島の探検(2)
正輝はいつしか服を脱いで海に入っていた。皮のボトムスに塩水は悪いと思って脱いだのが始まり。下だけパンツなのは収まりが悪くて上も脱いでしまう。服をバイクに預けてロナタルテと遊んでいた。
「マサキだけズルい。ロナも脱ぐー」
「いや、脱ぐ必要ないだろ」
「じゃぶじゃぶするー」
貫頭衣みたいになっているので簡単に脱いでしまう。放りだした服を受けとめてバイクのところ持っていってやらねばならなかった。
「で、どして?」
「わたしも海、入りたいです」
「せっかくバイク乗ってるあいだは下着をさらさないですむようにしたのに意味ないじゃん」
エメルキアも下着になっていた。彼女の辞書に羞恥心という言葉はない。まあ、前垂れがひらひらして視界を遮らないですんだと思ってあきらめた。
「ナイフだけ持っていくんですか?」
「昼飯、どうにかしたいと思ってさ」
魚を獲りたい。この異世界にも彼の知っているような魚がいるのはわかっている。川にもいたのだが、まだゲットする方法を試作する時間がなかっただけだ。
「たぶん、そうだと思うんだけど」
そのへんに転がっている大きめの石を転がす。やはり、下にはヒルの仲間が蠢いていた。ひと握り捕まえる。
「食べるのー」
「食べない。こうする」
(そのうち、釣り道具も作りたい。こいつはあまりに原始的で効率悪い)
そう思いつつも実行に移す。
膝まで海に浸かって足元にヒルを放る。捕食者である魚が群がってきた。予想どおり、人慣れしていない魚は遠慮なく足元までくる。
じっと目を凝らして狙いを定める。ひと際大きな影が視界に入ってきたと思ったタイミングで、逆手にしたナイフを突きいれた。手応えがあったので持ちあげる。
「獲ったどー……、へ?」
「おっきい!」
「立派ですね」
じたばたと暴れている。びちびちとではない。その影には手足があった。正輝は頬を引きつらせる。
「なぜに?」
「海トカゲですけど」
「また、トカゲかい!」
言われて見渡すと、浜のところどころに這いあがってきているトカゲが散見される。冷えた身体を温めに上がってきているのだそうだ。
「あれ、手で捕まえられるんじゃね?」
「素早いですけど頑張ればたぶん」
「食べるー?」
「あー、これは食べる」
刺してしまった以上は美味しくいただくしかない。なんだか慣れてきた手順で皮を剥ぎ取っていった。肉にして、拾ってきた枝を差して少女が作ってくれた焚き火で焼く。程なく、こんがりと焼けていい香りが漂ってきた。
「あ、美味い。陸のより癖がない」
「海トカゲは潜って海藻とかも食べるんだと聞きました。それで味が良いのだと」
「雑食か。わからなくもない」
全体に肉が柔らかく食べやすい。味も申し分ないのだが、今ひとつパンチが足りない気がする。飛びトカゲの癖のある味に感化されてしまった自分が怖ろしくなる。
「今度から、どこ行くにも塩とスパイスは必携な」
「そうですね。マサキみたいによく食べる人がいるのに、まだ慣れてなかったかもしれません」
「美味しー」
二人も少しずつ口にしていて満足げだ。違うエネルギー源で生活しているとはいえ、やはり身体の材料は不可欠なのではないかと思ってしまう。じゃなければ、家に塩とかスパイスだとか置いていなかったはずだ。
「デザート探す。行こう」
「はい」
砂浜沿いの木立にはフルーツらしきものも実っている。正輝ではどれが食べられてどれが毒なのかもわからない。少女をガイドにして漁ってきた。
「甘い、酸っぱい。いいな」
「これも美味しー」
「わたし的にはこっちのほうが好みです」
どちらかというとエメルキアはベジタリアン寄りのようだ。野草やフルーツを好んで食している。彼はまだ肉食中心である。日本人として、そろそろ魚も食べたいところ。
「このへんのロナのお友達も食事タイムらしい」
木立のあたりから様子を覗いている小妖精たちがいる。
「図々しいー」
「そう言ってやるな。来い。構わないぞ」
手招きすると三々五々集まってくる。躊躇いがちに周囲を飛んでいたが、上裸の正輝が腕を差しだしてやると喜び勇んで触りに来た。
「この子たちの羞恥レベルがどうもわからない」
「普通だと思いますけど」
総じて胸元と股間は隠す程度の衣類はまとっている。それこそビキニと変わらない面積だが、ふわふわとしてなんだか可愛らしい格好をしていた。
「布の入手が難しいことを考えるとわからなくもないんだけどさ」
致し方ないところもあると思っている。
「でも、恥ずかしがらないルキたちを見てると、すっぱ……、じゃない、なにも着けてなくても変じゃない気がする」
「これは糸の木の綿を成形したものですね。手に入りやすくて加工しやすいので」
「隠そうとする意識はあるんだ」
論点はそれ。
「一応は。初めて会ったとき、わたしが服を着ていたのをなんだと思ってるんですか?」
「いや、失礼」
「基本的には隠そうとするものです。でも、いただくものがある以上は、相手に心を許していると思ってもらいたいのです」
(ありのままの姿が心を許しているってこと?)
今の説明だとそうなる。
(そのへんの感性はやっぱちょっとズレてる感じがする。なんだろな、このすれ違い感は)
このときの正輝にはピンとこない話だった。
次回『島の探検(3)』 「未踏破の場所だと無理は禁物」




