バイクへの挑戦(4)
正輝はライトの問題を先送りにしつつオートバイの車体を組みあげていく。まずは動力プロペラ室から始めて、順に後輪へと進んでいった。なにせ、試行錯誤しながらなのでサイズ感がわからず、シャーシフレームを先行させるのは無理だった。
「これ、持っとくからくっつけて」
「はい」
エメルキアがいれば楽なことこのうえない。組み付けするにも、部品をあとから結合させるのも可能だからである。それぞれのパーツをきっちり固定する方法を考えなくてもいい。最初からそういう形でしたと言わんばかりの仕上がりになる。
「思ったよりも普通のバイクっぽい形になりそう」
「こういうものなんですか?」
二輪車なので、基本的な形状が共通しているといえばそれまで。しかし、異なる動力系を一から作っていることを考えると意外でもあった。
大きく違うのはガソリンタンクが不要なところ。なので、シートを前にも延長して少女が座るところも作る。いわば、彼女がエンジンそのものと言えなくもないので、順当といえば順当か。
(いや、ガソリンタンクは俺のほうか)
ちょっと笑える。
「ここに座るんです?」
「いいだろ。俺という背もたれもある」
「本当」
少女はくすくすと笑う。
もう一つの違いはハンドルのところにある指掛け。ブレーキレバーやクラッチレバーではなく、ただの指掛けである。
これは車体に正輝の念動を流してクラッチ操作やブレーキ操作をする金属露出部品でしかない。ハンドルには皮膜革の柔らかいグリップを巻いたので必要になった。
「っと、ニッケル鉄がもうちょっと足りそうにないな」
「マサキが車体を大きくしたいと言うからですよ? もっとコンパクトに収められたのに」
「いや、そこそこ大きいほうが格好いいじゃん」
ここでも男のロマンは理解を得がたい。
あとはブレーキ周りと薄い金属のカウリングを作ろうとしたところで素材が尽きた。やはり、全体を金属製にしようとするとかなりの量の素材がいる。
「お風呂を溶かします?」
「いや、あれはいる。一日の癒やしなのに」
「わたしも残したいのでやめましょう」
からかわれたらしい。
再考したい部分がなくもない。今日の作業はそこでやめることにした。エメルキアを手伝って夕食の準備をして風呂タイムにする。今夜も気前よく脱いだ少女が両膝のあいだに座っていた。
(ちょっと慣れてきた自分が怖い)
目を逸らしつつも拒まなくなってしまった。
「どうしました?」
バスタブを指で叩いている彼に気づく。
「樹脂製品、作れないかなって。木のヤニって固めると硬くなるじゃん?」
「なりますね」
「あれを流体金属と融合させて形にすることできる?」
少女はキョトンとした面持ちで振り返る。
「考えたこともありませんでした」
「それだけだと大量に必要だし強度にも不安があるな。木の繊維も使うか。いや、そっちは糸の木の綿でいい」
「混ぜて使うんですか?」
カウルを金属で作ろうかと思っていたが、やっぱり軽ければ軽いほうがいい。そう考えると、最近のファイバープラスチック製のバスタブを思いだした。
「金属に比べると割れやすくなるけど、硬くて軽いものになるはず」
「確かに」
「試してみよう。明日は洞窟行きだな」
ちょうど小道も開通したところ。以前みたいに苦労せず通えるようになっている。メタルスライムにだけ注意すればいい。
その日はそのまま就寝。翌日に備えて精気をと言いつつ、正輝にくっついて寝る妖精種の少女と小妖精に囲まれてぐっすり眠った。
「さて、行くか」
「はーい」
午前の刈り払い作業が一段落したので体力づくりを欠かしている。ついでなので、ロナタルテを髪に捕まらせ、エメルキアを抱えて駆け足で森の中へと向かった。
「ヤニって意外とないものですね?」
木々を巡って木ヤニを探している。
「しまったな。前もって傷を付けてまわっとけばよかった」
「なるほど。大きめのトカゲの爪の引っかき傷なんかから出てるので、そんな方法もあったんですね」
「子どもの頃はよくやったもんなんだけどさ」
虫捕りに使うためだ。砂糖水や虫ゼリーも使えるが、効率よすぎて別の虫も寄って来やすい。傷を付けて樹液を出すのが経済的にもお手軽でよかった。
(こっちは虫がいないもんな。ヒルも齧って樹液を吸うみたいだが根元のほうばかりでヤニになってない)
木の皮を這ってるヒルは少ない。片っ端からトカゲに食われてしまうからだろうと予想していた。
「スケジュール、ミスった」
木ヤニを求めて森の中を駆けまわり、糸の木で綿を採集し、洞窟にたどり着いたときには夕暮れが近くなっている。
「明日にします?」
「面倒だからササッとすましちゃおう」
ニッケル鉄の砂を掻き集めて籠に入れる。今日は目的じゃないのでメタルスライムを回避していた。十分に背負える重さにして洞窟を出る。
「ヤベ。とっぷりと暮れちった」
「万が一に油を持ってきて正解でした」
少女がランプを作り、足元に気を付けて小道を行く。暗いと飛びヒルにたかられてしまうのでロナタルテは胸元に収容した。
「あん、なんだ?」
「なんです?」
「あそこの茂みの向こう。なんで明るいんだ?」
正輝はシルエットになっている茂みを凝視した。
次回『バイクへの挑戦(5)』 「なんてこった。意外とグロ」




