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少女装鎧ジノグラフ  作者: 八波草三郎
鴻ノ木正輝

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地学流開拓(1)

「これさ、色つけることできない?」

「難しくないです。何色がいいですか?」


 正輝が尋ねてみると簡単に答えが返ってきた。例の流体金属である。色と形を指定するとエメルキアは緑色の浅い皿を作ってくれた。


「食器にするなら銀色のままのほうがよくないです?」

「いや、これは皿として使うんじゃない」


 彼は皿を持って洗濯場になっている川に行く。少女もついてきたので岸辺で待っているように告げて、作ってもらったボトムスの裾をめくって浅瀬へ。石をどけて川底の砂を皿に入れるとぐるぐると回しはじめる。


「変なの」

「変だろ。でも、面白いことが起こるんだぜ?」


 肩に乗っているロナタルテに言うと、俄然興味が湧いてきた様子で皿の中身に見入っている。しばらく回しながら泥や軽い砂を流しつづけると、そこに黒い粒ばかりが残ってきた。


「なんか黒くなった!」

「この、残った黒いやつが重要なんだ」


 川から上がってエメルキアのところに行く。平べったい石の上に皿を置いた。少女も黒い砂を注意深く眺めている。


「これは?」

「砂鉄だな。この作業をパンニングっていうんだ。砂から重い鉱物だけを取りだす」

「マサキは鉱物の勉強をしてたって言ってましたものね」


 量の多い少ないはあるが、砂鉄であればだいたいどこでも採れる。上手くいけば砂鉄を集めて金属器を作りたいと思っていた。できれば、正輝が持っていても流体に戻らないナイフくらいは欲しい。


「これを集めて鉄製品を作りたい。こうして素材は地道に集めることはできる。あとはルキがこれを変形させられるかって話なんだ」

「純粋にこれだけだと無理です。メタルと合わせると可能になります」

「メタルと?」


 彼の認識では金属全般を示す「メタル」だが、エメルキアたちは流体金属のことを「メタル」と呼んでいる。メタルスライムのボディ素材だから単純にメタルなのだろう。


「それは魔法を使わないと元に戻る?」

「いいえ、メタルを少なめにして合成すると、もう自然には元に戻らなくなります。わたしとかが魔法を使うと元に戻すことはできます。メタル以外の素材は粉になってしまいますけど」

「それで十分。元に戻す必要ないからさ。鉄をメインにすれば俺が使う道具を作れる」


(こいつはいい。俺も人力で鉄炉まで作るのは無理。色々作る目処はついた)

 ニヤニヤが止まらない。

(さて、もう一つの問題のほうなんだが)


 皿から砂鉄を取りだして近くの石でガンガンと叩く。酸化膜が剥がれて金属光沢が現れた。それをつぶさに観察する。


「きらきらになった。不思議」

「これな。黒いのは表面だけ。雨風にさらすと茶色くなっちまうかもだけど」

「茶色くなる!」


 要は錆びるのだが、ロナタルテは面白くて仕方がないというふうだ。正輝にとっては常識を面白がられると得意になってしまう。


「こいつはおそらく……、ん?」

「どしたのー?」


 パンニング皿の中で異変が起こっていた。砂鉄の黒い粒から離れたところに銀色の粒がある。静かに見つめていると、じわじわと移動していた。


「なんじゃ、こりゃ!」

「あ、それです? メタル系生物の小さいものは土の中にも川底にもどこにでもいますけど」

「メタル系生物? メタルスライムだけじゃないの?」


 唖然としてしまう。大変な勘違いをしていた。アメーバのようなスライムはメタル系生物のいち形態でしかないという。それらの原始的な形態は、こうして微生物として生きているらしい。


「まいったな」

「なにか困ることでも」

「いや……」


 どう表現したものか。このパンニング作業は別の意味もあったのだ。


流体金属(メタル)が液体状の鉄でないことは間違いない。酸化膜ができないから)

 容器の中の様子を見ていればわかる。

(となると、磁化する金属、ニッケルかコバルトってこと。こいつらは酸化しにくい。で、砂鉄を採ればニッケルを多く含むニッケル鉄だって目星をつけられるかと思ってたのに)


 スライムのボディになるほど大量の純粋なニッケルがどこかにあるのを証明するどころか大本命が採れてしまった。ゆっくりと移動する銀色の微生物たちは、砂鉄の黒い粒から逃げだすように動いている。


(なぜ逃げる?)

 集中して観察する。

(もしかして砂鉄と一緒だと具合が悪いのか。磁気操作をするのに傍に鉄があると磁力を奪われてしまうから? 力を失って動けなくなる?)


 メタル系生物がなにを栄養源にして生きているのかはわからない。しかし、なんのエネルギーもなく動けるわけがない。それを奪われるのを嫌がっているのだと推測した。


「だとすると……」

 違う考察ができてしまう。

「なあ、ルキ。メタルスライムって出没範囲が限られるんだったな」

「はい、この近くでは一昨日行ったあたりが一番多いです」

「そっか。じゃあ、また明日行ってみるか」

 予想では面白いものが見つかるかもしれない。

「メタルはもう十分にありますけど?」

「別の物を探しに行く。きっと、あのあたりにあるはずなんだ」

「そうですか? わかりました。あのあたりに行くのはできるだけ避けているので、どんな場所なのかよく知らないです」


(そりゃ、危害を加えられる生物が跋扈してる場所には長居したくないよな。でも、もしかしたら俺にとっての宝箱かもしれない)


 正輝は胸が踊るのを抑えられなかった。

次回『地学流開拓(2)』 「想像どおりならいいもんがある」

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