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少女装鎧ジノグラフ  作者: 八波草三郎
鴻ノ木正輝

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地学流開拓(3)

 なにより、金属というのは重い。そこが難点だと正輝は思っていた。荷車のようなものを作ってもらっても、森の中では転がす場所がない。

 しかし、問題は意外と簡単に解消する。エメルキアが砂状の金属が大量に詰まった籠に魔法を使って軽くしてくれたのだ。二つを彼が背負っても大丈夫な重さだった。


「ほんと助かる」

「その代わり、使った分の力はマサキから補給します」

「わかってる。好きなだけ持ってけ」


 家に帰って少女にベタベタされる昼食を経て本日の成果を広げる。大量の鉄とニッケルの砂。見ているだけでわくわくする。


「なあ、エメルキア」

「なんです?」

 食事の後片付けをしていた少女が戻ってくる。

「これって流体金属(メタル)で成形するとき、種類が分かれてたほうがいい?」

「そのままでもメタルと融合できます。マサキに不都合がなければ」

「砂のままでも?」

「そのほうが溶けやすいです」


 分別するとなるとかなりの手間が必要だった。なにしろ、鉄とニッケルは比重がほぼ同じである。磁石にも同じく反応する。手に入りそうな道具で分別する手段がない。


「助かった。じゃあ、手始めにナイフを作ってみてくれる?」

「調理用みたいなものですか?」

「いや、茂みを刈り払いできるくらいの大きさがいいな。武器にもなるし」


 エメルキアは別の器に移した流体金属(メタル)の中に適量の砂を落としていく。掻き混ぜて、いつもより深く、底のほうをつまむ感じでゆっくりと持ち上げるとナイフが形成されていく。刃渡りが30cm近くある立派なナイフができあがった。


「こりゃいい」


 形状は彼女のイメージに依存するらしく、正輝の希望した鍔がある点を除けばほとんど調理用のもの。切れ味も相当な感じがする一品であった。


「武器を作るのは慣れてなくて」

「そりゃそうだ。ルキは遠隔攻撃できるんだもんな。武器なんかいらない」

 彼女のいう魔法である。

「俺は魔法が使えないから飛びトカゲやメタルスライムから身を守るにも武器がいる」

「ですね」

「それに、ルキやロナの魔法の仕組みも読めてきた」


 にやりと笑ってみせると少女は驚きの面持ちになる。まさか、そんなことを考えているとは思ってもいなかったのだろう。


(ルキたちには当たり前の能力でも俺には異質なんだ。そりゃ、見定めもするさ)

 ずっと観察していた。


「例えば、火を点けるとするじゃん?」

 彼はその辺に落ちていた枝をエメルキアに渡す。

「やってみて」

「簡単です」

「ああ、何度も見てた」


 少女が枝を前にかざすと先端がくしゃりと潰れる。そこが赤く発光したかと思うと、ポッと火が点いた。乾燥した枝が燃えている。


「肝心なのは、燃える物が必要なのとそれが形ある物なこと。意識しているかどうかも怪しいけど、君は燃やすものの周りの空気を潰してる」

 少女はキョトンとしていた。

「潰してます?」

「そう、一気にだ。気体を圧縮するとなにが起こるか。熱が出る。圧縮熱だ。それも、瞬間的にだと燃えるほど高温の。そうやって火を点けてる」

「そうなんですね」

 圧縮熱で発火させている。

「魔法で加熱してるんじゃない。物を動かす力で空気を圧縮してるだけ。これまで見てきた全ての魔法にこれが適用できる」

「そう……です?」

「例えば、身体を浮かすのだって物を動かす力だろ? それも、重いものほど効果は薄くなる。きっと、出力に限界があるからだ」


 だから、軽いロナタルテは自在に飛びまわることができ、それなりに重さのあるエメルキアは自分を浮かせて横移動させるくらいのことしかできない。歪められない物理法則があるのだと踏んでいる。


「物を成形するのにはかなり複雑な力が働いてるんだと思う。そういう細かい力の使い方はルキたちは上手なんだろうけど、大きな力を使うのは難しいんだ、きっと」

 この異世界に来てからの観察結果がそれだ。

「確かに説明はできますね。浮かせたり動かしたりは簡単ですので」

「たぶんだけど、こっちの生物はだいたいそれができる。あの小さなヒルだって自分を浮かせるくらいのことはできる。羨ましいことにな」

「別の世界から来たマサキにはできないんですね?」

 こちらの生物に備わっている当たり前の能力がない。

「ってことになるな。だから、俺は魔法が使えない」

「わたしがついてないと駄目ですね」

「そんな、駄目男みたいな扱いされると傷つく」

 少女は「冗談です」と笑っている。


(あえては言わない。だが、こいつを俺たちの世界だと念動力(サイコキネシス)っていうんだよ)

 力の性質が判明した。


「魔法って単語が変換されてるのは確かなんだが、その概念まで同じとはかぎらない。つまり、ルキと俺で認識が同じとはかぎらない」

 前提を述べる。

「そのうえで言えるのは、俺の認識だと魔法ってのは技術的裏打ちが必須だ。使うのにテクニックがいるって意味。複雑な長ったらしい呪文が必要だったり、難解な図形の魔法陣を用いたりする。ところがここにはそんなものがないばかりか、小さなヒルでさえシンプルながら浮く魔法を使う。それで怪しんだ」

「勉強を要するような技術って認識だったんですね」

「そのとおり。説明をつけようとするとさっきの結論に行きつく。あとは観察して推論を裏付けるだけ」


 正輝はエメルキアと膝を突き合わせて結果報告をした。

次回『地学流開拓(4)』 「俺の自己満足だな」

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