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少女装鎧ジノグラフ  作者: 八波草三郎
鴻ノ木正輝

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幹部怪人ゼネラルアビス(3)

「将人さんってすごいですね。あれの中の人もしてらっしゃるんでしょ?」

「まあね。俺だけ同録でもいいんだけど、スーツの下でしゃべってもあれだしさ」


 アフレコスタジオでは役名で呼ばれることのほうが多い。ゼネラルアビスの人間形態『深見将人』のほうだ。一緒に録っているのは怪人役や幹部のメンバーたちの声優である。ヒーローメンバーはアテレコしやすいこのあとの別録りになる。


「生身のアクションやってスーツアクターやって、わたしたちと同じスタジオで声も当ててて。しかも、ちゃんと顔負けに上手なんですもん。びっくりしちゃう」

 最近の若手女性声優はとびっきりに可愛くて、褒められると悪い気がしない。

「慣れだよ。単に長いだけ」

「わたしなんてスタジオで演じるだけで気合い入れないと無理ですもん。やっぱりすごいです」

「いや、君らはこなす仕事の本数が違うし、他にもラジオやったり配役のアイドル活動で歌ったり踊ったり。俺よりすごいと思うぜ?」

 本気で声優の仕事に敬意を払っている。

「うん、でも好きで飛び込んだ世界だから頑張れるんです」

「俺も似たようなもんさ。好きじゃなきゃやってらんない」

「ですよね?」


 多少でもガス抜きの相手ができればいいと思う。本当に頑張っている姿は正輝の活力にもなる。


「あ、今度ヒロイン役取れたアニメが始まるんです。将人さんも観てください」

「おう、観る観る。ヒロインか。やったじゃん」

「でも、大勢のヒロインの中の一人なんですけど」

 ちょっと理解できない。

「大勢?」

「ハーレム系異世界スローライフなんです」

「ハーレムって、女性として許せるの?」

 気になってしまう。

「仕事ですし。それに、最近の深夜アニメってつらい現実の逃げ場所みたいな作品ばかりなんですよ。だから、現実離れしてるほどいいみたいです」

「俺にはよくわからんな」

「そうですね。将人さんみたいに、いつまでも夢を見ていられて頑張れる人には難しいかもです」

 彼は「まあ、観てみる」と答えた。


 どうやら深夜アニメはヒーローもの業界とは異質な世界になっているらしい。子どもではなく大人に夢を見させるジャンルになっている。


「今度食事でもどうです?」

 相手のほうから誘われた。

「いいぜ。若干業界は違っても悩みの聞き手くらいにはなれる」

「あー、雛姫ったらズルい。将人さんとご飯行くの? わたしも」

「二人っきりの予定だったのにー」

 軽口を交わしている。

「一緒いいですよね? アカウント、教えてください。グループ作ってスケジュール調整しましょ」

「わかった。俺なんかいつでも空いてる」

「そんなそんなー。人気なんですよ? ゼネラルアビスが来るって友達に声掛けたらいっぱい集まっちゃいそう」


 つらいばかりでなく、楽しいこともなくはない世界だ。だから耐えられるともいえなくはない。


「あ、ゼネラルアビスさん、お疲れさまです」

「おう。……誰だっけ?」

「今度の『オドルンジャー』やらせてもらう近藤隆司っていいます」


 別日のアフレコスタジオの入口ですれ違ったのは、次の戦隊もののヒーローメンバーらしい。二十歳そこそこの若手である。


「そっか。もう、年末近いもんな。頑張れよ」

「ゼネラルアビスさんみたいに人気になれたら嬉しいです」


 一礼してスタジオへ入っていく。特に予定のなかった正輝はスタッフルームに手招きされていた。


「次のオドルンジャーも打木監督ですか?」

 クウテイジャーの監督でもある。

「そうなんだ」

「映画と並行で大変ですね」

「クウテイジャーのほうはほとんどベテランで苦労しないからいい。慣れてないのは新入り女幹部の女性声優たちくらい。そっちも口出しいらないくらい上手いしな」

 それでも忙しいのに変わりはないだろう。

鴻ノ木(こうのぎ)くんくらいなんでもやってくれて気心知れた相手だと編集も楽だよ。助かってる」

「だったら、俺も嬉しいですけど」

「しかも、映画はドル箱。お陰で業界も助かってるね」


 監督が激務をずっと続けているのは知っている。できるだけ助けになりたいと思うくらいに尊敬していた。


「なあ、ゼネラルアビスいただろ?」

「ん? 俺、会わなかった」

 スタジオ内部からスタッフルームにのみ聞こえてくる声。

「あの人、いつまでこの業界にしがみついてんだろ。さっさと卒業してくれないかな」

「だよな。アクション地味だし、あれじゃ、いつまで経ってもヒーロー役なんてできないのにさ」

「は? まだ狙ってるわけ?」

 もう一人は「らしい」と答えている。

「ああはなりたくないもんだ。俺たちは早く売れてさっさと先に行こうぜ」

「それそれ」


 スタッフルームの空気が凍っている。彼も苦笑いくらいしかできない。


「勘弁してやってくれ。アフレコ前の時間でも自分たちの声はこっちに聞こえてるってことさえ知らないヒヨッコたちだ」

「いいですよ。あいつらだって必死なんだし。皆が皆売れるわけじゃない。将来まで業界で食える保証はないんだから虚勢を張ってるんですよ」

「経験者は語る、だな。すまない。叱っとくから」


 気にしても仕方がない。たった一握りしか残らない弱肉強食の世界でもある。


「まあ、俺も努力を続けるしかないってわけさ」


 二十六歳になった正輝は、その日も独り言を口にしながらモーニングルーティーンの赤坂御所のスタート位置につく。妙に霧の濃い日だった。


   ◇      ◇      ◇


「そういえば俺、トラックに轢かれてもないし、ドジな女神様にスキルももらってないんだが」

「なんです、それ?」


 今の正輝は目の前の異世界少女を笑わせられるだけで満足だった。

次はエピソード『孤島スローライフ』『念動の練習』 「リトルエルフィンを産んでしまいそうです」

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