表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

斯くしてふたりは堕ちていく

作者: ユララ

 鈴虫の鳴き声と共に、少し涼しくなってきた夜風を感じる。

 頬の熱が冷めていくのと同時に、私は空を仰ぎ見て、一息吐く。

「……星、見えないなぁ」

 だから都会の空は、好きになれない。

 ただ空は真っ暗で、何もないようにしか見えないのだから。

 私は前に視線を戻し、日課に戻る。

 走りなれた街中の、人工の明かりが多い場所を走り抜けていく。

 再び頬に熱が集まるのを感じながら、速度は緩めずにそのままゆく——と。ふと、視線を感じた。その方向を見ると、誰かと目が合った。

「……あ」

 私はつい反応し、脚を止める。

 ソイツは私と違う高校の、けれど、小さい頃からよく知ってるヤツだった。

「アレ——やっぱり!」

 向こうはすぐに私の視線を受けて、私が誰か確信した様子で駆け寄って来る。

 ……相変わらず、フレンドリーなやつだ。

「よっ、お久! てか、また痩せたね⁉︎」

「あぁ、うん、まあ」

「会う度に綺麗になってて、マジびっくり!」

「あはは……ありがと」

 ナハハッ! と楽しそうに笑う姿は、小さい頃と何も変わらない。変わらないけど……チャラチャラしたアクセサリーにメイク、派手髪と……装いは随分と変わった。

 男の影響か、友達の影響か知らないけど、あまりこういう見た目は、私は好きじゃない。

 けど、私がとやかくいうことじゃないので、口は噤んでおく。

「あっ、そういえば! おばさんから聞いたよ。陸上、もう少しで優勝だったって!」

「……あっ、そう」

 なんでよりにもよって今、その話をするんだろうか。

 いつもいつも、コイツはわざとやってるんじゃないかというくらい、間が悪い。

 傷心中の人の神経を逆撫でして怒らせては、碌なことにならないのも、ここまで学ばないとなると……もう、どうしようもない。

 相変わらず、デリカシーのカケラもないようなヤツだ。

「残念だったね。でも、次があるし、気持ちを切り替えて——」

「勝手なこと言わないで。もうアレが最後だったの。次なんて……ないの」

 私が俯きがちにそう言うと、流石にこの能天気にも、私の気持ちが多少は伝わったのか……少し、深刻そうな雰囲気になると、彼女は私に近づいて来て、言う。

「えっ、じゃあ、なんで走ってるの?」

「……それは」

 不意にされたその質問に、私はすぐに返答することができなかった。

 なんで走っているのかといえば、日課で……そう、日課だからだ。

「日課だから、当然でしょ」

「日課って、なんで?」

「なんでって……」

「だって、もう走らなくていいんじゃないの? そもそも、なんで日課にしてるの?」

 私はまた、返答ができなかった。

 気付かされてしまったのだ。

 私のこの日課は、陸上部で一番に、大会で一番になる為にしていたこと。

 でも、もうその必要がない。

 そのことに、たった一言で気付かされた私は……急に、何をしたらいいのか分からなくなってしまった。

「私……私には、もう」

「え⁉︎ ちょ、ちょっと⁉︎ なんで泣いてるの⁉︎」

「え——?」

 気づけば私の頬は濡れていた。

 無意識だった。

 急に私の軸になっていたものを失ってしまった気がして、心が追いついて来れなかったのかもしれない。

 それはきっと、今、コイツに自覚させられたからで……コイツが悪いんだと思う。というか、そう思わないとやってられない、と。私は八つ当たり気味に彼女に向かって悪態を吐く。

「アンタのせいよ」

「えぇっ⁉︎ なんで⁉︎」

「何をやればいいのか、分からなくなっちゃったじゃない……アンタのせいで」

 私が服の裾で涙を拭いていると、彼女はいつになく真剣な表情で話す。

「……やることがなくなったって、本当に?」

「え?」

 なぜか彼女は、真剣な、真面目な表情で詰め寄って来た。

「そ、そうだけど」 

 私が肯定すると、彼女はなぜか嬉しそうに言った。

「じゃあ、思いっきり遊べるじゃん!」

「は、はぁ?」

「昔みたいにさ! って言っても、ここは故郷の田舎じゃなくて都会の街だから、やりたいこと、なんでも出来るよ!」

「なんでもって……」

「ほら——行こ!」

 強引な彼女に手を引かれて、私は——夜の街に脚を踏み入れる。

 これまでは校則とか、部活とか、親の言いつけとかを守るために、決して踏み入れなかった場所。そこに身を投じてみた私は、正直、場違いじゃないかとか。私なんかがいていいのかとか。そんなことを思いつつも、キラキラした場所への憧れが、私の中にもあるんだと、自覚させられる。

「ジャーン! まずは〜、洋服!」

 普段来たことのないお店で彼女にされるがまま、私は着せ替え人形にされ、いくつかの洋服を買わされた。ついでに着替えも。薄水色の短パンデニムに白のシャツ。そこに最近よくネットでよく見る、オシャレなデザインの薄手のカーディガン。色は薄桃色で可愛い。

「似合ってるね〜! やっぱり似合うねっ、桃色!」

「そ、そう?」

「うん! じゃあ、次はメイクだ!」

 え、メイクまでするの?

 私はあまり、メイクなんてしたことがない。

 そういうのとは無縁な生活だったし、趣味だって、走るくらいしかなかった。

 元々ぽっちゃりさんだったのもあって、体が変わるのは楽しかったし……でも、いつからか、楽しむ為じゃなく、タイムを競って勝つ為に走るようになっていた。

 きっと、それは私には合ってなかったんだと、今になって思う。だって……苦しかった。いつの間にか、あんなに楽しかったのに、苦しくて、私は——走るのが嫌いになっていた。

「どうかした?」

「あ、いや、なんでもない」

「そ? じゃ、次いこー!」

「うん」

 私たちは並んで街を歩く。

 キラキラした街中を、こうしてオシャレして歩いていると、別人になったような気がして、ちょっと気持ちいい。

「昔はさ〜、田舎道を二人でこうして歩いたよねぇ」

「あ、うん。そうだったかも」

「うろ覚えとかひどっ! でも、二人で都会に進学してさ、こうやってまた一緒に並んで遊べるなんて、なんか奇跡じゃん?」

「奇跡……ではないでしょ」

「いーや! 奇跡! だってこっち来てから私と遊んでくれなくなったし!」

「そんなことは……」

「ある!」

 まあ、確かに、それはそうだ。

 学校も違うし、生きてるカテゴリも違ければ、そうもなる。

 そう考えると奇跡……なのかもしれない。

「あ、着いたよ、ここ!」

 案内されたコスメショップに着くと、さっきの洋服の時と同じく、強引に中に連れて行かれ、店員のお姉さんに買ったコスメでメイクを施してもらった。

 ちなみにもうお金がないと言えば、彼女が出してくれた。

「お金、ありがとう」

「いいよ別に! これくらいなんてことないし!」

「いや、でも」

「これでも高校生にしては稼いでるからね! 気にしないで」

「……それって、パパか——」

「やってないよ⁉︎ 普通にバイト!」

 私たちは店を出て、再び彼女に合わせて歩き出す。

「次はどこに?」

「とびきりオシャレになったし、とりま記念にプリ撮ってからの〜」

「からの?」

「——あんまいもの、食べに行こ!」

 そう言うと彼女は急げ〜! 置いてっちゃうぞ! と、走って先をいく。

 けど、とてもじゃないけど粗末な走りで、すぐに私は追いつく。

「うぇっ、はやっ⁉︎」

「私を置いてける訳ないでしょ」

「ご、ごもっとも……」

 そんな風に戯れ合いながら、私たちはプリを撮って、あんまいものも食べる。

 彼女おすすめの喫茶店で、店内の心地良いソファーに体を埋めながら、私は暖かい紅茶を楽しむ。

「ど? 美味しかった?」

「最高……」

「でしょ〜」

 そうして彼女は不意に、壁に設置された時計を見ると、小さな声で「そろそろ良いかなぁ」と、口にした。

 なんとなく、その言い方と、表情が見慣れないもので……少しだけ、嫌な気持ちになった。

「……今の表情」

「え? あっ、顔に出てた⁉︎」

「うん? 何が?」

「いいえ何でも! で、表情が、どしたん⁉︎」

「いや……なんか、悪女っぽかったなって」

 私がそう言うと、彼女は否定もせず、徐に席を立ち上がった。

「会計しちゃおっか」

「あぁ、うん」

 なんとなく誤魔化されたような気がするものの、私はもうすでに、彼女との時間に夢中だ。

 次は一体、どんな楽しいを体感させてくれるのか。

 そんな期待を胸に、私は店を出てすぐ、彼女に訊く。

「ねぇ、次はどこに——」

「一番、良いとこだよ」

 やや食い気味にそう返してきた彼女は……やっぱりどこか、雰囲気が違うように見えた。

「じゃ、行こっか!」

 私は、彼女の後に着いて行った。

 これまでよりも、会話が少ない気がした道中。

 私は特に変に思うこともなく、気がつくと——

「今日はここで泊まろっか!」

「泊まりって、え⁉︎」

「いやだった?」

「いや、別に良いけどさ……お金は大丈夫?」

「大丈夫大丈夫!」

「そう……あと、なんかこのホテル、やけに派手だね」

「そうかな? 普通じゃない?」

 どこか釈然としない気持ちではあったが、急な泊まりとはいえ、楽しみではないといえば嘘になる。

 色々な料理の写真が載ったメニュー表からもう、目が離れない。

「そういえばまだだったね、晩御飯。何か食べる?」

「いいの?」

「もちろん! あ、でも——」

 私は座っていたソファーに押し倒される。

 何が起きているのか分からないまま、私は彼女に馬乗りになられてしまう。

「——先に、こっち」

「こっちって——」

 私の口が、防がれる。

 そして、気がつくと私は……口の中を彼女に蹂躙されていた。息をする暇もないほどに。

「ぷはぁ! な、なんで……」

「なんでって?」

「——気づいてたの?」

 私が走り始めたのは、痩せるため。

 それは、好きな人に綺麗って褒めて欲しくて。好きになって欲しくて、始めたこと。

「知ってたよ、全部」

「そんな、いつから……」

「割と、小さい時からだよ。ずっと、一緒だったから。私は最初は姉のように、親友として接してたけど……でも、気づいたら好きになってた。絶対に誰にも取られたくないって思うようになってた。距離ができてからはどうしようって思ってたけど……今日、またこうやって、触れることができて、本当に嬉しい」

 また、息が止められる。

 次第に内から湧き出る歓喜と、熱に当てられた情欲が、私の思考を染め上げていく。

 体を焦がすような熱が冷めてしまわないように、私は強く、彼女を抱きしめた。

 

 

初心忘るべからず。

気持ちを大切にできる人になりたい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ