冥と影──“自分”という存在を懸けた戦い
──模造冥との戦いは、冥にとって過去との対決でもあった。
崩壊するリリスの最深部。闇の中で、二人の“冥”が剣を交える。
「感情……絆……選ばれた女たち……そんなものに、価値はない」
模造冥の斬撃は重く速く、狂気を帯びていた。
「俺は“選ばれなかった側”だ。感情を捨てたことで、最強になった」
冥は防ぎながら、静かに反論する。
「お前は、“捨てた”んじゃない。“奪われた”んだ。……だとすれば、俺がお前に返してやる」
剣が衝突するたび、空間が軋む。
だが、そのとき──背後から悲鳴が響く。
「っ……冥! フィーネが……!」
振り向いた冥の目に映ったのは、苦しみながら膝をつくフィーネだった。
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フィーネの異変──虚無の器の“代償”
フィーネの身体が透け始めていた。
虚無の因子が制御を超えて暴走し、“存在そのもの”が薄れていく。
「私、たぶん……限界、なんだと思う」
フィーネは笑った。穏やかに、でもどこか寂しげに。
「もともと、私は“あなたを安定させるために”創られた存在なの。人間じゃないの。記録にもあったでしょ? “虚無因子制御の実験体No.0”──それが、私」
冥の心が、冷たく締めつけられる。
「冥……あなたが安定して、仲間を持って、恋をして……そうやって“人間らしく”なるほど、私は必要なくなる。だから、消えるの」
ルミアとティナが震える声で叫ぶ。
「フィーネ! ダメよ、そんなの……!」
「私は嬉しかったよ。……冥が“選んだ”のが、私じゃなくても」
そのとき、模造冥が静かに言う。
「俺と同じだな。選ばれなかった存在は、消えるしかない」
冥は、叫んだ。
「違う!!」
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冥の“選択”──全てを包み込む力
「俺は……俺の影も、俺の虚無も、俺が“壊してきたもの”も、全部──受け入れる」
冥の全身が光を放つ。
虚無と感情の融合。それは新たな力、《虚無心核》の覚醒だった。
「俺は最強で……最高に、矛盾した存在だ。だからこそ、選べる。誰も切り捨てずに、生きる方法を」
冥の一閃が模造冥を貫く。
模造冥は、崩れながら微笑んだ。
「ようやく……お前になれた、気がする……」
影が消える。
同時に、フィーネの身体の“虚無暴走”も止まった。
「……え?」
「お前は、“俺にとって必要な存在”だ。それだけで、お前は“完全に存在してる”。……だから、消えなくていい」
フィーネは涙を流しながら、そっと冥に抱きついた。
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サブエピローグ:セレスティアの決断
王都。
報告を受けたセレスティアは、静かに席を立った。
「虚無心核が目覚めた……となると、“あの計画”を再始動させるしかないわね」
彼女の背後には、封印された禁書《ミラグリフの書》。
そしてそこに記された、最後の封印語──《時神アゾスの名》。
「冥、あなたにはまだ“真実”を隠している。けれど……それを知っても、私を憎まないで」
彼女は、微笑んだ。
次回予告
第25話:王女セレスティアの真意──“虚無神”計画と、歪んだ愛




