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少女装鎧ジノグラフ  作者: 八波草三郎
孤島スローライフ

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35/43

島と世界(3)

「ゆったりするがええ」

「してるさ、思う存分ね」

「そのうえで思うとこがあるならまた来い。それを困らせんでくれ」


 正輝はエメルキアを問い詰めないようにゼアネルヒに言い含められる。彼が歪みを気にしていると見抜かれている。事実、大陸の現状を聞きだしたいとは思った。


「本意じゃない。失礼じゃなきゃ、年齢くらいは聞いてもいいかと思ってるけどね」

 見たままの年齢ではないのは周知の事実である。

「わたしですか? 繁殖個体に成長してから五十年ほどです」

「年上だったか。いや、態度変えるつもりはさらさらないけどさ。たぶん、君たちは人間とは時間の流れが違う」

「です。でも、マサキは十分に子どもっぽい我が儘を許してくれてます」


 膝に乗ってくる。甘えてくる。一緒にいたがる。触れたがる。確かに子供っぽいといえばそれまでなのだが。


「幸せそうじゃの。そなたに二言はないか」

 からかわれた。

「もちろん。今んとこ食を豊かにすることと、彼女を笑顔にすることしか考えてない」

「ロナはー?」

「すまん。君たちを、だな」

 心からの言葉である。

「だったら、わたしはマサキに合わせたわたしで在ります。それが妖精種(エルフィン)としての歪みだったとしても構いません」

「ロナもー!」

「じゃ、俺は全力で応えるまでさ」


 若干の怖さはある。エメルキアの彼に合わせた姿というのは性的な意味も含んでいそうだ。繁殖個体としての本能に従いすぎないでほしい。


「マサキと契るか?」

 ゼアネルヒが余計なことを言いはじめる。

「わしもあれはエルフィンの一形態とも思えないでおる。歪みといえば歪みなのであろうが当事者が毛嫌いせんからのう。なんともいえぬ恍惚感があるらしいでな」

「ちょいちょい、いらんことを吹き込むな」

「してみればわかる。リスクが無くもないがの」


 事案に至るリスクは避けたい。まあ、この異世界に彼を検挙する警察がいないのも間違いないが。


「ともあれ、落ち着いたのは結構なこと。ジノグラフにようこそ、マサキ」

「名前があったのか? そういえば基本情報を押さえてなかった」

「はい、この世界はジノグラフと呼ばれてます」


 今さら感が半端ない。それだけ目まぐるしい日々だったのかと思う。ほとんどは正輝の庇護欲の暴走の果てのなんだかんだだったとしても。


「ちょっと恥ずかしくなってきた。じゃ、またな、ゼアネルヒ様」

 そそくさと辞去する。

「エメルキア、そやつを放すでないぞ」

「はい、放しません」

「ロナもー」


 二人にまとわりつかれながらゼアネルヒの家から帰路についた。


   ◇      ◇      ◇


 初めてマサキの鋭い一面を見た気がする。追及されたゼアネルヒが世界の現状をすべて語ってしまうのではないかと気が気でなかった。


(知られたくない。それでマサキが変わったりはしないとは思う)

 信頼は深い。

(それでも、人は社会生活を営む生き物。ルールを守って生きることを良しとする側面もある。特に、自分に言い訳できる材料が十分にあるときは平気で残酷になれてしまうもの)


 怖れているのは、人間が協調性を重んじる点。同調圧力もある。もし、マサキがそれを望んだとしたら、彼女は合わせて他の妖精種(・・・・・)と同じように振る舞うしかない。そうなったとき、地獄が始まる。


「帰るぜ。さあ、乗った乗った」

「……はい」


 急に心がしぼんでしまうエメルキアだった。


   ◇      ◇      ◇


 ゼアネルヒとの話を終えたあと、少女は急に無口になった。どうやら、正輝に知られたくないことに浅く触れたらしい。年齢のことではないのは確かなはずだが。


(気にならないっていえば嘘になる。こんなに冴えない顔をしてるのなんて珍しいからな)

 いつもほど寄りかかってこようとしない。

(だからって、訊くのもはばかられるな。よほど嫌なことなんだろ。おそらくトラウマレベルの)


 掘り起こしていいことはない。間違いなくエメルキアを傷つける。ヒントは島の外の世界にある。彼女が出てもいいと望まないかぎりは触れないことにした。


「そろそろ、ブーツを頼んでもいい?」

 そっと話し掛ける。

「もう、スニーカーがぼろぼろだ」

「すにーかー? その靴のことですね。皮でいいんです?」

「繊維で編むとこの強度は出ないだろ。皮膜素材なら馴染ませるのは手間じゃないんじゃね? っと、そうだ。つま先を金属……、は重いな。繊維樹脂で固めてくれるといい感じのライダーブーツになる」

 いつもみたいに要望を連ねていく。

「カチカチにするんですか?」

「家具の角に小指をぶつけても痛くないんだぜ?」

「それだけのためです?」


 少女がくすくすと笑いはじめる。結局はあれやこれやと話し合っていろいろと作っていくのが日常なのだ。エメルキアはそれが続くのを望んでいる。


「俺のパンツの洗い替えが先か、ブーツが先かは任せるけど」

「パンツと優先度が変わらないんですか?」

「ああ、男は最低でもパンツの裏表で我慢できる」

「駄目です。パンツが先です。不潔なんだから」


 口を尖らせている。ようやく通常営業に戻ったようだ。胸で感じる体重も戻ってくる。


(いつか、エメルキアの心の古傷も癒やしてあげられればいいんだけどな)


 それは当面、正輝の最優先ではなかった。

次回『まばゆさと幸せの中で(1)』 「人を襲うサイズの魚は?」

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