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少女装鎧ジノグラフ  作者: 八波草三郎
パムール島の異変

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世界の成り立ち(3)

 当面は変身してもまったく違和感を覚えていないことを伝えてエメルキアを宥める。正輝としては、この変身は全てにおいて切り札になると考えているので封印されるのは避けたい。


(なにも問題ないのもほんとだし)

 むしろ体調がいいくらいだ。


 変身時には少女の変質した身体と彼の体表付近が融合している。感触としては皮膚だけなのではないかと思っているが、もしかしたら一部筋肉にまで及んでいるかもしれない。


(目なんかはちょっとよくわからないんだけどな)


 見た目は複眼なのだが、よく語られるように同じ景色が幾つも見えているわけではない。視覚は普通である。やや視野が広い感じはしているものの、まだ確実とはいえない。


(融合部分は都度更新されてるんだし)


 変身解除してエメルキアが本来の身体に戻るとき、融合していた部分は再生されていると考えられる。彼女の物質を変質させる能力に依存した現象だ。

 いわば新しく作り直されているので若返っているのに近い。新陳代謝の皮膚更新より速いペースで行われる。遺伝子的にどんな操作が起きているのかはわからないが、新品になっているので当然調子はいい。


(ルキが以前はあまり風呂に入る習慣がなかったって言ってたが当たり前だ。ありゃ、都度身体ごと新品になってる)


 妖精種(エルフィン)はなんらかの変質能力を使用するたびに全てが更新される。おそらく、その気になれば皮膚表面だけ新しくするのも可能だ。ならば、清潔に保つのは容易である。


「風呂に入れないときは変身するのもありか?」

 思わず口に出してしまう。

(そんなことを考えてたんですか? 呆れる)

「いや、便利だし」

(駄目です。人間は内側から更新されているのでお風呂は必須です)

 叱られた。

「融合できるだけあって人間の身体の仕組みはわかってるんだな」

(マサキと融合して熟知しました。血行を高めて疲労を解消したりするのにも有効です)

「ルキは不要なんだから今度から禁止な」

(意地悪です)


 拗ねている空気が伝わってくる。確かにお互い表層に浮かんだ感情は筒抜けになってしまうらしい。


「ともあれ、なにかのトリガーでメタル進化種が発生するのは理解した。これまでは下火だったが警戒が必要なのもな。これからはあまり離れないようにする」

 死活問題だ。

(それですが、マサキとわたしのあいだで経路が繋がったので、ある程度の距離までは離れてても変身は可能です。わたしのほうがマサキに引っ張られます)

「それは便利すぎる。具体的にはどのくらいの距離?」

(多少なら、という感じです)

 わりと大事なパラメータである。

「実験しときたいな」

(また、そんなことを。頻度もリスクになると伝えたではないですか)

「ほんとなら、そっちも実験したいくらい。でも、ルキの気が病まない程度にしとく」


 いろいろと検証が必要である。メタル進化種が出現する可能性がゼロではないと判明した今、切り札の性能は最重要事項だ。


「おそらくだが大丈夫じゃろう。距離も目の届かない範囲、ここからそなたらの家くらいまでは問題ないはずじゃ」

 今の感触をゼアネルヒも保証してくれる。

「だろ? 問題ないんだって」

(こうして話していられるんですから、わたしも大丈夫だとは思うのです)

「慣れさ、慣れ。重ねるともっと状態の把握はできると思ってる」

 方便ではないといえば嘘になるが詭弁でもない。

「そなたらに関しては心配あるまいて」

「他に心配事か?」

「いや、大陸はどうなっておるのかはわしもの」


 こう離れていては感じとれるようなものではないらしい。なにが進化のトリガーになっているのか不明なのだ。もしかしたら、大陸でも進化種が確認されはじめている可能性も否定できない。


流体金属(メタル)の多用がトリガーなのか。それとも、周期的な現象なのかって話?」

 ゼアネルヒの懸念は理解できる。

「もし、そなたの言う周期的な現象だった場合はな。いささか問題じゃ」

「なんでだ? 大陸の人類は統一王国とやらで協力体制にあるんだろ? 島の外にだって装鎧戦士(エルフィンアーマー)がいるんなら対処は簡単じゃん。同じことをくり返せばいい」

「そうでもないんじゃ。統一王国時代は百五十年も昔のこと」

 そこで気づいた。

「そういや、時代(・・)って言ったな。過去のことなのか」

「『メタルの災厄』終焉から長きときを経れば変化もする。人間たちは再び分裂して幾つもの王国を築いていると聞いておる」

「あちゃー、人間のやりそうなことだ」


 危難が去れば欲得が首をもたげる。簡単に想像がつく。そして、特に権力欲というやつはタチが悪く人を固執させる。結果として分裂が始まったとしても全然おかしくはない。


「災厄の頃のような協力体制を再び築くには一悶着も二悶着もあるじゃろうて。そのあいだに、またどれだけの人が死のうかの」

「弱いものから死んでくだろうからな。特に子どもが犠牲になるようだと、再興するにはとんでもなく時間が掛かる」

「悲しいことよのう。それも、人の性じゃて」

 長老は憂いている。


(この方はどれほどの惨禍を見てきたんだろうな。癒やされるべきはルキだけじゃなかったか)


 ジノグラフの歴史に触れた正輝は未だ救われていない存在が多いことを知った。

次回『世界の成り立ち(4)』 「痛いとこ突いてくるな」

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