船造り計画(1)
「船を造ろうと思う」
正輝が提案するとエメルキアの面持ちは曇る。
「大陸に渡ると決めたのですか?」
「それを見越してというのもある。でも、当面のメインは効率よく漁獲量を得るためだ。ちょっと大きめの船にして、船上で干物にまで加工できるようにするのがベストだ」
「干物? いいですね」
あれ以来、魚の干物は少女の好物になった。ゼアネルヒも喜んで口にしていたので妖精種全般に好きなのかもしれない。
(まあ、大きめに作るのは最終的にバイクも積載できるようにするためだけど)
そんな内心は脇に置いておく。
「で、どうやって造るかなんだが、こっちの世界だとなにで造る? 木造か?」
見かけたことがないので大型船はないのかもしれないが。
「主に木造船ですね。かなり大きなものもありますよ。車も乗せられるようなサイズとか」
「嘗めてた。フェリーとは言わないが結構なスケールだな」
「ふぇりー?」
当然通じない。
「気にすんな。いやしかし、木造となると結構な知識がいる。安易に加工できないから手間暇がすごい」
「わたしも見たことあるだけですし。たぶんですけど、職人の方が造っているのではないかと」
「だよな。俺には技術もない」
流体金属は鉱物関係以外と相性が悪い。実験してみたが、革とも木材とも融合はせず成形もできない。相性の良い素材同士であればわりと簡単にエメルキアは成形してみせる。例えば、木ヤニと糸の木の繊維など。
「樹脂ファイバーは糸の実が枯渇気味だから無理だな。失敗」
船体を大きくしようと思えば素材集めに苦労する。
「衣服の充実を優先してしまいましたから。以前はこんなに使わなかったから糸の木の群落も大きくしてませんでした」
「糸の木あるとこまだ知ってるよー。聞いてまわればもっと見つかるかもー」
「莫大な量を使うから大変だ。それに木ヤニも大量にいるから現実的じゃない」
木材の成形もなかなか骨が折れるらしい。正輝という精気供給源がいる現在ならいざ知らず、この家を作るのに何ヶ月か掛けたらしい。
「消去法だ。どう足掻いても金属船になる」
言わずもがなの結論。
「金属を海に浮かべるのは無理がないです? ましてや何人も乗るなど」
「ところがそうでもない。俺の世界だと大型船は金属製なのが相場で、普通に何十人とか何百人とか乗れる。仕組みとしては、端的にいえば金属の器が水に浮くのと同じ考えだ」
「内側に空気を含めばという理屈ですか」
少女は聡明である。簡単に言い当ててしまう。しかし、まだ納得はしていない様子だ。
「簡単じゃないです。すごく沈みやすいと思います。沈みはじめると手が付けられないくらいに。どうやってるのですか?」
危険な乗り物だと感じたようだ。
「仕組みは単純、船底に空気を入れて密閉した部屋を作る。そこに水が入らないかぎりは沈みはしない」
「本当です。考えたものですね」
「でも、今回はそうしないつもり。構造が面倒になるし重くなる。運ぶのさえひと苦労する羽目になる」
おそらく変身すれば軽くはできるがエメルキアはいい顔しないだろう。
「だから、一番シンプルな手段に訴えよう。船腹に丈夫な浮き輪をずらっと並べる」
「ああ、なるほど」
「浮き輪たのしー」
経験がある方法は理解が早い。ロナタルテでさえすぐに想像できた様子。おそらく設計上の失敗も少ないはず。
「となると、集めるのは洞窟のニッケル鉄とトカゲを狩った革素材。いつもどおりだな。効率がいい」
日用品作りや食料採集と変わらない。
「難しくなさそうです。帆布を作るのは大変なので、それも皮で構いませんか? 塩にやられやすいかもですけど」
「それな。硬くなって痛みやすい」
「普段遣いに向いてません。入れ替える頻度が馬鹿にならなくなりそうです」
少女は案としては弱いと感じている。
「帆布に言及したってことは、大陸じゃ帆船が主流か」
「そうです。ただし、風まかせではなく、乗員が魔法で風を送るので航行能力は案外高いです」
「そっちか。しかしだ、俺たちの船は帆船にしない」
堂々と言いきる。そちらも素案があった。正輝ならではの名案がある。
「船外機を造る。ほとんどバイクのプロペラ駆動機と変わらない構造になる」
「せんがいき……」
「あのプロペラ、今度はスクリューになるけど、あれで水を掻く」
船底に仕込む方法も考えては見たのだが、スクリューに繋がるシャフトを通さないといけないので、どうしても構造が複雑かつ重くなる。なので、推進機は船外機として独立させる方法を思いついた。
「駆動プロペラの力をそのまま下に降ろしてスクリューを回す。バイクよりもよほど単純。ただし、革ベルト使えないから歯車で伝達しないと、だな。そこが重くなるのは致し方なし」
陸上のプロペラボックスから水中のスクリューまでは歯車の積み重ねで回転力を伝達するしかない。ダイレクトにスクリューを回す方法も考えたものの廃案にした。
エメルキアたち妖精種は念動が得意でも水中のものを回すのは余計に力を浪費する。周囲の水も一緒に回すような感じになってしまうらしい。なので、洗濯桶の撹拌板も外からの動力で回していた。
「ざっくりとは理解しました。一緒になら作れそうです」
「じゃあ、まずは素材を集めて海に集積するのから始めるか」
正輝が段取りは決めたので素材集めから開始だ。
次回『船造り計画(2)』 「失敗がないと思います」




