世界の成り立ち(1)
契りを交わして変身できるようになった正輝とエメルキアは数日掛けて家の周囲を綿密にパトロールした。現在のところ、あのトカゲ以外のメタル系生物は確認されていない。
いきなり家が夜襲を受ける心配を取り除きたかったのである。まだ油断ならないが、多少は安心して暮らせるようになった段階である。
「生息地にも行ってみたけど変わった様子なかったな。むしろ、前より少なかったような」
「たぶん、あのメタルトカゲが周囲のメタルスライムを吸収していたのでしょう。一時的に数が少なくなった原因はそれ以外にないかと?」
「理に適ってるな」
「ロナもちゃんとパトロールしたもん」
ロナタルテに上空からも確認してもらっている。
メタル系の発生数にはかぎりがあると推測できる。当然だ。ボディの材料を自ら生成することのできない特殊な種族なのだ。周囲のコバルト埋蔵量に生息数が依存すると考えられる。
「最近、わりと流体金属を取りに行ってたからな。そのお陰で、あんなのが何匹も出てこないですんだか」
「ただ、数の減少で危機感を覚えた個体か種が生存戦略としてトカゲを生んだといえなくもなくて。そんな性質があるかどうかも不明なんですけど」
「あり得るな。ルキは頭がいい。俺は思いつきもしなかった」
だとすれば、正輝の到来がメタル系に変化を及ぼしたと考えられなくもない。痛い思いもしたが自業自得だったかもしれない。
「仕組みがわからん。まいったな。困ったときのゼアネルヒ様か」
「そうなりますね」
少女も同じ結論らしい。
「お母さんとこ行くー」
「そうすっか」
「ですね。そろそろお話聞くべき頃合いかも」
エメルキアは重苦しい声音だ。
「なんか気掛かりか?」
「この世界のこと知っていただく機会になるかも、と」
「契りのこと含めていろいろか」
正輝が知らなかったこともエメルキアは幾つも知っていて対処法もわかっていた。それはつまり、メタルトカゲの出現も特殊とはいえない事情をこの異世界が抱えているという事実を示している。
「はっきり言って、ルキが嫌なら俺は別に知らなくてもいいと思ってる」
始めに断っておく。
「たぶん、知ることで俺の態度が変わるのが怖いんだろ?」
「察してました? 少しそういう思いはあります。でも、なにも知らせないままなのは不誠実だとも思ってます」
「心配しないでくれ。なにを聞こうと俺がルキをないがしろにすることは絶対にない。誓ってもいい」
少女は抱きついてきた。
「信じてます。わたしの意気地がないだけなんです」
「君を泣かせることだけはしない」
「むー!」
張りついてきた小妖精も優しく受けとめる。
少女の持つ陰りを消し去るときが来たようだ。なにを聞こうと、必ずエメルキアとロナタルテから笑顔は奪わないと誓う。
「平気なようだ」
「メタルトカゲのような個体にとっては、ここも狙いになるかと危惧したのですけど」
「お母さん、強いもん」
ゼアネルヒの家は特に問題ない様子だった。だとすれば、当面襲われたのは正輝だけということ。不運に不運が重なった状態だったようだ。
「なにがあったね?」
「いやあ、ほんといろいろ」
いつもどおり迎えてくれた老婆なんだか幼女なんだかわからない存在に答える。エメルキアが率先してここ数日に起こった事の経緯を説明した。ゼアネルヒは黙って耳を傾ける。
「契ったか」
長老は頷く。
「どうだったか、と聞くまでもないか。そなたのほころんだ顔を見ていれば」
「え、わたし、そんな嬉しそうです?」
「契りを交わした下りでは特にの」
別のことを考えていて観察していなかった正輝は目をしばたく。
「なんというか、あの一体感は他に代えがたいものがありました」
「それよの。悪いことではないのじゃが」
「ええ、マサキにもリスクはありますし、どうすべきか迷うのですけど」
現在の二人の、変身してもまったく統合されない意識の状態も説明していく。その下りに関してはゼアネルヒも目を丸くしていた。
「見せてくれんかの?」
請われる。
「構わないよな?」
「はい」
「ビルドイン!」
正輝は変身する。あれ以降一度だけ試していて、キーワードが正確に機能しているのだけは確認していた。
「ほほう。確かに妙な見た目よのう」
「みんな言う。俺の世界じゃ共通認識に近いのに」
そのへんが納得いかない。
「そう言うな。これは常識の違いじゃて」
「わかってるつもりなんだが、なんかこう、ある種の幼い妄想を指摘されてるような気がするんだ。なにせ、これは子どもたちの理想とするヒーローの格好だからさ」
(そうだったんですか)
いいかげん教えておくべきだと思って吐露する。指摘されるごとに、いい歳をした彼の中の厨二病をなじられている気分になるのだ。
「そういうものよの。装鎧戦士は装着者が一番強いと信じている形態に変化するからの」
(それも、きちんと説明したんですけど)
「ふむ、本当に意識は完全に分かれておるんじゃのう」
彼女に触れてエメルキアの意思も伝わるようにしているのでゼアネルヒも感心する。
(ってことは、ほんとにこの状態は前代未聞といっていいものなのかもしれないな)
正輝は自分の言い訳が補完された気分になった。
次回『世界の成り立ち(2)』 「別の形態を取りはじめた?」




