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少女装鎧ジノグラフ  作者: 八波草三郎
鴻ノ木正輝

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パムール島の暮らし(1)

 二週間ほどですっかり島の暮らしに馴染んでしまった正輝が家でくつろいでいると、エメルキアが腕いっぱいに果物を抱えて戻る。慌てて立ちあがって器を持っていく。


「どうしたんだ、これ?」

 少女はくすくすと笑う。

「だって、マサキがこのあたりの小妖精(リトルエルフィン)に精気を与えてしまうんですもの。吸われなくなった果樹はこうして実りで返してくれます」

「あー、余裕ができてきたからいっぱい果実がなるってか」

「味も悪くないはずです」


 少女が汲み置きの水で果物を洗っていく。珍しく台所までついていった彼が眺めていると、脇の器に手を伸ばした。


「ストーップ!」

 正輝は慌てる。


 器の中には金属光沢を持つ液体が入っていた。知るかぎり、そんな金属を一つしか知らない。


「駄目だろ、水銀になんて触ったら身体を壊す」

「水銀?」

「これ、違うの?」


 エメルキアは無造作に液体の金属に指を浸すと、ゆっくりと持ち上げた。指がつまんでいるのは全体がきらきらの金属光沢を持つ果物ナイフだった。

 持ち換えると洗った果物を切り分ける。種の部分を取り除いて彼の口に押し込んできた。齧ると、甘酸っぱい果汁が口いっぱいに広がる。


「いっぱい食べて精気を蓄えてくださいね」

「美味い……、じゃない! それ、なんなんだよ」

 液体状の金属らしきものを指さした。

「なにって、メタルスライムの死骸ですけど」

「メタルスライム!? 変換されるですと!?」

「え、マサキの世界にはメタルスライム、いないんですか?」


 二人して目を丸くする。ただし、なにに驚いているかは全く違っていた。彼はどう答えればいいものか困る。


「なんていうか、ゲーム?」

「はい、遊戯(ゲーム)ですね」

 幸い変換される。

「その中に出てくる想像の産物でしかないんだけど」

「いないんですね。では、どうやって道具を作るんです?」

「メタルスライムで道具を作る? その考えが俺には理解不能なんだ」


 カルチャーギャップに苦しむ。なんとなく理解してきたつもりなのに、唐突に壁にぶち当たった。


「すると、その果物ナイフはその液体の中に沈んでたんじゃなくて、液体から作ったってこと?」

 エメルキアはさも当然のように頷く。

「魔力を流すと想像どおりに変化してくれますよ?」

「それって、もしかして俺にもできる?」

「できるんじゃないでしょうか」


 恐る恐る液体に指を近づける。表面に触れるとすごい表面張力で指の形に沈んでいった。目の前にサンプルがあるので果物ナイフをイメージしてみる。少女がやっていたように、ゆっくりと指を持ち上げた。


「できない」

 指にはなにも残らず、がっくりと項垂れる。

「え、あの、人には得意不得意があるので」

「俺、下手なんだ」

「お、おかしいですね。人間にも普通にできていたことなんですけど」

「下手なんだ」

 余計に落ち込んだ。


 彼の知るかぎり、こういうケースだと、すごい魔力の持ち主なのか、あるいは不遇だったりするのが普通。正輝は後者らしい。


「だよな。俺、トラックに轢かれたりしてないし神様にも会ってないし」

「なんのことだかわかりませんけど、わたしたちが魔力操作が得意なのは間違いありませんので自信を失わないでください」

「だってさー」


 これではまるで「ヒモ」である。エメルキアに食べさせてもらっている状態だ。力仕事など率先して手伝うし、精気も供給しているので持ちつ持たれつではある。しかし、生活能力がないというのは男として情けなく感じてしまう。


「だったら、明日、メタルスライムを狩りに行ってみます? 経験すると感覚が掴めるかも知れませんし」

「狩るのかー。そういえば死骸って言ったもんな。これってスライムの身体なんだ」

「行きましょうね、マサキ。いっぱい栄養つけておいてください」


 目に光を失った正輝の口にエメルキアが必死になって果物を押し込んできた。


   ◇      ◇      ◇


 翌朝目覚めると、隣でエメルキアが正輝の寝顔を覗き込んでいた。最近はとみに朝、少女の肌艶は芳しい。満足と言わんばかりにツヤツヤと輝いている。


「ごちそうさまです」

「なんだか、いかがわしいからやめれ」

「ほんとなのにー」


 身を起こすと彼はパンツ一丁である。エメルキアも下着だけだ。彼女の栄養補給のためとはいえ、倫理観が崩壊しそうになって頭を抱える。


「どうしたのです?」

「いやー、そろそろ服をどうにかしないとなって」

「そうですね。ただ、布を編むのも手間なので」


 自給自足の原始的ともいえる暮らしである。どこかに行けば布が手に入るというものでもない。


「まずは素材か。やっぱ、動物の皮系が手っ取り早い?」

「ですね。加工はわたしができます」

「厳しいなー」

「マサキの服を変換していいなら、下着(パンツ)上着(シャツ)を何着かなら作れそうですけど」


 エメルキアもあまり多くは洗い替えを持っていない。そこから捻出してもらうのは心苦しい。なにかの繊維から布を作るとなると時間が掛かるようだ。


「そっちの線でいくか」

「じゃあ、今日は皮の素材も狩って帰りましょう。剥ぎ取れば、あとはわたしが乾燥とか形状変換とかします」

 裁縫は免除されそうである。

「皮って?」

「飛びトカゲですね。ついでに肉も取れますし」

「やっぱ、トカゲ肉だったのかー」


 覚悟していたが、遠くを見つめたくなる正輝であった。

次回『パムール島の暮らし(2)』 「あいつにガブッとやられるぜ」

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