メタル遭遇戦(2)
素早く這いながら迫ってくるメタルトカゲ。頭部から背中にかけての銀色の体表からトゲを飛ばしては引き戻すをくり返す。肩に一撃もらったが特に毒などはないらしく、ズキズキとした痛みと出血が残っている。
(こいつ、俺を弱らせて精気を吸いとろうとしてやがる。あの目には精気の塊みたいに映ってるか?)
以前見たメタルスライムに食われるトカゲの映像が蘇る。
通い慣れた場所ではないので道らしい道もない。下生えが多くて走ろうにも走りにくい。それは相手も同じのはずだが、流体金属のボディを持つメタル生物は意外にも狭い隙間をすり抜けてくる。
(トゲが曲がって飛んでくることはない。撃ちだしてるだけ。だからといって寝転んだとて、な)
ガブリとやられるだけである。
走れない姿勢を取るのは自殺行為だ。できるだけ姿勢を低くして走って逃げるのが得策。しかし、下生えがそれを妨げてくる。すり抜けられるものはすり抜け、できないものは飛び越えて前転する。とにかくスピードを落とさないよう逃げるしかない。
(マズいな。こっちの息があがるのが先になりそう。スタミナとかそういう次元の生物じゃなさそうだし)
相手のエネルギー切れを待つのも危うい。
茂みを一つ飛び越えて、すぐの木の裏に隠れた。カカカと幹にトゲが突き立つ音がする。なんとか素早く呼吸をしてより多くの酸素を取り込もうとするも限界がある。草を踏む足音はかなり近づいている。
(どうにか足止めできないとジリ貧だ)
傍に転がっている石に気づいた。拾って飛びだし思いっきり投げつける。頭に命中した石は流体金属を放散させるも力を失って落ち、広がったボディも引き戻されて再生する。
(それでも、足止めにはなった。反撃手段はこれくらいしかないな)
かなりのリスクのある作戦だ。今は咄嗟に左手にナイフを持ち替えているが、それでは飛んでくるトゲを正確に弾くのは右利きの正輝には無理だ。かといって、左手で石を投げても命中すまい。どちらかしかできないのである。
(少なくとも頭にコアがないことは判明した)
まったく有利な材料ではない。頭でなければ胴体であり、そこにまわり込んで攻撃するなど現状は不可能に近い。
(あとはなにができる? 別の獲物を捧げるか?)
近くのトカゲを見つけて投げつけるなど。
(無理だろうな。ルキたちもそうだが、精気を取り込む性質を持つ種族は視覚以外で外から感じてるみたいだ。俺のほうが美味そうだって判断するな)
投石攻撃をくり返しながら逃げているが徐々に学習してきている。巧みに身を躱すようになってきた。頭を外れると胴体に波紋を描くだけで転がっていく。走るスピードを落とさせることができない。
(これならどうだ?)
今度は前脚を狙ってみた。上手く命中し、弾けたように拡散する。しかし、途中から逆再生の映像のように復元してしまった。ただし、復元するまで走ることはできない。
(いくらかマシだけど、いかんせん的が小さい)
石を投げても外れることが多くなってしまう。打開策としては決定的なものではない。
(足を潰したタイミングで横にまわり込んでコアを狙うか? まさに一か八かの賭けになる。最後の最後にどうしようもなくなってからがせいぜいだな)
正輝は石を拾っては投げつけることに専念した。
◇ ◇ ◇
エメルキアが布編みに没頭していると扉がドンと鳴る。マサキであれば声掛けして入ってくるはずなので不審に思った。くり返し、ドンドンと鳴りつづける。
(なにごと?)
感覚を鋭敏にしてみるが危険な気配はない。立ちあがって、そっと掛木を外して開くと、そこには肩を真っ赤に腫らせたロナタルテがいた。涙で顔をグシャグシャにしている。
「早く来て、ルキ! マサキが……、マサキが!」
「どうしたんです?」
あまりに慌てた様子に動転する。原因を聞きだす前に走りだした。ロナタルテはすぐに先導を始める。
「なにが起きたんですか?」
「メタルが出たの」
「生息域に行ったんですか?」
ロナタルテは自由だが、マサキには一人で生息域に立ち入るのは禁じてある。彼にはコアを攻撃して倒す手段がないからだ。
「違うー! ぜんぜん違うところ! なのに、メタルが急に出てきて」
「それはどうしようもありませんね。疑ってごめんなさい。わたしが着くまではもちそうでしたか?」
「大変かもー。だって、トカゲの形してたんだもん」
「なんですって?」
驚愕の事実を告げられる。危険極まりないものが出現したのだと覚った。ただし、彼女にとってそれは常識外のことではない。
「急がないと」
「早く早く!」
小妖精の表情は鬼気迫っている。
「浮いたらロナが引っ張るから」
「そのていどでは速くは飛べません。走ったほうが早いです。でも、これは糸の木の方向じゃありませんけど?」
「違う場所だったのー!」
経緯を聞いて納得する。マサキたちは決して無理はしていない。不運な偶然が重なった遭遇でしかなかったとわかる。それでも、危急の際であるのに変わりはない。
(でも……、だとしたら、わたしが行ってもどうにかなるか。いいえ、どうにかするしかありませんけど)
そうでないとマサキが食われてしまう。
エメルキアは脚に絡まる服を邪魔だと感じていた。
次回『メタル遭遇戦(3)』 「マサキ、わたしと契ってくれますか?」




