島と世界(2)
素材集めをしてまわった正輝たちはゼアネルヒの家に向かう。そこは前回と変わらぬ姿でそこにあり、中に入っても変わらず青髪の少女にしか見えない妖精種の長老が泰然と座っている。まるで、変わらないことを良しとしているような雰囲気があった。
「来たか。いろいろと動きまわっておるようじゃの?」
美しい少女が美しい声を漂わせる。
「まあね。ちょっとばかり住みやすくしたいと思ってさ。あんたはここにいて、すべてを見通しているようじゃん、ゼアネルヒ様?」
「ふむ。子どもたちが耳打ちしに来てくれるからのう」
「確かに、どこに行っても目はあるか。特に口止めもしてないし」
小妖精はどこにもいる。
「そなたが腹いっぱいにしてくれたと喜んでおったわ。代わって礼を言おう」
「別にいい。あの子たちがいると余計なものが寄ってこない。俺はひ弱なんでね」
「言うわ。そなた、わしらの使い方を日々憶えていっておるの」
ギブ&テイクでしかない。彼女たちが見守ってくれるのなら、それに合わせて対価を払うだけである。しかも、正輝にとっては非常に安いものだ。
「ここはいい場所だ。不便を言いはじめればキリがないが、あくせくしなくてもどうにかなる。人間ってのは、社会にいるとなかなか自分のペースで生きられない動物なんでね」
解放感は半端ではない。
「で、あろうな。そなたの同類は自分たちの都合のいいように社会の仕組みを作る。周囲のことなどお構いなしじゃ」
「しかも自覚がないと来たもんだ。まるで、誰にとっても都合がいいように振る舞う。すぐ自分たちが世界をまわしているんだって勘違いする」
「皮肉なことを言うのう」
ゼアネルヒは「ひひひ」と笑う。
「環境を守るというのさえ方便なのさ。結局は自己の発露くらいにしか考えてない。根本的原因から目を逸らして口先だけでさえずる」
「それだけ客観視できる人間がどれだけおろうか」
「難しいな。まるで濁流のような情報に身をさらして初めて気づける」
勘のいい者だけだ。大多数は自身が濁流に飲まれているだけなのにさえ気づいていない。ニュートラルに自身をたもてる者が世を拗ねる。
「なあ、ゼアネルヒ様。あんたはその人間社会からここを切り離したかったのか?」
やっていることはそれ以外にない。
「なにを守ろうとしている? 島を隔離しないと妖精種を守れないほど弾圧されたか? そんなに数が減ってるのか?」
「そう慌てるな」
「しかしな」
エメルキアは以前、妖精種が成人女性の姿で人の社会に近づいたとき妖魔扱いされたと言った。さらには、彼がまるで精気の湧く泉のようだという。つまり、大陸の人間は正輝ほど精気を持っていないことを意味する。
(吸精の妖魔扱いされて狩られていたか。隠れ住んでいるのも許されず、大陸から姿を消しつつあるのを憂いて島を禁域にしたか)
仮に妖精種を忌み嫌わない一部の人間に頼って種を永らえていたとしても限界はある。繁殖のためという少女形態を捨てるべく、島を土台にしようとしているか。
「弾圧のう」
今度の笑みは意味深だ。
「大陸はそなたの思うておるような状態にない。逆に我らの数はもしかしたら史上最大になっておる。少々歪んだ共生関係になっておるのじゃ。わしはどうもそれが好かぬでのう。ここに在るべき姿でいられる場所を設けた。それだけのことじゃ」
「共生関係ね。どんな?」
「そなたとエメルキアと大して変わらんのかもしれんのう。マサキは精気を与える。エメルキアはそれを受けてそなたの望むものを返す。単純に言えばそうじゃの」
なにか含みがあるように思えてならない。
「隠すだけでいいのか? 場合によっちゃ、俺はこの島を守る備えをする。それだけの知識がある。多少の時間を掛けてでも、あんたが求めているような楽園を作ってもいい」
「ふむ。そなたにならできるかもしれんのう。しかし、不要じゃ。ここは仮初の場所。我らが原初の姿を忘れないでいられる。それだけでよい」
「いやに消極的だな。わからなくもない。人間が最初にして最後に用いるのは数の暴力だ。それにはなかなか敵わない」
正輝の行動原理はそれである。欲得に駆られた人間に物量を持たせてはならない。しかし、為政者というものは往々にして欲得で動いてしまう。
それを制する勢力が必要だ。子どもの頃から正義を夢見て、正しく生きることを心掛ける大人に育ってくれればいい。そのために是々非々で動く姿を見せつづけたいと願った。
「簡単じゃないねえ。それに、わしにもわからんのじゃよ」
ゼアネルヒは苦笑する。
「本来の姿がエルフィンの未来によって良いものなのか。それとも、人と社会に馴染んで変化し適応するのが生きとし生けるものとして正しい姿なのか。そなたはどう思うかの?」
「難しい問題だな。俺の世界でも人と暮らすことで変化し、人を除けば最大数を誇る動物はいる。ただし、人間社会に適した姿に歪められてではあるけどさ」
「そうじゃろうのう」
犬や猫が代表格である。
「彼らが幸せなのかそうでないのか俺にもわからない。もし、幸せなのだとしたら、それは歪みじゃなく進化なんだろうな」
「言い方一つよのう」
「進化だとしたら、人類には彼らを幸せにする義務がある。そう思ってる」
正輝は自分の考えを言いきった。
次回『島と世界(3)』 「ちょいちょい、いらんことを吹き込むな」




