王都暗躍──もう一人の“冥”、影なる虚無
選定の儀から一夜明けた王都。
人々は昨日の戦いの余韻に包まれていたが、その裏で静かに“異常”が起きていた。
魔導塔が一棟、未明に“消失”していた。
爆破ではない。燃えた形跡もない。ただ「存在しなくなった」のだ。
報告を受けた冥はすぐに現場に向かう。
「これは……」
地面に残された黒い印。見覚えがある──虚無の象徴、《歪曲の円環》。
「間違いない。これは“俺”だ。……いや、“俺だったもの”か」
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冥、影の冥と対面する
その夜、冥は自ら囮となり、王都の郊外へ誘い出す。
闇の中に現れたのは、冥に瓜二つの男。だがその瞳に、感情は一切なかった。
「俺の“破壊衝動”……か?」
「──否。貴様が切り捨てた“真の自我”だ。愛だの希望だのに逃げた、弱き器よ」
影の冥は、問答無用で魔力を解き放つ。
《虚無式・因果反転》
周囲の草木が一瞬で崩れ、砂となって消えた。
その力は、冥の持つ魔力と同質。しかし容赦がなかった。
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冥の劣勢と、ティナの乱入
冥の剣が防ぎきれず、地に伏す。
「……くそ、これは……あのときの俺と同じ……容赦のない“絶望”か」
そこへ、ティナが駆けつける。
「冥ッ!」
彼女は剣を抜き、影の冥に立ちはだかる。
「こいつは、私の冥じゃない……! だったら、斬るだけよ!」
「下位存在が。黙って消えろ」
シャドウの魔術が放たれる──が、ティナの剣は、奇跡的にそれを断ち切った。
「どうしてお前が“その剣技”を……」
「冥が教えてくれた。“戦う理由”も、“誰かを守る力”も!」
冥はその姿を見て、再び立ち上がる。
「……思い出した。俺が封じたのは力じゃない。“絶望に流される心”だった」
「なら、今の俺は──もう負けねえよ。誰にも、な」
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影の冥、退却──だが戦いは終わらない
シャドウは、力を引き上げるとすっと姿を消した。
「いいだろう。次は全力で“殺しに”くる。覚悟しておけ、“冥”」
冥は息を整えながら、ティナに言う。
「ありがとう。……今の俺があるのは、お前たちがいてくれるからだ」
ティナは顔を赤らめながら、ぎゅっと冥の手を握った。
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サブエピローグ:ルミアの視線と、動き出す王女セレスティア
遠くの屋根の上から、ルミアが戦いの一部始終を見ていた。
「冥様が“自分自身”と戦ってる……。じゃあ、私は……何と戦えばいいの?」
その頃、選定王妃候補のひとり、セレスティアは密かに動き始めていた。
「“影の冥”……あれが現れるならば、私の手も必要になるわね。ふふ、ようやく舞台が整った」
次回予告
第20話:王妃選定、最終決戦──王族の策略と、ヒロインたちの決意