祈りの鳥2
鏡の門を眺め「今回は何かの間違えで、扉が開いても罪人の魂が一つもない、なんてことが起きないだろうか」そんな空しいことを考えてしまう。
思い切ってシロキにこう尋ねてみようか。
――お前、自分が鏡の地獄に振り分けている魂の罪を知っているか?
知っているはずない。あいつほど感情のわかりやすい神様はいない。しょっちゅう気分が移ろっているからつかみどころはないものの、態度に全部出る。知っていてあんな晴れやかな顔で魂の振り分けをできるわけがない。
鏡がいつものように流れ出し、巨大な滝になる。鏡の地獄を映し出していた扉が一瞬のうちに開放される。目から涙が溢れ出すような、この瞬間だけは好きだ。
「ナイト、この子たちのこと頼んだよ」
シロキの声がした。こいつは魂を引き渡す際必ず一言、悪魔に声をかける。鏡の地獄に対してだけ、ひとつ他と違う事があるのを最近偶然知った。俺に渡す魂だけは「この子たち」と愛おしそうに呼ぶことだ。
「わかった。お前も疲れてるだろ、もう少しだけ頑張れよ」
「うん、ありがとう。僕はカドがいるから大丈夫」
シロキが神様の顔で笑うと、鏡の地獄に魂が流れてきた。
――今回も大勢だな。
わずかな期待は裏切られる。
むしろ以前より増えている気がする。
きれいだ、本当に。他の地獄に行く罪人の魂より別格に美しい。淡い紫色の魂。
欲の罪に燃え焦がれる赤よりずっと儚げだ。シロキが「この子たち」と特別扱いするのも納得だ。あいつは目立たないものの美しさを見つけるのが大好きだから。
シロキは俺の目には頼りなく映ることの方が多いが、カドや人間の魂に接する姿は、ただただ無償に優しい兄のようだ。
俺のきれいな神様は、この魂の群れの捉えがたい魅力に心を奪われているはずだ。
扉が閉まり、そのまま地獄を映す壁に姿を変えた門に背を預け、俺は夜と雪を戸惑いながら照らす紫の魂を見上げた。
いつものように、次の日の夕方までたっぷり時間を使い、一つ一つの魂に触れた。
他の地獄では今頃悪魔たちが判定で大忙しだろう。――俺は判定をしない。その必要がないから。なので、時間をかけるのは単に魂と向き合うためだけだ。
魂たちに話かける。お前たちを判別した土地の神様も、ここへ連れて来た鏡の神様のことも悪く思うなよ。あいつらは何も知らないんだ。恨むなら俺だけでいい。
それにしてもこの魂たちの願いは悲しい。




