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少女装鎧ジノグラフ  作者: 八波草三郎
パムール島の異変

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39/50

メタル遭遇戦(1)

「綿が足りなくなってしまいました」


 エメルキアがそう言うので、正輝も籠を覗き込むと底だけが見えている。結構な量集めていたつもりだったが、最近の衣類量産の影響で底をついたらしい。


「糸の木まで行けばまだ残ってたよな?」

 高い場所に実がなっていた記憶がある。

「マサキが採れるような場所はもうなかったかと」

「じゃ、ロナと行ってくるわ。作業続けててくれ」

「そうですね。ロナ、よろしくお願いします」

「あーいー」


 なんてことないお遣いだ。体力維持に整備しているランニングコースからもそう離れていない。糸の木の実の採集であればロナタルテで十分。少女の手を煩わせるほどではないと思っていた。


「競争するか、ロナ?」

「するー。ロナが勝ったらオヤツのフルーツも採って帰ってー」

「いいぜ。俺が勝ったら今日の夕食の準備はルキを手伝うこと」


 糸の木の密集地までは散歩くらいの距離。中距離走ていどの感覚だ。ドアを開けてのスタートで飛ぶ小妖精(リトルエルフィン)と走りで対抗するのは少々厳しいか。特に彼の精気でパワー充実しているロナタルテとでは分が悪い。


「俺の勝ち」

「ズルー!」


 様子を見ながら飛ぶロナタルテを油断させるようペースを緩める。糸の木が見えはじめたところで加速し、気にしている妖精を一気に追い抜いてゴールした。


「いいから、さっさと採ってこーい」

「もー!」


 腹を立てた小妖精(リトルエルフィン)は高いところまで飛びあがって実をもぎ取ると投げつけてくる。正輝は笑いながら受けとめたり身体に当たって落ちたのを拾ったりする。


「拗ねるな拗ねるな。ぶつけてもいいから投げて寄越せ」

「もうないー」

「マジ? ほんと? 乱獲しすぎたか」


 木々を巡ってみても本当に白い綿をつけている実は見えなかった。どうやら使いすぎたらしい。


「まだ、籠半分ほどだな。足りるかもしれんが不安だ」

 お遣い失敗は遠慮したい。

「ロナ、このへんに野生の糸の木、生えてないか?」

「生えてるー。ちょっと遠いけどー」

「危険なのが出るほう?」

 エメルキアがいないのでメタルスライムとは会いたくない。

「メタルは出ないよー」

「じゃあ、収穫してまわろう。ついでにフルーツも採ってやるから」

「やったー!」


 トカゲなら彼でも狩れる。今日のおかずにちょうどいいくらいだ。気軽に足を伸ばすと決めた。


「上出来」

「いっぱいー」


 籠に山盛りの綿を集められた。これならしばらく不足はあるまい。道すがら、フルーツをもいで、小さく切り分けた分をロナタルテに渡す。正輝は残りを齧っていた。汁気の多い果実は喉も潤してくれる。


「なー! メタルぅー!」


 肩にとまっていた小妖精が騒ぎはじめる。右手に持った果実の欠片を振りまわしていた。続いて、茂みがガサゴソと音を立てる。


「ほんとか?」

 声をひそめる。

「見えてるもん」

「そうか。逃げる」


 妖精種(エルフィン)たちにはメタルスライムの動作が放つ磁場が見えているらしい。その大元が連中のコアであって、そこに破壊の魔法、正確には念動力の衝撃波かなにかを送り込むと倒せるという寸法。しかし、ロナタルテのパワーではメタルスライムを撃退できるていどでしかない。


「ゆっくり下がるからな」

「う、うん」

「生息地の外にまで出るとはまい……、なに!?」


 茂みを割って現れたものに驚愕する。銀色の扁平な頭に小さな点。視覚があるのかこちらを向いてくる。頭に続いてずるりと這いだしてきたのはトカゲのボディだった。四肢と長い尻尾を持っている。


「冗談だろ?」

「違うー。ロナにも見えてる。初めて見たのー」


 サイズではカルデラ湖に出た水トカゲには及ばない。しかし、カパリと開いた口には鋭い牙が並んでいる。尻尾まで含めれば彼の身長と変わらない1.8mほどはあろうか。


「マズい、な」

「どうするのー?」


 正輝はナイフを抜く。問題は見た目の怖さではない。メタル系生物の攻撃特性のほう。もし、メタルスライムと同じ攻撃法を持つなら彼では敵わない。


「コアを攻撃して撃退できる?」

「やってみるー」


 後ずさりしつつ提案する。ロナタルテは全力を尽くして要望に応えてくれたようだ。しかし、それはメタルトカゲを刺激しただけに終わる。


「ちっ!」


 飛んできたトゲをナイフで弾く。先の鋭い部分は逸らせたものの、後ろの触手部分を斬るには至らず引きもどされた。次々と発射されるトゲを弾きながらバックステップする。


「なんてこった。やっぱりかよ」


 メタルトカゲは身体を持ちあげると四肢を使って這い寄ってくる。それはメタルスライムが這うスピードの比ではない。彼が走るのとそれほど変わらない機敏さだった。


「マズいマズいマズい!」

「怖いよー!」


 どうにかトゲを退けているが、後ろを向いて走りだすのもままならない。チン、チンとトゲとナイフが奏でる音が森に木霊する。一つがすり抜けて左肩に突き刺さった。


「ぐぅ!」

「マサキ!」

 唇を噛んで引っこ抜く。

「ロナ、頼む」

「な、なにー?」

「飛んで戻ってルキを連れてきてくれ。俺じゃまったく歯が立たない。このままだとトゲにやられて終わりだ」

 スピードでも手数でも敵わない。

「でもー」

「頼む。それしかない」

「すぐに連れてくるからー!」


 正輝は飛び去る小妖精を見送って、集中の吐息を放った。

次回『メタル遭遇戦(2)』 (どうにか足止めできないとジリ貧だ)

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