね」
「平底に近いから抵抗も小さい」
海面を滑るように航行をはじめる。エメルキアが思ったよりも加速がいいようだ。正輝はそんなものだと思っていたが、油断していたロナタルテは慌てて彼の胸に張りつく。
「置いてかれるー」
目を丸くしている。
「おう、結構速いぜ。掴まってろ」
「ひゃー!」
「ほんと、速い」
少女の長い髪が風にさらわれている。成功を嬉しそうに微笑みながら、髪を押さえて見つめてきた。
「海って近くに見えて遠いからさ。このくらいのスピードでも沖に出ようと思ったら時間掛かるぞ」
砂浜は遠ざかっているが海はどこまでも広がっている。
「方向を見失わない程度にするけどな。まあ、ロナがいるから島を見つけられないことはないと思うけど」
「そうー?」
「船乗ってると4kmも見通せない。でも、上からだったら相当遠くまで見える」
重力の強さからしてジノグラフのサイズは地球と大差ないと正輝は思っている。
「この世界が丸い形をしているからですよ、ロナ」
「ロナ、役に立つー?」
「とっても、だ」
エメルキアに合図してプロペラの回転をやめてもらう。クラッチを繋げたままなので船は惰性で進み、スクリューの抵抗が伝わってプロペラもしばらく回っていた。しかし、ゆったりと停まる。
「見渡すかぎりなにもないと気分もゆったりするな」
「はい、すごくのんびりした感じです」
「まっさらー」
砂浜はもう見えないが、島の山頂あたりは十分に見えている。しばらく揺られて静かに過ごすと、試乗を終えて陸に戻ることにする。
「大丈夫そうだから、本格的に荷物を積み込んで出航しよう。とりあえず、昼食分の魚を確保だ」
「帰りましょう」
「待ってー」
小妖精が慌てて胸にしがみつくのを待ってから再度加速する。結構なスピードが出ているようで、あっという間に砂浜が視界に戻ってきた。今度はそのままのスピードで浜に向かうと直前で船外機を上げて惰性で乗りあげる。
「こんな感じで使うんですね」
「船外機は案外便利だろ?」
「手間がなくていいです」
「押しだすときは同じだけどさ」
砂浜で釣り餌にするヒルを捕まえたり釣り道具を積み込んだりして準備を整える。予め作っておいた錨も乗せた。素材不足でロープは作れなかったが太めのワイヤーラインは段取りできた。そんなに流されるような大きな船じゃないので持ちこたえてくれるはず。
「さあ、釣りに行くぞー」
「おー」
ロナタルテが両手を上げて賛同する。
「不安なのは水くらいです」
「真水は重いからな。調理は海水メインで頼む」
「お任せを」
先ほどと同じくらい沖合いまで出航し、錨を下ろしてみる。用意したワイヤーラインだけでどうにか底まで着いた。しっかりと引っ掛かったのを確認して釣りの準備に掛かる。
「今日はそんなに大きくない魚を狙う」
針も餌も小振りにした。
「干物で保存するにはそのほうが適してますものね」
「中型くらいが味もいいしな」
「美味しい?」
胸を叩いて仕掛けを落とす。あまり待つことなく手応えがある。しっかりと合わせをするとワイヤーを手繰り寄せた。針には40cmはないサイズの妙にカラフルな魚が掛かっていた。
「若干不安になる色合いだな」
「ですが、毒はないみたいです」
エメルキアに成分確認してもらう。
「おろしてみよう」
「はい、わたしが」
「任せた」
板の上で三枚にされていく魚。内蔵を取りだして海に撒くと小魚が一斉に突付きにきた。疑問に思って船底のほうを覗き込んだら大量の小魚が寄り付いている。
「ロナ、下、見てみ」
「えー? わー! 魚いっぱい。捕まえるー?」
「放っておいてやれ。こいつらはもっと大きくなってから」
中骨も放り込んだら沈むのについていっているが、すぐに戻ってきた。下の大きな魚の餌になるだろう。それらを撒き餌代わりにして次の仕掛けを投入する。完璧に入れ食い状態だった。
「どうします?」
少女が片身を掲げて訊く。
「焼いて食おう」
「そうしましょう」
「ロナが火を点けるー」
積んできたコンロの油に浸した芯に火を点け、上に置いたフライパンで魚を焼く。新鮮な焼き魚は絶品で数匹は平らげてしまった。続けて干物分も釣っていく。
「ヤベ」
夢中になっていたら日が陰って上空に雲がきていた。
「スコールが来ます」
「ルキ、器の段取り」
「はい!」
すぐに土砂降りがやってきて、船内に雨水が溜まりはじめる。少女と二人がかりでせっせと掻きださねばならなかった。
「こりゃすごい」
「大変です」
ひっきりなしに降る雨。
「ふっ、はははは!」
「もー、あははー」
「なに笑ってるの、あははー」
濡れ鼠である。
必死になっていたら、なんだか愉快になって三人して大声を出して笑っていた。
次回『孤島マリンレジャー(2)』 「枝拾いしてたからそうかなとは思ったんだが」




