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祈りの鳥6

 ――全然慣れない。

 自分のしていることに為す術なく立ちすくんでいた。その時、空に昇るのをためらい、拒絶し、強張る魂の群れの中で一つ、上昇に負けじと赤く燃え上がるものが見えた。

 ここに来るまでの道のりで、俺の指に触れてきた、あの魂だ。

 あれは……やり直したがっていた。他の紫色の魂とは違って、赤い、ただの罪人に戻りたがっていた。生きたいという欲はあんなにきれいな赤なのか。

 さっきは戸惑っていたが、今はもう紛れもない。強く発光して、俺に気づいてもらうために必死に魂を燃やしている。

 狂おしくて手を伸ばさずにはいられない。

 それは周囲で悶える紫の魂に何度もぶつかりながらこちらに向かってくる。俺はあの魂を受け止めて、シロキに渡そう。

 そして「おい、間違えるなよ、こいつ鏡の地獄に来る魂じゃなかったぞ」と出来るだけ明るく言って突き返してやろう。

 あいつは困った顔をして、しばらく自信を無くすかも知れないが、それでもいつものように「ごめんね」と笑って神様の務めを果たすだろう。珍しくシロキ自身が判別をし直すかも知れない。あいつの鏡に映されても、今のこの魂なら大丈夫だ。

 ――俺は初めて魂を救うことができるかも知れない。

 悲し気に浮かんでいた月が、今、希望に満ちた光をまとって見える。

 俺はあの魂を通すためだけに湖の周囲に張った鏡の檻を、少しだけ溶かす。

 あの魂は温かいだろうか。赤く燃える魂にちゃんと触れるのは初めてだ。さっきは指先に触れただけで直ぐ色を変えて離れてしまった。

 この感情はどうしたら良いのだろう。

 物凄くその温度を確かめたい。湖の中央から群れを掻き分けて移動してくる赤い魂が、少しずつ少しずつ大きくなる。

 もどかしいが、それは確実に近づいている。

 赤い魂が手の触れそうな所へまで来て、俺が腕を伸ばしたその瞬間だった。

 地獄の空が月を押しのけて開いた。

 いつもは鏡の檻の中で細切れになった魂が、力尽きて空に昇るのを待つのに。湖の上に三角形に小さく開いた昼間より明るい空洞がみるみる大きく広がり、見覚えのある巨大な白い手が伸びた。その繊細な指先を、俺は良く知っている。

 俺やシロキを作ったあの指。

 何度も何度も俺をなぞっていた。そして青いガラス玉からすくいあげたあの指だ。

 指の持ち主が空の隙間から顔をのぞかせた。ゆっくりこちらを向く。いつぶりに作成者と目が合っただろう。いつも近くで見ているようで、長い間忘れていたその目。

 ――作成者が何をしに……

 その時、時間が逆行するような音が鳴り響き、一瞬にして全ての魂が極楽に引き込まれた。俺が手にしそうだったあの赤い魂も。 

 どうして……築いた鏡が割れる音が広い湖中に鳴り響き、我に返った時には月すら消えた暗闇と静寂の中に独りだった。


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