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少女装鎧ジノグラフ  作者: 八波草三郎
鴻ノ木正輝

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パムール島の暮らし(4)

 素材を揃えたので服作りに入るのかと思ったら、今度は別の素材がいるという。次の日は二人でそれを取りに行くことになった。


「糸の木に実がなってる頃なのでいっぱい採ってきましょう」

「糸の木? 木に糸がなる?」

「いえ、綿がなります。それを糸にするので糸の木です」


(ああ、要するに綿花みたいなやつね)

 正輝は納得した。


 連れられて糸の木とやらのところに行くと、わりと大きな樹木の枝に鈴なりに実がなっている。それはリンゴくらいのサイズの綿の塊だった。

 エメルキアが身体を浮かせて枝まで飛ぶ。実を摘んでは落とすので彼はそれを下でキャッチする係。ものの数分で籠二つが満杯になる。


「綿だな」

 非常に軽くて、放り投げるとゆっくり落ちてくる。

「中に種があります。割ってみてください」

「実なんだから種が入ってるよな」


 そっとほぐしてみると小さな黒い粒々が繊維に絡まるように入っている。それが種らしい。結構数多く入っていて、手作業で取るとなると手間が凄そうだ。


「これ、どうするの?」

「まず、種を抜いて繊維の方向を整えます」

「まさか、手じゃないよな?」

 苦笑いで言うと、少女はくすくす笑う。


 持ち帰った綿の実を例の洗濯桶に入れる。水も入れて押し沈めて馴染ませると、次は回転させはじめた。いつもの縄跳びの工程である。ロープがヒュンヒュンと回ると、桶の中身がぐるぐると撹拌された。


「しばらく回すとこうなります」

「繊維だけになるわけ」


 水から取り出したそれは繊維のドーナツだ。水の渦に巻かれていくうちに繊維は一つの方向に揃う。じきに絡まり合ってリングを形成していた。


「種は沈んでるのか」

「糸の木の集落はこれをわたしがあそこに蒔いたのでできてます。もう十分に生えてるので今回は流してしまいますね」


 桶の栓を抜いて水と一緒に川に流す。運が良い種はどこかの川辺に流れ着いてまた木を生やすかもしれない。


「次はいよいよこれを糸にします」

「ふんふん」


 別の桶に水と一緒に入れた繊維のドーナツの一部をエメルキアがつまむ。輪を描くように持ち上げていくと繊維の筋が持ち上がった。よく見ると、水面から出る間際に繊維同士が複雑に撚り合わさっているのがわかる。


(なにか操作してるな。ルキは魔法と称したこういうのが得意なんだ)

 細かな変化を起こす作業を少女はしている。


 引っ張りだした長い糸を魔法とやらで同時に乾燥させていく。それを何本も取りだす作業を重ねていく。


「糸の出来上がりってか」

「いえ、これだととても切れやすいのでもうひと工夫必要です」


 次は二本の繊維の筋を一緒に持ち上げる。すると、二本がねじれながら撚り合わさっていく。言われてみると、糸はそんな構造をしていた。


「強くなりましたので、これで固定します」


 沸かした湯になんかの粉を入れて、できた糸を入れていく。しばらく煮たら取りだして乾燥させた。それで糸の出来上がりである。


「なーるほーどなー」

「ついでなのでまとめて作ってます」

「糸ぉー」


 ロナタルテがスピンしつつ糸を振りまわして遊んでいる。実は繊維を取りだす作業も彼女は手伝っていた。細かい操作はエメルキアと同じで得意なようだ。種族適性らしい。


「たっぷり糸の準備ができたので、服を作りましょう」

「やっとか。悪いな」

「でも、力を使ったし、このあともいっぱい使うので栄養補給させてください」


 ウインドブレーカーを脱がされタンクトップの胸に抱きつかれる。精気の吸収は肌の接触面積に比例するらしく、補給のときはいつもそうだ。ロナタルテは顔に張り付いている。


「では、ボトムスからにしましょう」

「頼む。いよいよ限界っぽい」


 ランニングパンツは茂みをかき分けたり、なんだかんだでそこら中にほつれや裂けができている。洗濯もくり返し、ボロ布に近い状態に近づきつつあった。


「案外弱かったな。所詮は合成繊維だからか」

「どうやってできてるんですか?」

「これな、仕組みはよくわからないが油からできてるんだよ。俺はそっちは疎くて申し訳ない」


 しげしげと眺めていた少女だったが首を傾げながらあきらめる。結構複雑な分子構造をしているのかもしれない。


「違う分野だったら少しばかりは勉強してるんだけどさ」

「どんな分野なんです?」

 少女は話に乗ってくる。

「鉱物関係。だから、あの流体金属にはすごく興味がある。あんなものは初めて見たからな」

「どういうものかわかるんですか?」

「いや、さっぱり。鉱物の分析って機材や薬品がないと全然でな。こっちにはそれがまったくない」


 叶うことなら分析してみたいとは思うのだが、いかんせんどうにもならない。水銀以外で、常温で流体状態を示す金属はない。しかも、見た目が銀のような光沢を示している。磁力操作で動いているので銀ではあり得ない。


「まあ、接しているうちになんかわかるかもしれない。気長にいくさ」

「そうですね」

 長居を示唆するとエメルキアは上機嫌になる。

「まずは差し迫った問題をどうにかしましょう」

「おう、皮のボトムスを作ってほしい。あっちこっちしてもほつれないやつな」

「任せてください」


(これからの生活には丈夫な服が不可欠だろ。かなり原始的な採集生活みたいなものだし。色々発見もある)


 正輝はこの生活も悪くないと思いはじめていた。

次回『パムール島の暮らし(5)』 「こら、ロナ。パンツをずらすんじゃない」

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