バイクへの挑戦(5)
「なんだかわかる?」
「たぶん、メタルスライムです」
正輝はエメルキアの答えが理解できなかった。
茂みの向こうが薄ぼんやりと光っていて、周囲の木々も暗闇に浮かびあがっている。青白く見える発光は結構な距離まで届いていた。
「メタルスライムって光るっけ?」
「普段は光りません。見たらわかります」
こっそりと近づく。
「お食事中」
「みたいだな、ロナ」
「トカゲを捕食してるんです」
もがくトカゲにメタルスライムが覆いかぶさっていた。血を流しているところを見ると、トゲで攻撃して弱らせてから取り込むところらしい。
(いや、待て。あのトカゲを吸収するのか? それでメタルのボディが作れるわけがない)
彼の予想では、メタルスライムは同じメタル系微生物、洞窟の中にいる爪のサイズくらいのメタルアメーバを取り込んで大きくなっているはずだった。ところが、スライムはトカゲを襲っている。
「そういえば、俺たちを襲う理由もないんだった。なんでだ?」
迂闊にも気づかなかった。
「理由はあります。メタルスライムはマサキの精気を吸いたいんです。すごいご馳走に見えてると思います」
「マジか」
「見ててください」
スライムは光りながらトカゲを貪っている様子。トカゲは萎れていったかと思うと力尽きて死んだ。スライムは相手の精気を吸い尽くしてしまうらしい。
「なんてこった。意外とグロ」
「気をつけないとマサキもああなっちゃうー」
ロナタルテに脅される。
(しかし、なんで発光してる)
不思議だった。
(そもそもコバルトボディを流体化している原理さえわからん。流動運動させるのに精気も使ってるのか?)
ボディを自在に動かすのには磁気を使っているのまでは判明しているが、流体化する方法は全く理解不能だ。どうやら、精気が関連しているらしい。
(流動してるんだからブラウン運動してるはずだな。エネルギー過多になると、その分を光として放出するのか? すると、ずいぶんとエネルギー効率が悪いもんだ)
原理がわからないので推測するくらいしかできない。ただし、理論的にかなり無理している感じはする。
「倒すぞ」
「捕るんです?」
試してみたい。
「一匹分くらいは革袋に収まるだろ?」
「入りますけど」
「じゃ、頼む」
ナイフを抜いた正輝が前に出る。意表を突かれたメタルスライムもトゲを飛ばして応戦してきた。彼が弾き飛ばしているうちに少女がコアを破壊してただのコバルト流体にしてしまう。
「もーしかーしてー」
期待に胸が踊ってしまう。器にすくい取った流体金属に指を突っ込む。そこに精気を流し込んでみた。メタルは青白く眩しいくらいに発光する。
「大当たりー」
「マサキくらい強い精気を流すとそうなります」
「知ってたんかい!」
思わずツッコむ。
「だって、それをずっと続けられる人なんていません」
「こんなに光らなくていい。もっと大人しくてもな」
「そうなんです?」
悩んでいたのが馬鹿らしい。こんなに身近に絶好の素材が転がっているとは思いもよらなかった。
「明日はライトの開発だ。いや、ファイバー樹脂も実験しないといけない。忙しくなるぜ」
「めっちゃ楽しそう」
ロナタルテにからかわれつつ正輝は帰り道を急いだ。
◇ ◇ ◇
まずはガラスで入れ物を作ってもらう。そこに流体金属を流し込んだ。金属端子を差し込んで、漏れないように封をしてもらう。それで出来上がり。
「んじゃ、点けるぞ」
正輝は金属端子の先を持って精気を流す。中身のメタルは、昼間でも明るいとわかるくらいの輝きで応えてくれる。いい感じだった。
「成功ですね」
「大して精気を使わずにこれだ。簡単だろ?」
エメルキアも感心している。
「よし。これを三つばかり作って光源にする。ライトのレンズも欲しいからイメージ転送させて」
「どうぞ」
「ガラスもお手軽なのは助かるよな」
そのへんの石で作れてしまう。少女の素材精製能力は素晴らしい。もっとも、家の窓がきれいな透明ガラス製な時点で気づけと言われそうだが。
「メタル球を三つ束ねてベースに付けてレンズを嵌める、と」
端子は引きだして導線を接続した。
「はい、点灯式」
「見事に明るいです」
「すーごいー」
室内を明るく照らした。
ランプのように放っておいても点いていてくれないという難点はある。しかし、手持ちライトとしては十分な明るさがあるはずだ。
「これでランタンも作っとくか」
「夜道も安心ですね」
「その前にテールライトも頼んでいい?」
バイクに組み付けていく。導線を伸ばして、左のハンドルグリップのところに精気注入用の指掛けを付けた。これで好きなときにライトを点灯させられる。
「最高だ。涙出そう」
「そんなにこの乗り物欲しかったのー?」
ロナタルテは怪訝そうにしている。
「乗ったらわかる。こいつはある意味、大人の趣味の乗り物でもある」
「喜びようからしてそうなんでしょうね」
「マサキ、子どもみたいー」
なんと言われようがいい。これは拘りなのである。急にわけもわからず、風変わりな世界に放り込まれたのだから、思いきり趣味に走っても許されるだろうと思っている。
「じゃ、次は樹脂カウルの実験に入る」
「ここまできたら、いつまででも付き合います」
エメルキアの協力を得て、正輝は理想の暮らしを目指して挑んだ。
次回『島の探検(1)』 「スピード出すから掴まって」




