バイクへの挑戦(3)
「でさ、これはどういう仕組み?」
「急になにー?」
正輝が指さしているのはロナタルテの羽根である。二対ではないものの、扇状に広がる羽根はチョウチョを連想させた。彼が注目しているのは、それが光る帯のような感じで視覚化されている点だ。
「羽根ぇー」
「いや、それはわかる」
はためかせて見せる。
「だって、これないと向き変えられないし」
「物理的に作用するのか。ヒルのヒレと同じ」
「ちがーう!」
心外なのか頭をぽかぽか叩かれた。
「あんなに可愛くなくないもん」
「やってることは同じ……」
「違うんだもん」
ご立腹の様子で背を向けられてしまったので、指で頭を撫でつつ精気を流してやる。すぐに蕩けてふらふらと肩の上に戻ってきた。
「マサキは実験してたじゃないですか」
エメルキアが窘めてくる。
「なにを?」
「わたしに例のメタルのコマを空中で円を描いて飛ばせてくれって」
「ああ、上手くいかなかったやつ」
念動力の基本情報として試した。
「飛ぶ魔法は方向を変えるのが難しいんです。具体的にいうと余計な力を必要としてしまいます。なので、空気抵抗を利用して方向転換するほうが楽なので」
「で、物理干渉力のある魔法を使うとこんな感じに光ると」
「どうして光るのかは知りません。でも、光ります」
少女は実際に使って見せてくれた。小妖精だけの魔法ではないらしい。指の前に小さな円盤を出している。
「これって、盾みたいに使えないの? 例えばメタルスライムのトゲを防ぐときとか」
疑問が湧く。
「楽な分だけ、あまり強い効果はないのです。せいぜい空気とか水を弾くくらいしかできません」
「なーる、重たい固体とかは無理か」
「生殖形態だとほとんど使い道なくて。小雨をしのぐくらいしかないので今まで使ってませんでした」
機会がなかっただけだという。
「わかったわかった。物理干渉できるほどの魔法だと光るんだな。ちなみに光る強さとか変えらんないよな?」
「できませんけど?」
「そりゃそうだ。簡単にもっと強く光らせられるんならランプなんて使ってないもんな」
ネックはそこなのだ。正輝が彼女たちのいう魔法に言及しなかったのは、光る魔法はないと断定できる証拠のランプが存在していたから。確信があった。
「となると、別の光るもん探さないと」
やはり行き詰まる。
「光が必要なんですか? ランプで足りないくらいの?」
「そ、あれじゃ無理。バイクは結構なスピードで走りそうなくらいの目処がついてる。でもさ、夕暮れや夜に走らせるとなると結構遠くまで届くくらいの光は欠かせない」
「ランプだと近くしか明るくなりませんものね。暗いときはあきらめるとかは?」
当然の提案だが現実的ではない。
「そうそう都合よくはいかないと思う。どうしても暗くなっても走らなきゃいけないときって出てくる。危ないからって重たいものを押しながら歩くと他になにもできなくなる」
「危険ですね」
「だから、強い光を出すものが必須」
それだけが身近なもので応用できなかった。単純に電球を作るのはできなくもないだろう。しかし、電源がいる。作るバイクにはバッテリーもなければ発電機もない。
(発電機はなんとかなりそう。要はモーターを作ればいいんだからな)
彼とて子どもの頃はいろいろな男の子っぽい趣味を通ってきていた。走る車のプラモデルくらい作ったことがある。当然、好奇心から分解してみたりもした。
(でも、やっぱり強く光る電球を安定して点けるくらいの電力となると二次電池がないとままならない。作る知識がない)
情報源があれば作れるかもしれないが、いかんせんスマートフォンは文鎮と化してしまった。ネットに繋がらなければ情報は手に入らない。自分の知識だけで勝負するしかない。
(分解してルキに解析してもらうか。いや、入ってるのはリチウムイオン電池だもんな。リチウムを探して抽出方法を模索するだけで何年掛かるか)
論外である。
「せめて、LEDを作れればな。マグネシウム電池くらいで点けられるのに」
「えるいーでぃー?」
もちろん変換されない。
「えーっと、確かP型半導体がヨウ素かアルミあたりが必要で、N型半導体はリンかヒ素をドーピングすればできるんだよな。シリコンはそのへんの石からルキに作ってもらえるにしても、ドーピング物質はそんじょそこらじゃ手に入らないときた」
「全然わかりません」
「俺も言ってて馬鹿らしくなってきた」
大学時代になぜかLEDの構造に興味が出て調べたことがある。ただの知識なので、元素名は頭に浮かんでもどこにどういう形で存在しているか、どうやって抽出するかは見当もつかない。
「お手上げだ」
「マサキの知識でもできないことってあるんですね」
「もちろん、いくらでも出てくると思う。前途多難だな」
いっそ、昔の自転車みたいな発電機と電球で再現してやろうかとも思う。しかし、どう考えても光量が足りない。あれは夜道を照らすというよりは、自身を認識させるためのものに近い。
「なんか派手に光る石とかない? あれば使ってるよな」
「わたしが知らないだけで希少なものとかならあるかも」
「ロナが遠くまで飛んで道案内してあげる?」
「ああ、ありがとな」
正輝は、一番現実的でない提案をくれた小妖精にあきらめの感謝を捧げた。
次回『バイクへの挑戦(4)』 「いいだろ。俺という背もたれもある」




