船造り計画(3)
浮き輪を舷側に取りつけ、船体を完成させた正輝は今度は船外機製造に移る。構造的にはバイクの駆動機よりも単純でいい。上部のプロペラからクラッチ板を経由して水中のスクリューに回転力を伝達するだけの仕組み。
「船外機そのものが舵になってて、向ける方向に合わせて舳先の向きも変わるって感じなんだ」
「では、船外機がこの基部を中心に向きを変えられるんですね」
「そう。角度的には限られるけど海の上だとこれくらいで十分なのさ」
船体に留める部分も回転するようになっていて、それで舵を切る。向けたのとは反対の方向に舳先が向くという正輝にはおなじみの形。
「この手持ちの棒は俺がクラッチ操作をするための伝達用なだけで特になにか操作するわけじゃない。ルキは船尾の隣りに座ってプロペラを回してくれればいいだけ」
「基本的に役割分担もバイクと同じなんですね」
「ロナも動かしてみたいー」
重さがあるので舵担当は難しいかもしれないが、クラッチ操作くらいならできるだろう。完成したら少し遊ばせてみるのもいい。
「今回はプロペラを後ろ向きにできるから一枚で十分。負担も軽い」
「そういえばそうです」
バイクは試作の結果、ツインプロペラになっていた。プロペラ室には両サイドに逆切りのプロペラ二枚を内蔵している。一枚だとそちらに風が抜けて車体を傾けたり曲げたりしてしまうからである。正面から入った空気が二枚のプロペラで両側面に風を送りだす構造。
「ずっと後ろに風を送りだす仕組みだけど、それは問題ない。逆に推進力にもなる」
「確かに」
砂浜に絵を描きながら説明していく。
「ただし、今回は革ベルトを使わないから、とにかく回転軸が多い。その分、いっぱいベアリングを作らないといけないから手間だけど頼むな」
「それくらいは。歯車とベアリングのコマは型を作って量産したほうがいいかもしれません」
「要領を掴むの早いな。そのとおりだ」
ケーシングはとりあえず置いておいて、ともかく細かな部品を量産していく。正輝がせっせと素材を運んでエメルキアが砂鉄と流体金属で部品を作り、ロナタルテが仕上げをしていく。
「油も結構いるな。足りない」
「バイクのバッグに油の実の種を入れてあります。砕いてくれたら絞ります」
「わかった」
バイクもそうだが、船外機も潤滑油が必須。ベアリングなど要所に塗っておかないといけない。それは食用油を転用していた。
エメルキアたちが油の実と呼んでいる果実は薄い果皮に包まれている。剥いて中身を取りだすとほとんどが種。割ってナッツを取りだし、細かく砕いておくと少女が念動力で油を搾ってくれる。
(わりといい食用油になるからもったいない気もするけど)
焼き物や揚げ物にも使っている。焦げると、なんともいえぬいい香りが漂うのだ。機械油に使うのようなものではない気もするが、他にないので使っている。正輝はグリスの作り方を知らない。
「計算上の数は揃ったから組み立てていこう」
「今日中に完成するでしょうか?」
「微調整しながらだから難しいかもな」
船外機製造初日は部品づくりに終始し暮れている。意外とベアリング作りが面倒なのだ。内輪とボール保持器を作って嵌めてボールを入れていく。外輪をレールで作って、変形させながら包みこんで接着融合してもらう。
部品を段取りする係の少女と部品を並べていく係の小妖精、組み立てる係の正輝まで併せて総動員となる。
「まずはプロペラとギアを接着してシャフトを通す、と」
シャフトと一体化したプロペラができる。
「プロペラ室を作って取りつけ。シャフトの根本にベアリングがそれぞれ二個」
「少し大きくなっちゃいます」
「構わんだろ。ずっと後ろを気にするような乗り物じゃない」
歯車で動力を繋げていって下にクラッチ板を付ける。この部分が特に歯車とベアリングを要する。それを避けたいのでベルトを使いたいのだが今回ばかりはそうはいかない。
「下まで動力を持っていってスクリューまで。スクリューだけ軸を外に出して内側にベアリングをセットして、と」
スペースを確保しつつケーシングを仕上げていく。
「このスクリューの軸のとこ、気密を確保できれば中に海水が入らなくて済むのに」
「他に方法を思いつきません。仕方ないので海水を抜く穴を準備しておきましょう」
「定期的に開けてメンテナンスするしかないか。まあ、それはバイクも同じだし」
実際に動かしていたら摩耗の激しいところも出てくるだろう。改良したり油を差し直したりは外せない作業になる。
左右対称に作った反対側のケーシングでカバーしたら完成だ。少女が変形させるリベット締めで固定し、形になった。
「ふう、大変だった。試乗は明日にしよう」
「正輝は船体に組みつけテストしてみてください。わたしが残り素材の片づけをしておきますので」
「わかった。悪いけど頼む」
重たい船外機をロナタルテに軽くしてもらって船尾に持っていく。蝶番の軸に通して嵌めると、スクリューが海面下に入る位置に収まった。
「いい感じだ。明日は乗りまわしてみるぞ」
「やったー。お船ぇー」
正輝は小妖精と指ハイタッチを交わした。
次回『孤島マリンレジャー(1)』 「ロナ、役に立つー?」




