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第4話 神様も見ていない

 オンラインカジノで全てを失い、世界が遠ざかっていった。


 私の周りからは人も金も消えて、救いが欲しいとさえ思えなくなっていた。


 そんなとき、団地の前で、見知らぬ女の人が頭を下げてきた。

「お困りごとありませんか?」 宗教の冊子を手に、やけに優しい声。

「ご近所の皆さんと聖書を読む会があるんです」「お話だけでも」 

 断ろうとしたけれど、その“優しさ”につい足が止まった。


 誰かに悩みを聞いてもらえるだけで嬉しかった。

 最初はただの雑談のつもりだったのに、

「何か辛いことがありましたか?」と優しく言われると、

 気づけば、カジノの失敗もマルチで失ったものも、全部こぼしていた。


 彼女たちはどこまでも親切だった。


「あなたの苦しみは、神様がきっと見てくださっています」

「ここには仲間がいます」「一人じゃありません」

 お茶と手作りクッキー、歓迎の拍手。

 “仲間”“家族”“奇跡”――その言葉だけで、心の穴が少しだけ埋まる気がした。


 集会で証しが始まる。

「祈りで借金が消えた」「家族が健康になった」「使命がある」

 体験談が次々と披露される。

「あなたは特別です」と言われるたび、

 本当は“金を差し出す自分”が見下されているのだと、どこかで分かっていた。


 それでも、その“特別”という響きが、どうしても欲しかった。

 やがて献金を求められる。「感謝の気持ちだけでいいんですよ」

 最初は千円だった。

 みんなの前で財布を出す手が、なぜか誇らしかった。

 だんだんと金額は増えていった。

「神様は努力した人を必ず見てくださる」「救われた人だけが奇跡を受け取れる」

 そう言われるたびに、財布の中身が減っていく。

 “救い”の正体が、また金だったと薄々気づいても、私は、やめられなかった。


 もう何も信じられない自分が、"神様"という目に見えない何かにすがることでしか生きていけなかった。

 救いなんて、本当はどこにもないのに。


 それでも――すがるものがある限り、私はまだ立っていられる気がした。

「今月は特別献金の月です」

「この機会を逃したら、神様の恵みを受けられません」

「皆さんの信仰が試されています」

 みんなの前で涙を流す自分がいた。


 誰かに見てほしい、神様にだけは見捨てられたくない――

 そんな浅ましさが、心の奥でじくじくと疼いていた。


 でも、金を出すしかない。

 出さなければ、また一人になる。

 出さなければ、見捨てられる。

 出さなければ、救われない。


 家に帰ると、虚しさだけが残った。

 それでも明日もまた集会に行く。

 明日もまた献金する。

 明日もまた泣く。


「あなたの信仰は素晴らしい」

 そう言われるたびに、もっと金を出したくなる。

「神様があなたを特別に愛してくださっています」

 そう言われるたびに、もっと金を出したくなる。


 私は特別。

 私は愛されている。

 私は救われる。

 金を出し続ける限り。

 カードの請求書を見て、現実に戻る。


 でも、また集会に行く。

 行かなければ、また一人になる。

 行かなければ、見捨てられる。

 行かなければ、地獄に落ちる。


 神様も見ていない。

 でも、私は見てもらいたい。

 誰かに、何かに、見てもらいたい。


 たとえそれが嘘でも、騙しでも、金目当てでも。

 見てもらえるなら、それでもいい。

 見捨てられるよりは、騙され続けた方がまだ楽だった。


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