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少女装鎧ジノグラフ  作者: 八波草三郎
鴻ノ木正輝

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20/24

幹部怪人ゼネラルアビス(2)

「正輝、いつまでそんな水物商売をやる気だ。まともな職に就け。母さんも心配してるぞ」

「いやいや、待って。親父が観てるような番組だと大した役もらえてないけども、それなりに稼いでるんだぜ?」


 正輝がもうすぐ二十五歳になろうかという頃の電話の内容である。放任主義だった両親がなぜか今になって文句を言うようになっていた。


「大丈夫、親父がリタイヤする頃にはちゃんと面倒見れるようになってる予定」

 多少楽観的ではあるが。

「いらん。今のお前に母さんを任せられるか」

「って、どうすんだよ。息子は俺だけじゃん」

「虹花がきちんとした男を連れてきた。いいとこで働いてるそうだ。わしらのことも気に掛けてくれてる」

 妹の名前を告げられて驚く。

「虹花が?」

「年末には結婚だそうだ。よっぽど頼りになる。お前はもういい。好きにしろ。恥ずかしくて式にも呼べん」

「マジかよ。勘弁しろよ」


 いきなり勘当を宣告される。確かに長いこと実家に戻ってはいなかったが、両親に情がないわけではないのでショックだった。しかし、父親は早々に電話を切ってしまう。


「ごめん、正輝。父さん、説得できなかった。絶対に式には呼ぶなって」

「ったく、変なところで頑固なんだからよ」


 後日、妹が会いに来た。残念な報告と一緒に。


「で、そいつと結婚か」

 身なりのしっかりとした男で、上場企業に勤めているという。

「だから一応挨拶だけでもと思って」

「初めまして、正輝さん。僕、クウテイジャー観てたので感激です。ゼネラルアビス、わりと好きで」

「意外とオタクなのかよ」

 妙に熱心な視線を感じていた。

「父さん、あんなだから、兄さんが結構人気あるんだって言ってもわかんないの。許してあげてくれない?」

「許すもなにも、一方的に縁切られた。こりゃ、俺が役者辞めるまで実家の敷居はまたがせてもらえそうにないぜ」

「なのよね。困ったもの。でも、兄さんは自分が思うように頑張ってみて。父さんや母さんのこと、心配しないでいいから」


 結婚相手の男は自分に任せてくれという。そいつはいつまでも彼にゼネラルアビスをやってほしいだけのように見て取れるが。


「じゃ、またね」

「おう、虹花も幸せになれ」


 そうとしか言えない。そのうち、子どもができたとか報せが来そうだ。そういう意味で、父親の目にはいつまでも遊んでいるように映っているのかもしれない。


「今度、妹が結婚するんだとさ」

「マジっすか? 良かったじゃないっすか」


 そんな正輝にも気が晴れる趣味がある。大学のサークルで出会ったスポーツチャンバラである。こちらは性に合ったらしくずっと続いていた。時間のあった大学時代はローカルな大会ながら優勝までしたこともある。


「一般的な現実を見せられると、俺、なにやってんだろって思わなくもない」

「そんなことないと思うんすけどね。事務所は正輝さんのこと、買ってるみたいすよ。本格派のアクションやれる俳優になれるって」

「芽が出るにはちょっと遅すぎる気もするけどさ」


 誘ってみたらスポーツチャンバラにハマった事務所の後輩と練習中の会話だ。年が離れていてずいぶんと若いが、わりと反りが合う。十九歳になったばかりで、オーディションを受けまくっていると聞いていた。


「実は今度のライダー、俺、出るんす」

「マジで。どんな役?」

 業界人なのでこっそりと打ち明けてくれる。

「メインじゃないすけど、主役の仲間みたいなライダーの役っす」

「すごいじゃん」

「当たったらいいんすけどね」


 ため息を噛み殺した正輝だった。そうやって後輩たちが彼を追い越していく。ライダーや戦隊ヒーローは今や若手イケメン俳優の登竜門のような仕事だ。そこからファンが付いて、ドラマにバラエティにと巣立っていく。


「頑張れ」

「ありがとうございます」

 そうとしか言えない。


 業界の空気に当てられながら、それなりに忙しい日々を過ごしていくうちに二十五も半ばとなってしまった。事務所に呼びだされたので行ってみると社長と面接という話だ。


「よくやってるな、正輝」

「わりと頑張ってます。そろそろ俺にもライダー受けさせてくださいよ」

 直訴してみる。

「そっちはもういい。俺はお前がスーツアクターで終わるとは思ってない。今にでかい役取ってきてやるからファンを手放さないようにしてろ」

「そんなこと言って」

「今じゃ時代劇って風潮じゃない。でも、反対に刑事ものは増える一方だ。次に目指すのは長期シリーズの刑事ものの主役級だって思ってる」

 真剣な顔で告げられる。

「っても、蓋を開ければ大手タレント事務所の若いイケメン君たちに持ってかれるんでしょ? 俺はせいぜい足を引っ張る並行部署の刑事役ってとこ」

「そうはさせん。あんなひょろっとした連中に好きにさせて堪るか。本格派の俳優を目指せ。ワイルドな(めん)じゃ負けてない。いいな?」

「つまりは現状維持って話ですね。了解です」


 いいように誤魔化されている気がしなくもないが、まったく期待されていないわけでもなさそうだ。変に希望を持ちすぎないよう、でも油断しないで鍛えつづけるしかないと思う。


 正輝は日々のトレーニングに励むのだった。

次回『幹部怪人ゼネラルアビス(3)』 「でも好きで飛び込んだ世界だから頑張れるんです」

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