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水の地獄4

 あの時、五分後に全て消したはずの炎を、一つ消し忘れたのだろうか……。何時間、目を閉じて波の音を聞いていただろう。瞼の外に明かりを感じ、目を開くと球体の炎が、青紫色の空を、その周囲にだけ朱を引き連れ、水面近くに力強く浮いている。

 ……朝か。それが太陽と気がつくまで少し時間がかかった。太陽は海に線を引くように真っすぐな光を放ち、身体で感じられる早さで上昇していた。

「カド、太陽がきれいだ、見てるか?」

 海の方に視線を向けたまま周囲に手を伸ばすが、温かいものに触れない。

 俺は急に不安になり立ち上がった。崖の先端に近い場所で、海を背に遠くの山の方を見ながら一人で立つカドの姿が見えた。

 良かった――。風に乱れる髪と着物の裾が踊ってきれいだが、あいつ、足元が危ないぞ。

 俺は崖の方へと歩き出した。

 驚かせないよう、何歩も手前から静かに声をかけようとした時、

「月がかわいそうだ」

 カドの声が岩に当たる波と同化して聞こえた。

 ざわっと空気が揺らいだ。

 カドの視線の先を追うと、空に白く顔色を失いながら、朝に呑まれていく月が浮かんでいた。

 視線を戻すと、カドが俺を真っすぐに見ていた。

「こっちは危ないよ、下は海なんだから」

 感情のない表情が美しくて、ぞくりとした。 知らない顔だ。

「お前、誰だ?」

 風がまたカドの髪を乱して顔を隠す。

「え? エンド、寝ないくせに寝ぼけてるの?」

 髪を手で押さえながらこちらに歩いてくるカドがいつもの顔で笑った。


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