パムール島の暮らし(3)
最初から干し肉を作る気だったらしく、エメルキアはスパイスを持ってきていた。それを振りかけると狩ったばかりのトカゲ肉も美味しく仕上がる。
「やっぱ、ちょっと癖あるな」
スパイスだけでは誤魔化せない。
「干せば臭みも抜けて旨味も凝縮されますので」
「これは確かに干し肉にするのが正解だ。肉汁の旨味はこっちのほうが上だけどさ」
「人間のマサキは味には敏感ですね」
半分は趣味のように食べ物を口にするエメルキアたち妖精種は、美味しく食べるのには熱心でも舌には自信がないようだ。今後は少し研究して少女を喜ばせるのも面白いと思う。
「道すがら、スパイスもあったら摘んで帰りたいです」
トカゲ肉を昼食にしていると少女は言う。
「俺じゃわかんないから教えて」
「はい、マサキは持って帰る係です」
「了解だ。ついでに食う係」
冗談でエメルキアを笑わせながら森を行く。島は実り豊かなわりに人間の天敵になるような動物は少ない。そのあたりもゼアネルヒが調整しているのかもしれない。
「このへんからメタルスライムが出てきます。本当にそれで大丈夫なのです?」
流体金属で武器にする棒を作ってもらっていた。
「任せとけ。ちょっとばかり心得がある」
「はい、近づきさえできれば、わたしが魔法でコアを攻撃をします。コアさえ破壊すれば死骸しか残りませんので」
「ボディの流体金属だけな。了解」
メタルスライムがどんな生物だか正輝も興味がある。某ゲームそのままの形をしているとは思えないが、流体金属の表面張力の凄さをみると結構似ている可能性も捨てきれない。
「いました」
「あれか」
茂みから覗くと金属光沢を持つ生物がいる。正確にいうと動物らしさはなく異質なモンスター。残念ながら丸っこい形ではなく、アメーバが一番近いと感じた。ぬらぬらと目もない身体を伸縮させて這っている。
「敵と認識するとトゲを飛ばしてきます」
「弾く。俺の後ろに」
茂みから出ていくとこちらを察知し向かってくる。意外と攻撃的だ。右手に棒を握って突きだし、つぶさに観察していると体表が蠢く。
「なるほどなっと!」
トゲが飛んできた。体表から分離しているのではない。尖らせたボディの一部を伸ばしてくる感じ。
払いのけると金属音がする。先端は固く変化しているが、その後ろ側は柔らかいままの様子。外れて曲がったトゲは引き戻されてしまう。
「いける。前に出る」
「はい」
エメルキアは彼に隠れて顔を覗かせている。服の背中に掴まっているのを感じつつ、次々と飛んでくるトゲを弾きながら前進。ついには少女の射程圏内に入ったのか攻撃が決まる。
「やった?」
「はい」
メタルスライムはトゲを飛ばしてこなくなっただけでなく、平べったく横に流れている。それで力を失ったのだとわかった。
「いつもはこっそり近づいて狩るんですが。マサキが盾になってくれると簡単に狩れます」
「結構近づかないと駄目なんだ」
距離的には5m前後くらいだった。見つからずに接近するのは骨が折れるだろう。待ち伏せとか方法を考えないと大変そうだ。
「死んでる」
「あんま不用意に近づくな、ロナ。他にもいるかもしれない」
「あーい」
死骸をツンツンしている小妖精に言う。エメルキアは死骸に近づくと手を添えて変形させる。四角い形にして固めると意外とコンパクトになった。
「見た目なりに重いけど」
「一人だと、一匹狩って持ち帰るのがぎりぎりです。今日はもう二匹くらいは大丈夫ですか?」
「問題なさそうだ。背負ったままだと戦いにくいが、脇に置いとけばどうにかなる」
一時間ほど掛けてもう二匹確保し背負い籠に入れた。トカゲの干し肉に皮膜や皮と満載である。お陰で摘んだスパイスは紐で括って腰にぶら下げて帰ることになる。
「重くないですか?」
「いいって。力仕事は俺の担当って約束だろ?」
案じる少女を諌めながら帰路につく。
「目的の流体金属操作はやっぱり不発だったけどな」
「ごめんなさい。当てが外れました。感覚的なものなので、生きてる状態を見ればどうにかなるかとも思ったんです」
「いい、いい。面白いもんが見れた」
流体状とはいえ、ボディを伸縮させて移動するメタルスライム。しかも、一部を尖らせて伸ばしたりもできる。正輝はその様子をしっかりと観察した。
(大体仕組みがわかってきた。魔法で動いてるって言ってたが、こいつはちょっと違うな。あれは磁力操作)
実は武器に使っていた棒を死骸に近づけてみている。すると、わずかではあるが変形して膨らみを作った。トゲを弾いて摩擦を起こしていた棒は幾分か磁化していたのである。
(磁力を使って自在にボディを変形させる。それがメタルスライムの行動方法。筋肉とか動かす仕組みもないのに動くのがおかしいと思ったぜ。全部が流体金属製なんだからなにか秘密があると踏んだが正解だった)
成果がある。なんでも不思議な魔法で片づけるのは彼の性に合わない。実際にはなんらかの力が働いているはずなのだ。
「生憎と、俺には磁力操作の適性はなかったみたいだけどさ」
「どうしたのです?」
「いや、独り言。ルキが思ってるほどしょげてないから安心していい。知ってることが増えるほど、これからの工夫に役立つからさ」
正輝は少女に親指を立ててみせた。
次回『パムール島の暮らし(4)』 「糸の木? 木に糸がなる?」




