王女セレスティアの真意──“虚無神”計画と、歪んだ愛
冥たちは《リリス》からの帰還を果たし、王都アルヴェリスへと戻った。
重傷を負ったティナ、精神的に不安定なルミア、そして未だ身体の安定を取り戻していないフィーネ。
全員が疲弊していたが、冥の目だけは、鋭く王城の玉座を見据えていた。
──セレスティアが、すべてを知っている。
──そして、最初から俺を“そこ”へ導くために動いていた。
冥は、真実を確かめるため王女の間へ。
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王女の間──“虚無神”の計画
王女セレスティアは一人、静かに立っていた。
「おかえりなさい、冥。よく、ここまで来たわね」
冥は即答した。
「最初から俺を『虚無神』にする気だったんだろ」
セレスティアは、微笑を絶やさないまま頷く。
「この世界には、“世界法則を超えた存在”が必要だった。
それは人でも、魔族でも、神でもない──“虚無”そのもの。
だから私は、“最も適した器”を探し、あなたに辿り着いたのよ」
冥の拳が震える。
「俺のことを、“人間”として見たことは……?」
セレスティアは、ほんのわずかに寂しげな笑みを浮かべた。
「あるわ。あなたを“男の子”としても、“運命の存在”としても。
でも、最優先されたのは“王国の延命”。
私は王女として生きてきた。たとえそれが、あなたを犠牲にすることでも──」
冥は静かに言った。
「……それでも、俺は“あんた”を憎めない」
「……どうして?」
「それが“人間らしさ”だから。
それを選べる俺は、きっともう“器”じゃなくて、“俺自身”なんだ」
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セレスティアの過去──歪んだ使命と願い
セレスティアは語り始めた。
彼女が幼い頃から、虚無に関する知識を叩き込まれ、家族も友も持たず育ったこと。
唯一、研究所にあった“冥の幼少期の記録”にだけ心を動かされたこと。
「あなたが……一度、壊れて、それでも“泣いていた”映像があったの。
私、そこで初めて“人間の心”というものを知った気がした。
それ以来、私はずっと、あなたに執着していたの」
それは、“恋”にも似た感情。
だが決して、報われるものではない歪な想い。
「あなたが“神”になれば、私の存在は終わる。
それでも……その姿を、見届けたいの」
冥は、ただ一言、答えた。
「……なら、一緒に来い」
セレスティアの目が、見開かれた。
「俺は“神”になんかならない。俺は俺のまま、この世界をぶっ壊して、作り直す。
あんたが本当に守りたかった“理想”ってやつを、俺が勝手に継いでやるよ」
セレスティアは、微笑んだ。
「……最低で、最高の男ね、あなたは」
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そして──虚無の門、開かれる
その夜、世界の法則を越える兆しとして、天の裂け目《虚無の門》が出現。
そこから放たれる“神格存在”たち──この世界の支配者、**《古き神々(オールドワンズ)》**が目覚め始める。
冥は、剣を掲げて言う。
「この世界を選ぶのは、神じゃない。俺だ」
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サブエピローグ:フィーネの呟き
冥の寝室の隅。静かに目を閉じるフィーネが、小さく囁いた。
「冥……もし、あなたが“神”にならずに済んだら……
私は、あなたの隣にいられるのかな……?」
彼女の瞳には、まだ不安と愛が揺れていた。
次回予告
第26話:世界の終わりの始まり──古き神々との戦端




