変身(3)
正輝は自分からでは見えにくい範囲も鏡で観察していく。ボディもやはりプロテクタに覆われている。一つひとつがナイフにもなるような硬度を持つコバルト合金製だ。プロテクタ同士を繋ぐ部分も流体の性質を残しつつ、かなりの強度を持っている。
(メタルトカゲのトゲを簡単に弾いてたもんな)
どこにも刺さらなかった。
筋肉を象るよう配置されているプロテクタも緑色。間を埋める表皮部分は黒い。プロテクタを縁取るようにところどころの黄色が目に鮮やかだ。
ベルトを形作るようなパーツまであるのは御愛嬌と思ってほしい。ただし、細かなギミックや、ましてやサイクロンプロペラなどはなく、黄色く光を放つ円弧が配置されていた。
「これ、なんだ?」
よく見ると、胴体にも何箇所か黄色く輝く部分がある。
(それは魔法の放出部分です。全部を硬化させると魔法を使うのが難しくなるので)
「でも、硬いぞ?」
(強度は維持してます。性質を変えてあるだけで)
指で小突くとかなり硬い感触。
「すると、これは念動力を物質化したものなのか? それはちょっととんでもないぞ?」
(そうですか?)
「いや、参考になった。面白いことになるかもしれない」
心中でニヤリとする。
その場でストレッチしてみる。動作に不都合は皆無だ。どうやっているのか理屈は不明だが、ほとんどタイツを纏っているかのような感覚である。スーツアクターもしていた正輝には慣れたものだ。
「じゃ、このまま放りだした籠を探しに行こう。せっかく集めたんだし。またメタルトカゲが出てくるかもしれんし」
張り切って身体をほぐす。
(待ってください。この形態はリスクもあるんです)
「リスク?」
(頻度が多すぎたり、何日もとかあまりに長時間このままでいたりすると自我の境目が怪しくなってきます。そのうちマサキの自我がわたしの侵食を受けてしまうかも)
エメルキア的には回数や時間を最低限にしたいという。
「俺を思ってのことだな。ありがとう。でも、なんの不都合も感じてない。普通に話せてるけど、これで混じりあったりするわけ?」
(わかりません。聞いた話では融合状態で装着者になにか伝えたりは難しいと。でも、平気ですね?)
「こう思ってくれ。俺は耐性があるか適性が飛び抜けてる。だから、ルキが気兼ねしたりすることはない。なにしろ、あんな厄介なメタル系が出てくるようじゃ、この変身なしで外を出歩くのも怖くなるぞ」
これは本音とは違う。正直に言って有頂天になっていた。子どもの頃から夢見た変身ができたのだ。しかも、ただのスーツではなく本物である。浮かれるなというのが無理だ。
「こうしよう。怪しげな兆候があったら制限する。それまでは必要なときは変身する。どうだ?」
交渉が必要だ。
(わかりました。絶対に嘘をつかないでください)
「つかないつかない。俺だって我が身が可愛い。自我を失うとか死ぬと一緒じゃん」
(そうなんです)
気に病む気配が流れてくる。
「今日のところは万難を排して家に帰るまではこのまま。身体を慣らす意味もある。今後はメタルトカゲが出現したら俺が戦うんだからさ。不安要素は除いておきたい」
(そうします。でも、適性ですか……)
「なにせ、異世界人だぜ。ルキの常識とは当てはまらなかったりするかもしれないだろ?」
我ながらするすると方便が出てくるのが申し訳ない。どうやら、嘘をついているか否かまでは少女に伝わらない様子なので胸を撫でおろしている。
「解除は俺の意思だとしてさ、変身するときはルキにお願いしないと駄目な感じ?」
タイミングが決められないのは不都合だ。
(これで、わたしとマサキは経路が繋がりました。なにか明確な意思表示をしてくだされば、その変身? するように意識づけできます)
「じゃあ、キーワードを決めておこう」
(わかりやすくていいです)
ここで正輝は迷う。素直に「変身」と行きたいところだが、あからさますぎて気恥ずかしさもあった。
「あー、ルキ的には融合だから、そうだな『ビルドイン』にしよう」
適当に知ってる英単語を並べてしまった。
(『びるどいん』ですね。意識に刻んでおきます)
「なんか悪い」
(なにがです?)
少々申し訳ない気分になる。エメルキアとしてはリスクがあるから変身を避けていたのは理解できる。ゼアネルヒに促されても否定していた。それは彼の身体を慮ってのことなのだ。
「ルキは俺がこの世界で生きていける力をくれた。このままじゃ、君なしでは出掛けるのも難しかっただろう俺を救ってくれた。絶対に報いるから、好きなだけ望んでほしい」
これは方便ではない。
(いいんです。わたしもマサキが来てくれて救われたのですから)
「おあいこだな。俺たちは絶対にいいパートナーになれる」
(わたしもそう思います)
身体だけでなく心も一つになる。これはそんな変身だった。
「ロナを仲間外れにしちゃ駄目ぇー!」
耳元で吠えられた。
「もちろん、ロナも俺の大事な家族だ。君がいなければ、もうとうに死んでただろう。見つけてくれてありがとな」
「へにゃあ」
「っと、一気に流しすぎたか」
小妖精は肩でへたり込んだ。バフが掛かっているので精気を流す加減がまだできていない。早急に慣れる必要を感じる。
「しまったな。飛んでいって籠を探してもらう予定だったのに」
(下生えが荒れていますから、痕跡を追っていけば見つかるでしょう)
「そうだな」
二人はゆったりと森の中へと入っていった。
次回『世界の成り立ち(1)』 「ルキは頭がいい。俺は思いつきもしなかった」




