パムール島の暮らし(2)
正輝たち二人で森の道なきところを歩けば飛びヒルを舞いあがらせることになり、自然と捕食者の飛びトカゲを呼び寄せる結果となる。よく観察してみれば、大きさの大小から形まで様々な種類がいるのがわかる。中には尻尾を含めないで40cmはありそうな大物も。
(こいつくらいのサイズなら、小さな飛ばないトカゲまで食ってそうだ)
食物連鎖の中間あたりは境目が曖昧である。
やはり、大型になるほど前脚が発達していて広い被膜を蓄えている。広げて飛ぶさまはなかなかに凶悪であった。そのくらいの面積でないと空中で舵を取れないのだろう。
鳥の姿はまったく見てない。この世界では鳥に進化しなかったトカゲの仲間が中型から大型生物の代表格として闊歩しているらしい。見た目はトカゲだが、恒温動物には進化していそうだ。
「迂闊に飛びだすなよ、ロナ。あいつにガブッとやられるぜ」
大きめのトカゲを指して言う。
「大丈夫だもん。あんなの怖くないし」
「ほんとかー?」
「はい、小妖精のほうが強いですので。もし、捕食されるようだととっくに消えてます。数では圧倒的に負けてるから」
実際にロナタルテが飛び立つと、反射的に大きな飛びトカゲが襲ってきた。しかし、フィギアサイズの小妖精が空中で腕を振りおろしただけで、離れた場所の飛びトカゲが頭を殴られたようなモーションをして地面に叩きつけられる。
「勝ちー!」
誇ってポーズを取るロナタルテ。
「魔法で勝ってしまいます」
「なるほどな」
「あれを捕まえてください。大事な獲物です」
(魔法……、特になにも見えなかった。アクションに対して遠くの場所で効果を発揮してる。例えば、風の魔法なんかは漫画とかと違って目に見えないものなのか?)
正輝が暴れる飛びトカゲの首根っこを掴んで持ってくるとエメルキアは躊躇いもなく流体金属のナイフで頭に一撃、とどめを刺す。死んだトカゲは戦利品として彼の背中の籠に収まった。
「やっぱ、それ、便利だよな。俺も使えるとベストだったのに」
「結構試したんですけどね」
エメルキアは今日、広口の革袋にメタルスライムの死骸、流体金属を入れて持ち歩いている。この金属は生活の様々な部分、特に食器には多用されていた。
スプーンやフォークなどのカトラリ、皿やカップなどの器もこれで作る。見た目は銀食器のようで美しいし、汚れは流体に戻せば浮くので簡単に取り除けて衛生的。
「俺が持ってると二時間くらいで魔法の効果が切れて流体金属に戻ってしまうんじゃな」
「わたしが作れるからいいんじゃないですか?」
「ちょっと不便だ。そのうち考える」
自衛や加工、調理の道具まで少女におんぶに抱っこというのは如何にも情けない。いずれ金属製ナイフくらいは入手したいものである。
「トカゲは結構狩りましたね。嵩張るので処理しましょう」
「処理?」
「使う部分と使わない部分に分けて持ち帰るんです。メタルスライムの死骸は重いのでそれも持ち帰らないといけませんし」
荷物は少ないに限ると言う。
この世界には各種ファンタジーコンテンツとかで見られるアイテムボックスみたいな便利な能力や道具がないようだった。どうせ魔法が使えるなら真っ先に欲しい種類だけに残念である。
「被膜は特に便利で、マサキのボトムスに使えると思います」
「伸縮性あるもんな」
「被膜と繋がるあたりまでは非常に柔らかなので、切り取って分けてください」
エメルキアの作業を見習って大きめな飛びトカゲの被膜を集めていく。あとは、それ以外の皮を剥ぎ取る。そこは上着に使うそうだ。
「足や背中の肉はここで水気を取って干し肉にします。解体したら持ってきたスパイスを振ってください」
「これが意外と美味いからなんとも」
肉類はほとんどトカゲのもので、スパイスが効いて本当に美味しい。
「マサキの世界だと食べないんですか?」
「ほとんどな。でも、俺は背骨のある生き物なら大概は食べれると思ってる。実際に美味かったし。ただ、前に話した虫は駄目だ。絶対に食えん。ここのヒルもできれば食いたくない」
「そうですか。地方によってはヒルの干物を野菜と炒めたものとかスープなんかは名物になってますけど」
「わかる。わかるんだ、貴重なタンパク源なのは。でも、生理的に受け付けない」
虫を含め、イモムシだったりミミズだったりを食べる食習慣があるのは否定しない。ただ、自分は遠慮したいだけ。
「メタルスライムを食べる習慣がないのだけは救い」
「これは食べても栄養にならないそうです」
食べても害にはならないが、見た目どおり金属なので栄養として吸収されない。流体金属を道具として使うために狩られるらしい。
(島には人間はいないのに、ルキは妙に島の外の社会のことを知ってるんだよな。聞きにくいけど、なんか事情を抱えてそうだ)
本人が言いだすまで待つべきだろう。
「干物にしてないの焼いて食ってみてもいい?」
「いいですけど、しっかり火を通してください。寄生虫がいます」
「っと、そいつは確かにヤバそうだ。腹が痛くなっても医者もいないもんな」
「ある程度なら、わたしが治してさしあげられますけど」
少女に火を起こしてもらい、正輝が切り分けたトカゲ肉を焼くといい香りが漂ってきた。
次回『パムール島の暮らし(3)』 「任せとけ。ちょっとばかり心得がある」




