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少女装鎧ジノグラフ  作者: 八波草三郎
鴻ノ木正輝

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風変わりな異世界(3)

 見事に整っていながら、如何にも年相応に幼気な容姿のエメルキアの手伝いで洗濯物を干し終えた正輝は誘われるままに森に入る。下生えが刈り取られて踏みしめられただけの道の先には小さな木造家屋があった。


「お願い」

 彼には不満がある。

「言葉、使う」

「使えてる」

「単語、浮かぶ、だけ」


 それとなくコミュニケーションはできるのだが不便である。先ほどの言語を転送するような方法があるならもっとちゃんと教えてほしい。


「我慢、限度、ある」

 少女に諌められた。

「一日?」

「そう」

「明日?」

「続き」


 説得された。直接頭に書き込むような方法だ。かなり無理があるのではないかと思う。エメルキアは彼の身体を案じてくれているのだ。


「理解」

「ありがとう」


 そのあとは彼女の指導を受けつつ家事を手伝う。期待していたのだが、家の中にも親の姿はない。しかも、両親が生活しているスペースや気配さえない。


「親?」

「いない」

 簡潔に返事が来た。

「君、だけ?」

「そう」

「手伝う」

「ありがとう」


(詳しく聞きたいところだが、このコミュニケーション能力ではどうにもならないな。まあ、明日でも明後日でもいいか)


 当面、自分がどうしてここに来たのか、どうすれば戻れるのかわからない。もしかしたら、今夜寝れば戻ってるかもしれないし、森の中に入らねば戻れないかもしれない。


(どうしても気になってることだけにしよう)

 半分あきらめた。


「急、来た。怖い、ない?」

「怖い、ない」

「なぜ?」

「ロナタルテ、離れない」


 エメルキアの指差す先には例の身長20cmのフィギアサイズ妖精の姿がある。実はずっと彼の肩に座って張り付いたままだった。頬にもたれかかって、時折顔をつけてきたり両手で触れたりする。されるがままにしていた。


「ロナタルテ?」

「いい、人。離れない」

「すごく、いい」

「しゃべる、できる」


 驚かされた。その妖精っぽい少女も話せるのだった。サイズに合わせた声量なので声は小さいのだが、耳元で話しかけられると十分に聞こえる。


「ロナタルテ」

「マサキ」

 嬉しそうに顔に張り付く。


 身体は小さいのに、ちゃんと女の子っぽい身体つきをしている。出るべきところは出ていて、とても柔らかな感触が伝わってきた。

 エメルキアとロナタルテがしゃべっている会話はほぼ聞き取れない。おそらく、意識を向けられていないと、まだ学習していない文法が理解できない。


「美味しい」

「いい」


 質素だが食事も出してくれた。なにかわからない肉を焼いたものと摘んできた野草に見える。ただし、味だけでなくスパイスも効いていて十分に美味しいと思えるもの。エメルキアは野草を少し口にしただけでロナタルテに至ってはなにも食べない。


「大丈夫?」

「平気」


 育ち盛りのはずなのに、そんな量でいいのかと思うが問題ないらしい。彼が旺盛な食欲を発揮するのを楽しげに眺めていた。


「いい?」

「なに?」


 日が暮れて、案内されたベッドに身を横たえると隣にエメルキアが座ってきた。ロナタルテは枕に腰掛けて顔に寄り添っている。そういえば、この家に他にベッドはない。


(しまった。不調法だったか)


「床、いい」

「そのまま」


 少女は覆いかぶさるようにして彼の頬を両手で触る。昼間のように意識が重なるような感覚はない。しかし、なにかが繋がっていると感じる。しばらく触れていると彼女は満足げに欠伸をした。そのまま横で眠りだしてしまう。


(まいったな。そりゃ、こんな子どもに手を出す気はなくても、あまりに無警戒すぎないか?)

 隣を窺うと、とてつもない美少女が寝顔を見せている。

(自制できるが、趣味によっては我慢できないような状態だぜ? こんな無防備にされると寝られるわけが……)


 そこまで考えたところで正輝は眠りに意識を持っていかれた。


   ◇      ◇      ◇


「よく眠れた?」

「気を失うように」

 残念ながらまだ異世界で目覚める。


 起きてすぐエメルキアが手繋ぎを求めてきたので従う。再び意識が重なるような感覚があってしばらくすると途切れた。次に掛けられた言葉が今のもの。


「文章になった。これは便利」

「頭の整理ができた。眠ったから」


 だから、意識を刈り取られるように眠ったらしい。色々とストレスがあったとも感じていたが、ちゃんと理由があったのだ。少し安心する。


「マサキ、おはよう」

 妖精が飛んできて肩にとまる。

「おはよう、ロナタルテ。君は元気?」

「絶好調。マサキが美味しいから」

「俺が美味しい?」

「ごめんなさい」


 意味不明なことを言われる。呆然と固まっていると少女が頭を下げて謝ってきた。理由がわからずエメルキアを見つめる。


「ロナタルテはずっとマサキの精気を食べてた。わたしも注意しなかった」

「へ?」


(精気を食べる? なにか吸い取られてたのか?)

 妖精がずっとくっついて離れなかったのはそんな理由からだったのかと気づく。


「ついてきて」

「ああ」


 促されるままに川で顔を洗う。冷たい水で顔を洗うと意識が引き締まった。なにか重大なことを告げられたような気がする。

 導かれるままに森に入る。渡された籠を肩に掛け、道すがらエメルキアが摘む野草をその中に入れていくだけの作業。気づくとかなり深い森の中だった。


「妖精種はなにからでも精気を吸う」

「精気がなにかわからない」


 大樹の脇に差し掛かるとロナタルテが幹に手を触れるのを正輝は観察した。

次回『風変わりな異世界(4)』 「これは癖なんで気にしないでください」

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